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引きこもり令嬢と呼ばれていますが、自由を謳歌しています  作者: 燈華


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妹へのハンカチ、妹のハンカチ

シルヴィアが廊下を歩いているのを見かけてクラウディアは声をかける。


「シルヴィア、ハンカチが仕上がったわ」

「まあ、本当ですか、お姉様! 早速見させてくださいませ」

「ええ。私の部屋に行きましょう」

「はい!」


シルヴィアを連れて部屋に戻る。


「キティ。シルヴィアのハンカチを出してくれる?」

「承知しました」


キティがハンカチを出してくれる間にシルヴィアに座るように促す。

何故かシルヴィアは対面ではなくクラウディアの隣に座った。


「こちらのほうが見やすいので」

「そ、そう」


シルヴィアがそう言うのならそうなのだろう。


「お嬢様、シルヴィア様、お待たせ致しました」


キティからハンカチを受け取ってシルヴィアに渡す。

シルヴィアが慎重な手つきでテーブルの上に広げた。

シルヴィアが口許を手で覆う。

それからゆっくりとクラウディアを見た。


「素敵ですわ、お姉様!」


ハンカチのデザインは、セルジュがシルヴィアに(ひざまず)いて花束を差し出しているのを後ろで家族が見守っているものだ。

もちろんリスの毛の色はそれぞれの髪の色だし、セルジュの瞳の色である青磁色はネクタイに使ってある。


「気に入ってくれたかしら?」

「もちろんです! 想像以上でしたわ。本当にお姉様は天才ですわ!」

「大袈裟よ。でも気に入ってくれたならよかったわ」

「お姉様の作る物が気に入らないなんてあり得ませんわ。明日セルジュと会うことになっているので早速見せて自慢してきますわ」


どうやらセルジュの学校も長期休みに入ったようだ。


「久しぶりにセルジュに会えてよかったわね」

「お姉様、そこではありませんわ」


クラウディアは首を傾げる。


「あら、嬉しくないの?」

「う、嬉しくないわけではありませんわ」


つんとそっぽを向くシルヴィアが可愛い。


「ならよかったじゃない」

「そ、それはそうなのですが、お姉様の作ってくださったこのハンカチを自慢することが主ですわ」

「セルジュと会うのが主でしょう」


どう考えても婚約者に会うほうが主目的で、ハンカチなど話題の一つ程度のもののはずだ。


「いいえ、ハンカチを自慢することが主です。セルジュも絶対に羨ましがって欲しがりますわ」

「セルジュが欲しがるようなら作るのは構わないわよ」

「それは告げるのはやめておきますね」


何故?


「お姉様はこれからお忙しくなるでしょう?」

「私の予定なんてほぼ入っていないようなものよ」

「お姉様にはモーガン侯爵家からのご依頼もおありでしょう」

「それは確かにあるけど」


まだ正式に依頼されたわけではないので余裕はある。


「でもまだだから大丈夫よ」

「いいえ、なりませんわ、お姉様。優先順位を間違えてはなりません」


優先順位と言われても、今のところは依頼が入ることがわかっているだけで何の予定もない。


「セルジュは後回しでよいのです。この後でも機会はあるでしょうから。今はモーガン家からの依頼が最優先事項ですわ」

「それはそうかもしれないけど、まだ依頼もされていないことよ」

「ですが今度モーガン家に行かれるのですよね?」


ようやく日程の目処(めど)がついたと連絡を受けたのは昨日のことだ。


「ええ」

「でしたらそれまでお姉様はお好きなことをなさるべきですわ」

「好きなこと」


思わず鸚鵡返しになってしまった。

割とクラウディアは好きに生きている。


「私は結構好きなことをやらせてもらっているわ」

「お姉様は最近いろいろ引き受けておいでですから」

「好きでやっていることよ」

「でもわたくしもお姉様にこのように作っていただきましたし、お忙しく過ごされていませんか?」

「私の毎日なんていつもこんな感じよ?」

「ですが、刺繍ばかりでは飽きるのではありませんか?」

「そうでもないわね」

「そうですか。ですがセルジュの分は今のところいりません。その分の時間は別のことにお使いくださいませ」

「わかったわ。ああ、でも欲しがったらいつでも言ってちょうだい」

「はい。ありがとうございます」


澄ました笑顔で言ったシルヴィアはたぶん言うつもりはない。

そこで唐突に気づいた。


「ああ、セルジュも私が作ったものよりシルヴィアが作ったもののほうが喜ぶものね。刺繍入りのハンカチは完成したのでしょう?」

「そ、それはもちろん完成しましたわ。明日渡すつもりですの」

「喜ぶわね」

「当然ですわ」


胸を張って言うシルヴィアが可愛い。

クラウディアは頬を緩めた。


読んでいただき、ありがとうございました。

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