妹から見た姉の才能
シルヴィアのクラウディア自慢です。
姉は天才だとシルヴィアは幼い頃から思っていた。
クラウディア本人にはまるで自覚はないが。
幼い頃から何度主張しても姉はそんなことないわよと軽く流してしまう。
それがシルヴィアには悔しい。
姉はシルヴィアでは到底及びもつかないレベルで様々なことに長けている。
このハンカチにしてもそうだ。
家族とセルジュのリスは誰が誰だかすぐにわかる。
それぞれの色を纏っているからだけではない。
それぞれが浮かべそうな表情だったり態度だったりをしているからだ。
本当によく見ている。
さらにはそれを表現できるのはそれだけの力量があるからだ。
シルヴィアでは到底ここまでのものは作れない。
それをいくら訴えても姉は取り合ってくれない。
自由に過ごしているからよ、と姉は微笑って言うだけだ。
だけれどそうではない。
もともとの才能とそれを伸ばすだけの量をこなしているからだ。
それは並大抵のことではない。
しかもそれを努力するという認識ではなく、ただごく自然にやっているのだ。
並みの努力では姉の足元にも及ばないだろう。
そのうえ多才だ。
一つのことに秀でている人物はそれなりにいる。
だが姉のように多才でかつそれぞれに秀でている者がどれほどいるのか。
本人だからこそそれが普通のことだと思っているのかもしれない。
それならば自覚がなくても仕方ないかもしれない。
姉は誰かと自分を比べたりはしないので余計自覚しにくいのだろう。
そして自分の才能に無頓着だからこそ、いくらシルヴィアが言っても本気にしてくれないのだ。
世間的にもあまり認知されていないのも一端かもしれない。
一般的にはクラウディアは領地に引っ込んでいる引きこもり令嬢と揶揄されている。
悔しい。
シルヴィアの前で姉の悪口を言われればそれなりに反撃するが陰口ともなるとなかなか難しい。
姉はまったく相手にしていないが、シルヴィアはろくに知ろうともせずに陰口を叩かれるのが我慢ならない。
何にも知らないくせにと思ってしまう。
姉は自分の評価には無頓着だ。
陰口なども平然と聞き流している。
聞き流しているというよりはただ気にしていないだけか。
本当のことだもの、と微笑って気にしない。
気にしないから相手にしない。
それを馬鹿にしていると取る者もいるし、相手にされないと怒ってますます姉の悪口を吹聴する者までいる。
何て身勝手な。
仲良くしたいなら心を開いて近づけば姉は邪険にはしない。
そうして心を開いた者を蔑ろにすることは決してしない。
陰口を叩くなどやり方が間違っているのだ。
シルヴィアはクラウディアの作ってくれたハンカチに視線を落とした。
頬が緩む。
モーガン家は本当にいいところに目をつけたと思う。
姉の刺繍は飾る価値のあるものだ。
シルヴィアもこのハンカチはセルジュに見せた後で額に入れて飾る予定だ。
そうすればいつでも眺めることができる。
姉も気に入らなかったかと悩むことはないだろう。
姉は自分の作ったものに頓着しないので人に気軽に贈っている。
シルヴィアも幼い頃からいろいろなものをもらった。
姉が作ってくれたいろいろなものはシルヴィアの宝物だ。
気軽に使ってね、と姉は言うが、勿体なくてなかなか使えない。
ただ使わないと姉が気に入らなかったかと気にする。
シルヴィアにしたら大事に宝箱に仕舞っておきたいほどのものなのだが姉には通じない。
だから折衷案としてここぞという時に使うことにしている。
そうすると姉も嬉しそうだ。
本当に姉は才能の塊だし、性格もおおらかで素敵でシルヴィアの憧れだ。
そんな姉のことは隠しておきたいとも思うし、みんなに自慢したいとも思う。
何とも悩ましい。
読んでいただき、ありがとうございました。




