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引きこもり令嬢と呼ばれていますが、自由を謳歌しています  作者: 燈華


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兄への報告と相談

馬車が停まった。


「着きました」


外から御者が告げた。

オルトが扉を開けて先に降りる。


「クラウディアお嬢様、お手を」


すっとオルトが手を差し出した。


「ありがとう」


オルトの手を借りて馬車を降りる。

その後でキティも素早く馬車を降りた。


「ありがとう」

クラウディアが御者に礼を言えば、彼は頭を下げた。

クラウディアは歩き出した。その後ろをキティとオルトが歩く。

屋敷に帰ってきたとほっとしつつ忘れずに対処しなければならないことを頭の中で整理する。


モーガン家の領地に兄共々招待された。

兄に話を通しておくなら早いほうがいいだろう。


忙しい兄とはここ数日まともに会っていなかった。

遭遇するのを待っていたらいつになるかわからない。

それなら会いたいと言伝(ことづて)なりなんなりしておいたほうがいいだろう。


出迎えてくれた執事長に訊く。


「お兄様は今日も遅いのかしら?」

「本日はそれほど遅くならないとおっしゃっておられました」

「そう」

「クラウディアお嬢様、若様に御用事がおありですか?」

「ええ、少し話したいことがあって」

「ではお帰りになりましたら、そのことをお伝えしておきます」

「ありがとう。お願いね」

「承知しました」


執事長が頭を下げる。

クラウディアはキティを連れて自室へと戻った。



*



今日は久しぶりに兄と夕食を一緒に取ることができた。

シルヴィアはセルジュと食事で両親は付き合いのある家の夜会に出席している。

兄がいなければ今日は一人での食事になるところだった。

兄が久しぶりに早く帰ってきてくれたことはクラウディアには幸運だった。


夕食中はモーガン家のことについての話題には触れなかった。

兄からも訊かれない。

真面目な話は夕食時の話題としては少々不適切だ。

だから明るい話題に終始した。






夕食を済ませた後でクラウディアは兄に声をかけた。


「お兄様、お話があるのですが、お時間をいただけますか?」

「今日はモーガン家に行っていたんだよな? 何か問題があったのか?」

「いいえ、そういうわけではないのですが……」

「わかった。そうだな、部屋に来るか?」

「はい」


そのまま二人で食堂を出て兄の部屋へと向かう。


「お兄様のお部屋に行くのは久しぶりですね」

「ん? ああ、そうだったかもな」

兄も領地にいた頃はよく部屋に遊びに行っていたものだ。

といっても子供の頃の話だ。


領地の屋敷ならともかく、王都邸では兄の部屋は離れている。

距離が離れていると行き来は少なくなる。

だから王都邸で兄の部屋に行ったのは数えるほどしかない。


「まあ、俺の部屋には特に興味を引くものはないだろうからな」

「逆に何があるのか気になります」

「そうか? 別に面白いものなど何もないぞ」

「それは行ってみないとわかりません」

「……部屋の探索はするなよ?」


何か隠したいものでもあるのだろうか?

ちょっと気になる。

だがクラウディアに他人の隠したいものを探り出す趣味はない。


「わかりました」


兄はほっとしたようだった。

やはり何か隠したいものがあるようだ。

そんなふうに話しているうちに兄の部屋に着いた。


「くれぐれも興味のまま部屋の中を物色するなよ」


兄はクラウディアをなんだと思っているのだろうか。


「そんなことはしません」

「そうか。まあ入れ」


兄が部屋に入っていく。

兄に続いて部屋に入る。


あまり見ないようにしようとは思ったが、壁にかかった絵が目に入った。

壁にはクラウディアがあげた絵が額に入れられ飾られている。

あれは先日あげた虹の絵ではないだろうか。


クラウディアが視線を向けたからか兄が淡々とした口調で言う。


「ああ、せっかくだから飾ってみた」

「そうでしたか」


飾ってくれるのは単純に嬉しい。

クラウディアの顔に微笑()みが浮かぶ。

兄の口許にも小さく笑みが浮かんだ。

キティと兄の従者であるユーグが温かい目でそのやりとりを見ていた。


すぐに兄が表情を整えた。


「そんなことより話があるんだろう? とりあえず座れ」

「あ、はい」


ソファに向かい合わせで座る。


「今日はモーガン家での打ち合わせだったな。どうだったんだ?」

「契約のほうはオルトもいたので無事に」

「それはよかった。それで?」


何の問題が起きたんだ? と視線で問われる。


「デザインが決まらず、また今度伺うことになりました」

「何故そうなったんだ?」

「私にもよくわからないのですが、どのようなデザインのものがほしいのか決めていなかったようです」


兄の眉根が寄る。


「モーガン家らしからぬ不手際だな」


クラウディアも頷く。

クラウディアも珍しいと思ったのだ。

ただ、クラウディア側のミスもあった。


「ですが、私の準備不足もありました」

「というと?」

「参考になるようなものを持っていかなかったのです」


これは本当にうっかりだ。兄に叱られても仕方ない。


「……次はしっかり持っていけ」


珍しく注意だけで済んだ。


「はい」


今度は本当にちゃんとしよう。

後でキティにもしっかりと頼んでおこう。


「それで、クラウディアの話したいこととは何だ? 何かやらかしたのか?」

「やらかしてはいません」


話があると言ったのでそういうふうに思われても仕方ない。


「じゃあ何だ?」


クラウディアは姿勢を正した。


「実はモーガン家の領地に招待されたのです」

「一人でか?」

「いえ、お兄様たちと一緒にどうか、と」

「たち、ということはシルヴィアもか?」


クラウディアは(まばた)きをした。

それで兄は悟ったらしい。


「確かめてないな?」

「申し訳ありません」


兄が溜め息をついた。


「後でアーネストに確認しておく」

「すみません。お願いします」

「ああ」


兄のほうがアーネストに会う可能性は高いだろう。

クラウディアだといつになるかわからず、手紙でヴィヴィアンを通すことになるだろう。

それでは時間がかかる。

こういうことは早くわからないとシルヴィアもセルジュも困るだろう。


そちらは兄に任せるとして、クラウディアは肝心なことを訊いた。


「それでお兄様は一緒に行ってくださいますか?」

「クラウディアだけを行かせる訳にはいかないだろう」

「ありがとうございます」


兄が一緒なら一先ず安心だ。



読んでいただき、ありがとうございました。

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