絵が趣味の仲間たち
「おおー、ナーシアこっちだ。おっ、クラウディアもいるじゃないか。久しぶりだな」
手を振っているのは父と同じ年頃の男性だ。
クラウディアの腕に腕をかけ引っ張って歩いてきた女性ーーナーシアが手を振り返す。
そこは花が植えられずに芝生になっており、布を敷いて何人もの人がいた。
「クラウディアは昼食を持ってきたかしら?」
今日ももちろんカフェは通常営業だ。
「ええ」
料理長が張り切って作ってくれた。
「よかったわ。是非料理を交換しましょうね」
キティを振り向くと笑顔で頷かれた。
「ええ。うちの料理人の料理は美味しいから期待していて」
「ふふ、楽しみだわ」
「ナーシア、クラウディアたちも一緒に食べられるのか?」
先程の男性ーーモルトがナーシアに聞く。
この二人は親子ほどの年齢差だが仲がいいのだ。
「ええ、昼食は持ってきているそうよ」
「モルトさん、お久しぶりです。ご一緒しても構いませんか?」
「もちろん大歓迎だ」
「ありがとうございます」
話しているうちにもキティとオルト、それにナーシアが連れていた使用人たちがてきぱきと動いて準備してくれる。
「他にも何人かに声をかけたからそのうち来るんじゃないか」
誰が来るのだろう、と考えただけでわくわくとしてくる。
「クラウディアが久しぶりに会う奴らもいるんじゃないか」
「それは楽しみね。さっきも何人かには会ったわ」
「おお、誰に会ったんだ?」
クラウディアは会った者の名を挙げていく。
「何人かには声をかけたな」
それならばもっと話ができる。
クラウディアはにこにこと微笑った。
「御歓談中失礼します。準備が調いました」
キティがそっと声を挟んだ。
「ありがとう」
キティたちはきちんとモルトの敷いた敷布の隣に敷布を敷き、席を調えてくれていた。
ナーシアがクラウディアの手を引き敷かれた敷布の上に一緒に座った。
「お嬢様、まずは喉を潤してくださいませ」
キティがカップに入れたお茶を差し出してくれた。
「ありがとう」
受け取って口をつける。
思っていたよりも喉が渇いていたようであっという間に飲み干してしまった。
すかさずキティがおかわりを注いでくれる。
「ありがとう」
一口だけ飲んで辺りを見渡す。
まさかここでこんなふうにピクニックのようなことができるなんて思っていなかった。
「こんなところがあるのね。知らなかったわ」
当然という顔でナーシアが教えてくれる。
「ここは普段は開放されていない場所だもの」
「そうなの?」
ピクニックによさそうなのに。
開放されていたら利用する人で溢れそうだ。
「ええ。ここは普段は植え替え用の花や道具が置いてある場所よ」
なるほどと頷く。
それなら開放されていないのも、それなりの広さがあるのも納得だ。
「スケッチ解禁日の今日はお弁当持ちでやってくる人も多いから開放されているのよ」
それなら納得だ。
とはいえ、普段からこのようにピクニックをしたいという者もいるだろう。
きっと普段も開放したら賑わうだろう。
ただ資材置場となると普段の開放は難しいだろう。
「でも芝生が敷いてあるのね」
そういう場所は剥き出しの土が一般的なのではないのだろうか?
「見た目の問題じゃないかしら? ここはまだ見える位置だから。きっと奥のほうは土が剥き出しだと思うわよ。そこはさすがに今日も立ち入り禁止でしょうし」
「ああ、そうね」
ナーシアの挙げた理由に納得する。
普段立ち入り禁止区域でも来場者の目に留まる場所と見えない場所がある。
来場者の目に触れるところはたとえ立ち入り禁止区域でも整えておかないと見映えが悪く敬遠されかねない。
逆に見えない場所なら整える必要はない。
ここに置いてあったものもそちらに移動してあるのだろう。
「何人くらいに声をかけたの?」
「知り合いに会ったら声をかけたからわからないわ。みんな声を掛け合っているでしょうし」
「そう」
それは結構な人数に膨らむのではないだろうか?
「クラウディア、お腹空いたのかしら? それなら食べていても構わないわよ?」
「いいえ、大丈夫よ」
「そう? 遠慮しなくて大丈夫だからね?」
「もう少し人が集まってからにするわ」
「本当にお腹が空いたらいつでも食べて大丈夫だからね?」
クラウディアはどれだけ食いしん坊だと思われているのだろうか。
「あ、ありがとう」
多少、ひきつった笑顔になりつつ何とかクラウディアは返した。
読んでいただき、ありがとうございました。




