侯爵のオルトの評価
「では、そろそろ戻りましょうか」との侯爵夫人の言葉に従って戻ってみると、侯爵とオルトは立ち上がっていい笑顔で握手をしていた。
一体何があったのだろうか?
「随分と話が弾んだようね、あなた?」
「ああ。なかなか手強い交渉相手だった」
「胸をお借り致しました」
「そんな謙遜するものではない。オルト殿の能力が高いということだ。誇りなさい」
いつの間にか侯爵は名前で呼んでいる。
「ありがとうございます」
オルトもどことなく嬉しそうだ。
「そんなにですか?」
アーネストは訝しげだ。
「ああ。アーネスト、お前にもいずれわかる。オルト殿と交渉する時は油断しないことだ」
「……わかりました。覚えておきましょう」
「ああ。忘れるなよ。オルト殿は手強い」
「……はい」
侯爵がクラウディアに視線を向けて褒めるように言う。
「オルト殿にはうちに来てほしいくらいだ」
え、それは困る。
その思いが顔に出ていたのか、オルトがクラウディアを見て微かに笑う。
「光栄なお話ですが、お断りさせていただきます」
「そうか。残念だ」
侯爵は残念そうだがクラウディアはほっとした。
オルトがいなくなると本当に困ってしまう。
「私はいつまでもクラウディアお嬢様のお傍におりますよ」
傍に寄ったオルトにクラウディアがぎりぎり聞き取れるだけの声量で告げられる。
完全にクラウディアの心が読まれているようだ。
だがオルトはどこにもいかないと言ってくれてクラウディアはほっとした。
思わず微笑みが浮かぶ。
「……ああ、確かに彼は油断ならない相手のようですね」
アーネストが静かな声で告げた。
クラウディアはきょとんとする。
ヴィヴィアンは何故か楽しそうに微笑っている。
「まあ、頑張ることだ」
「はい」
よくわからないがオルトが認められたということだろう。
それならよいことだろう。
そう納得しておくことにする。
改めてそれぞれ元の位置に座った。
こほんと咳払いした侯爵が本題を口にする。
「それでどんなデザインにしたんだ?」
「決まらなかったわ」
「ん? どういうことだ?」
侯爵は訝しげな表情だ。
当然だ。その話し合いのために別室に動いたのだから。
「わたくしたちの話し合い不足よ。そもそもどういう感じのものが欲しいのかわからなければクラウディアさんもデザインを決められないわ」
侯爵夫人は自分たち側に落ち度があるとしてくれたが、クラウディアの落ち度だ。
「ああ、それは確かに。すまなかったね、クラウディアさん」
「いえ、」
私の落ち度です、と続けようとしたところ、遮るように侯爵夫人が言葉を挟んだ。
「だから後日改めて来てもらうことになったわ。ええ、次の打ち合わせはわたくしたちだけで大丈夫ですから」
「そ、そうか? 私も同席しても構わないのだが」
「あなたの時間が空くのを待っていたらいつ出来上がるかわからないでしょう」
「それはそうだが」
「お兄様も大丈夫ですわ。わたくしとお母様で対応します」
「私は今、残業も休日出勤も禁止されているから時間は作れるよ」
アーネストがしれっと言う。
「アーネスト、お前……」
侯爵はアーネストに対し、悔しそうであり呆れたようでもある複雑そうな表情を向けている。
クラウディアは状況についていけない。
アーネストはクラウディアに向かって微笑いかける。
「クラウディア嬢、私もデザインの打ち合わせに同席しても構わないかな?」
「ええ、構いませんわ」
アーネストを拒否する理由はない。
「お兄様がお忙しくて時間が取れなければわたくしとお母様で進めますからね」
アーネストは苦笑する。
「わかったよ。その時はヴィヴィアンと母上に任せる」
ヴィヴィアンはにっこりと微笑う。
「はい。わたくしたちにお任せを」
ヴィヴィアンの視線がクラウディアに向く。
「クラウディアもそれでいいわよね?」
「ええ、もちろん」
クラウディアはやるべきことをやるだけだ。
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