手直しした件(くだん)のドレス
帰宅するとお針子たちが件のドレスの手直しが終わったと持ってきた。
「お嬢様、お待たせ致しました」
「早速試着していただいてよろしいでしょうか?」
「わかったわ。キティ、お願い」
「はい」
「外におります」
マルセルが一言声をかけて部屋の外に出ていく。
キティに手伝ってもらって着替える。
マルセルを部屋の中に呼び戻し、クラウディアは動いてみる。
「あら、先日よりも動きやすいわ」
「はい。少し動きを阻害しているようでしたので調整させていただきました」
「先日のでも十分動きやすかったけど、それ以上だわ。凄いわ。ありがとう!」
お針子たちは誇らしげで嬉しそうだ。
「お嬢様の動きに合わせて揺れる裾が優美ですね」
「キティさん、よく気づいてくれました!」
「私たちの一番力を入れたところですわ!」
「まあ、そうなのね」
そこまで考えてくれて嬉しい。
クラウディアはにこにこと微笑う。
「それにより踊りやすくなっていると思いますわ」
「踊った時に映えるように調整致しました」
先日キティ相手にステップを踏んでみたので考慮してくれたのだろう。
「まあ、それなら少し踊ってみましょうか。最近運動不足だからちょうどいいわ。マルセル、相手を頼めるかしら?」
「俺でよければ喜んで」
マルセルが胸に手を当て頭を下げた。
それから顔を上げてにっこりと微笑った。
お針子たちがおずおずと申し出る。
「クラウディアお嬢様、私たちも見学よろしいでしょうか?」
「もちろんよ。自分たちの目で確認してちょうだい」
「「ありがとうございます!」」
「舞踏室が使えるか確認して参ります」
舞踏室は主に夜会の時に使われる部屋で普段は閉めてある。
時折ダンスの練習などのために開けることもあるが。
「ええ、お願い」
キティが一礼して部屋を出ていく。
「クラウディアお嬢様、どのような刺繍になさるのですか?」
「まだ考えている途中なのだけど」
言いながらクラウディアはデザイン帳を取ってきてお針子たちに見せる。
「うわぁ、素敵ですね」
「刺し終わったら見せていただきたいです」
「いいわよ」
「「ありがとうございます」」
そんなふうに会話をしているうちにキティが戻ってきた。執事も一緒だ。
「お嬢様お待たせ致しました。舞踏室が使えるそうです」
「そう、ありがとう」
それから執事に視線を向けて軽く首を傾げる。
「僭越ながら私が音楽を。バイオリンで構いませんか?」
「ええ、もちろん。助かるわ」
楽器の演奏とは何も貴族や音楽家だけのものではない。
使用人たちにも人気の習い事なのだ。
名器と呼ばれるものやピアノなどには手を出せないだろうが、弦楽器などは見習いの作ったものが案外安価で手に入ったりする。
趣味としても楽しく、特技として活用もできるいい習い事らしい。
今回のようにダンスの練習をする時にもその腕が役立ったりするのだ。
場合によっては臨時収入にもなり得る。
ラグリー家の使用人たちは業務内ですからと臨時手当ては固辞されてしまうが。
だからクラウディアたちはおやつの差し入れだの、ちょっとした小物を贈るだの、と別の方法で彼らに報いることにしている。
「お任せくださいませ」
にこやかに微笑んで一礼する姿は頼もしい。
そこにキティがダンス用の靴を持って傍に戻ってきた。
練習の時にいつも履いている靴だ。
その場で靴を履き替える。
「行きましょう」
クラウディアはキティたちを連れて部屋を出た。
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