スケッチ解禁日の朝
「晴れてくれてよかったわ」
外は文句のない青空が広がっている。
雲一つない青空とはいかなかったが、雲の浮かぶ青空も素敵である。
絶好のスケッチ日和だ。
「そうですね」
クラウディアがのんびりしている間もキティは機敏に動いて準備を調えてくれている。
クラウディアは何もしないようにと先にキティに釘を刺されていた。
「画材はこちらでよろしいですか?」
「ええ」
今日の画材は色鉛筆に決めていた。
兄にコルム通りの文房具店で買ってもらったあの色鉛筆セットだ。
あの色鉛筆はすっかりクラウディアのお気に入りだ。
あの文房具店にはまた行きたいものだ。
領地に帰るまでにもう一度行こう。
そんなことを考えているうちにキティが外出の用意を調え終えてくれた。
出掛ける前に兄に捕まった。
「気をつけて行くんだぞ。キティとマルセルから離れないように」
子供のような注意をされてしまった。
だがここは大人しく頷いておく。
「はい」
「若旦那様、私も参りますので」
そう兄に告げたのはオルトだ。
クラウディアは聞いていない。
ここにオルトがいることも不思議には思っていた。
「オルトも行くの?」
「はい。お供させていただきます」
何故?
「ああ、オルトも行くなら安心だな」
その兄の言葉にきょとんとする。
そんなクラウディアにオルトが説明してくれる。
「ああいう催し物の時は画商などが商品になるものはないかと目を凝らしていますから」
「オルトさんが一緒に行ってくれるなら安心です」
キティは本当に安心している表情だ。
クラウディアは別の感想を持った。
商人の話も聞けるだろうか?
わくわくしていると冷静なオルトの声が待ったをかけた。
「クラウディアお嬢様、今回は商人の相手は全て私がしますので、諦めてください」
「どうしても駄目かしら?」
しゅんとして訊く。
「普段お嬢様が相手をなさっている商人たちとは違いますからね」
ここはオルトの言葉に従ったほうがよさそうだ。
「わかったわ」
残念だがクラウディアが騙されでもしたらオルトたちが叱責されてしまう。
それは駄目だ。
ふと閃く。
「あ、でもスケッチしに来ている方々とお話するのは構わないわよね?」
「ええ、もちろんです。どうぞ存分に」
「ありがとう」
それはそれで楽しみだ。
普段なかなかそういう方々との交流が図れない。
他の人の描く絵も見たい。
わくわくしているクラウディアに兄が釘を刺す。
「あまりはしゃぎ過ぎるなよ」
「大丈夫ですわ」
あまり信用していない目でクラウディアを見た兄はキティに言う。
「キティ、クラウディアがはしゃぎ過ぎたら止めるんだ」
「承知しました」
キティがはっきりと頷いた。
信用がない。
だがこれは今までの積み重ねの結果だ。
クラウディアは余計なことは言うまいとしっかりと口を閉じた。
読んでいただき、ありがとうございました。




