意外な親友の反応
アーネストの手を借りて降り立つ。
今が見頃の季節だからか、それなりに人がいる。
ここは特に花が見事だと毎年話題になる庭園だ。
アーネストの手を借りて降りたヴィヴィアンがきょろりと辺りを見渡す。
「その方はどこにいますの?」
アーネストが辺りを見渡す。
すぐに相手を見つけたようだ。
「ああ、いた」
人待ちをしているような人物はちらほらいる。よく見つけたものだ。
「こっちだ」
アーネストが先導するのについていく。
「待たせたようで悪かったね」
「いえ、時間通りですので」
アーネストが声をかけたのはクラウディアたちと同年代の茶髪に煉瓦色の瞳のがっしりとした青年だった。
その青年の姿を認めた途端にヴィヴィアンの柳眉が跳ね上がる。
「何故貴方がここにいるのかしら?」
普段のヴィヴィアンからは考えられない喧嘩腰だ。
「アーネスト様に声をかけていただいたからだ」
「お兄様、何故この方に声をかけたりなさるのですか!」
「別にいいだろう」
「よくないですわ。何故貴方も断らないのよ?」
「断る理由がないからだな」
随分と親しいようだ。
侯爵令嬢であるヴィヴィアン相手に遠慮がない。
それをアーネストが止めないことから彼も認めているのだろう。
クラウディアは誰だろう、と頭の中の貴族名鑑を捲る。
クラウディアが誰かを突き止める前に彼の視線がクラウディアに向く。
「初めまして、ですね。トラヴィス・コナーと申します」
その名は確かコナー伯爵家の次男のものだったはずだ。
先日貴族名鑑のおさらいをさせられたのが活きた。
……昨日のコレト子爵夫人は漏れたが、同年代を中心におさらいしたからだ、ということにしておく。
「初めまして。クラウディア・ラグリーです」
「存じてますよ」
いかにも対外的な笑みを彼が浮かべたところでヴィヴィアンが割って入る。
クラウディアを背中に庇い、コナー伯爵令息をにらみつけている。
「ヴィヴィアン、にらんではいけないよ。ただ挨拶しただけだろう」
「……はい」
ヴィヴィアンが渋々といった様子で引き下がる。
「トラヴィス殿、妹が申し訳ないね」
「いえ、ヴィヴィアン様はご友人を守ろうとしただけですので気にしておりません」
「ありがとう。ではトラヴィス殿、ヴィヴィアンのエスコートを頼むよ」
「承知しました」
「え、お兄様!?」
「私はクラウディア嬢をエスコートするから。クラウディア嬢、手を」
「あ、はい」
差し出された腕にそっと手を添えた。
「では行こうか」
アーネストが歩き出してしまい、クラウディアはヴィヴィアンを気にしつつも遅れずに彼の隣を歩いていく。
ちらりと振り返ってみれば、渋々といった様子ではあるが、ヴィヴィアンもコナー伯爵令息のエスコートを受け入れている。
ヴィヴィアンの態度とは裏腹にやはり仲はいいようだ。
これなら心配はいらなそうね。
だとしたら、クラウディアはもう庭園を楽しむだけだ。
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