スケッチ本番
短いです。
クラウディアはキティとマルセルとオルトを伴って庭園の門扉とそれに続く薔薇のアーチを潜った。
今回はエスコートはなしだ。
ここには絵を描きに来ているのだ。誰もそんなことは気にしない。
あちらこちらでイーゼルを立てたり、スケッチブックを抱えたりして絵を描いている人の姿がある。
「お嬢様、走るのだけはお止めくださいね」
「子供ではないのだからしないわ」
「そうですね」
その微笑みが生温かい。
まるで大人ぶる子供を見ているようだ。
残念ながらそんなふうに見られる心当たりは大いにある。
……本当に気をつけよう。
「どこがいいかしら?」
きょろきょろと辺りを見回しながら奥へと進んでいく。
「ここにするわ」
わりと人の少ない一角で一枚目の絵を描くことに決めた。
「我々のことは気にせずに存分にお描きください」
「ありがとう。でも疲れたり飽きたりしたら適当に休憩してちょうだい」
「ありがとうございます」
キティが日傘をクラウディアに差しかける。
「キティありがとう。疲れたら休んでちょうだいね。日傘がなくても大丈夫だから」
「なりませんわ、お嬢様」
キティに即座に却下され、マルセルとオルトも頷く。
「日焼けでもなさればロバート様に外でのスケッチを禁止されてしまうかもしれませんよ?」
キティの言葉はもっともだ。あの兄なら言い出しかねない。
言われても聞く気はないが。
「クラウディア様。キティさんが疲れたら私が替わりますので安心してください」
オルトが請け負ってくれる。
だがそれなら適当なところで引き上げるべきかもしれない。
その思考を読まれたかのようにオルトがすかさず言う。
「我々のことは気にせずどうぞ存分に楽しんでください」
ここで遠慮したところで聞くはずがない。
大人しく甘えることにする。
「ありがとう」
早速スケッチブックを開いて鉛筆を握る。
そこでキティが告げた。
「水彩絵の具のほうも持ってきてありますので」
「さすがキティね」
今日もキティは有能だ。
それなら後で水彩画を描くのもいいかもしれない。
とりあえずはスケッチだ。
クラウディアは真剣な顔で鉛筆を走らせた。
読んでいただき、ありがとうございました。




