公園への寄り道とちょっとした調査
ヴィヴィアンを屋敷に送り届け、馬車はモーガン邸を後にした。
不意にクラウディアは思い出した。
「お兄様、少しだけ公園に寄ってもらえませんか?」
兄が片眉を軽く上げる。
だが駄目だと言われなかったのでクラウディアは言い募る。
「一周するだけで構いません。気になることがあるのです」
「……わかった。まあ時間があるからいいだろう」
兄がそう言うと兄の従者のユーグが御者席に繋がる小窓を開けた。
ユーグは後続の馬車に乗っていたのだが、ヴィヴィアンを送り届けた後にこちらに移ってきたのだ。
後続の馬車にはモーガン家やラグリー家の護衛たちが乗っていた。
王都で大っぴらに護衛に前後を守らせると目立つのでだいたいどこの家同士でもやっていることだ。
御者に行き先の変更を告げてユーグが小窓を閉める。
「ありがとうございます」
キティに視線を向けると一つ頷く。
「お嬢様、抜かりなく持ってきておりますのでご安心くださいませ」
「まあ、さすがキティね。ありがとう」
「当然のことにございます」
「……お前は一体何をするつもりだ?」
兄が眉を寄せて訊いてくる。
「ちょっとした確認ですわ。危ないことは何もありません」
疑わしげに兄がクラウディアを見る。
説明してもいいが、言葉だけではわかりにくいと思う。
それに兄にやってもらいたいのは、公園内を歩くための付き添いだ。
マルセルたちを連れてクラウディアだけで行っていいのなら兄に頼むことはなかったのだが、先日駄目な理由を説明されたので仕方ない。
「一周歩いてもらえればいいです。それ以上は求めません」
「……わかった」
どうせついたらわかると思ったのか、兄は渋々といった感じで引き下がった。
「どうするんだ?」
公園で馬車を降りると兄が率直に訊いてきた。
「公園内を一周するのに付き合ってくれればいいです」
「わかった」
「キティは記録をお願いね」
「かしこまりました」
本当は自分でやりたいところだがキティに止められていた。
「本当に何をする気だ?」
ここで押し問答をしていても仕方ない。
「行きましょう、お兄様」
「……そうだな」
溜め息とともに頷かれた。
日傘を持っていない右手を兄の差し出す腕に添え、兄ともども歩き出す。
キティがクリップボードと鉛筆を持って斜め後ろを歩いている。
兄の護衛がその隣を歩き、その後ろにマルセルとユーグが続く。
厳戒体制を敷いているわけではないのでこれでいいのだ。
「お兄様、私は木々のほうを見て歩くので前方より人が来ましたら対処をお願いしますね」
「はぁ。わかった」
溜め息混じりでも了承してくれる。
「ありがとうございます」
クラウディアは早速木々のほうに目を向ける。
クラウディアが集中していることがわかる兄は話しかけてこないでくれるのが有り難い。
クラウディアは気になる箇所を見つけるとキティに合図する。
キティはその合図を受けて先日クラウディアが書き写した地図に鉛筆で印をつけていく。
キティはクラウディアより周りが見えるし、いざとなればユーグもマルセルも控えているので大丈夫だろう。
実際誰かとすれ違う時にはさっとクリップボードを隠し、ただ付き添っている侍女の態を取り繕っていた。
そして何の問題もなく公園内を一周した。
「クラウディア、満足か? もう一周するか?」
「少し待ってください。キティ」
キティが書き込んだ地図をさっと渡してくれる。
「ありがとう」
地図に視線を落とせばキティの丁寧な仕事ぶりが見て取れる。
その内容を確認すれば問題はなさそうだった。
「大丈夫です。お兄様、みんなも、付き合ってくださってありがとうございました」
「まあ、お前一人で行かせるわけにはいかないからな」
兄は相変わらずだがキティたちは笑顔だ。
後で何かお菓子の差し入れでもしよう。
「さあ、帰りましょう」
「そうだな」
クラウディアたちは帰途に着いた。
帰りの馬車の中で兄には説明しておいた。
回り回ってまた仕事が増えるな……と兄がぼやいているのが、少し申し訳なかった。
だが放置しておくこともできないのだ。
兄もそれはわかっているのでぽんぽんとクラウディアの頭を撫で、「先に知れただけよかった」と言ってくれた。
後は帰ってまとめてしかるべきところへ送るだけだ。
読んでいただき、ありがとうございました。




