図書館併設のカフェ
まだ時間が少し早いからかカフェは比較的空いていた。
クラウディアの対面にアーネストが座り、キティはクラウディアの隣に座った。
主人たちのテーブルに使用人が座ることができるのが図書館併設のカフェの特徴だ。
というか主人と使用人が同席しないと混雑時などあっという間に席が埋まってしまって困ってしまうのだ。
今は比較的空いているがアーネストはキティの同席を許してくれた。
そこでふと気づく。
「アーネスト様はお一人ですか?」
アーネストは誰も連れていない。
「仕事で来ているからね」
仕事で来ているから使用人は連れていないということなのだろう。
同僚と一緒ではなく一人で来たようだ。
「それより何にする?」
アーネストがメニューを広げて前に置いてくれる。
ここはカフェなので基本的に軽食とデザートしかない。
クラウディアはざっとメニューを見て決めた。
「決めました。私はミックスサンドにします」
「侍女の君が先に決めていいよ」
「ありがとうございます。私はお嬢様と同じものに致します」
アーネストはメニューを自分のほうに向けて決めると店員を呼んで注文してくれる。
先に飲み物が来た。
アーネストはコーヒーでクラウディアとキティはオレンジジュースだ。
「でもまさかクラウディア嬢とここで会えるとは思っていなかったよ」
「私もです」
図書館ではよく知り合いに会うが、さすがにアーネストは想定外だ。
「調べものは終わったのですか?」
もしまだ終わっていないのであればクラウディアも手伝うことができるかもしれない。
「うん、だいたい終わったよ。それで本を返したところでクラウディア嬢を見かけたから声をかけたんだ」
「そうだったんですね」
クラウディアの手伝いはいらないようだ。
程なくして頼んだ料理が運ばれてきた。
アーネストはカツサンドだった。
それとクラウディアたちの分もまとめて人参のポタージュを頼んでくれていた。
「いただきます」
早速人参のポタージュを一匙掬って口に含む。
頬が綻ぶのが自分でもわかった。
ここの料理は本当に美味しいのだ。
自分の興味のあることばかりに集中して食事を疎かにする奴らに料理の美味しさを伝えたいのだ、と前に料理長が話していた。
ただ手の込んだ料理だと食べてもらえないので軽食ばかりになってしまうとも零していたが。
その努力が報われていると信じたい。
その努力が報われていると信じたい。
クラウディアはここの料理がとても好きだ。
「クラウディア嬢は本当に美味しそうに食べるね」
「ここの料理は本当に美味しいのです」
「そうなのかい?」
クラウディアはきょとんとする。
「アーネスト様は普段は利用なさらないのですか?」
「食事はないかな。喉が渇いた時に利用するくらいかな」
「そうなのですね」
それはもったいない。
クラウディアは一度食べただけですっかりここの料理が好きになったというのに。
アーネストがスプーンを手に取り、人参のポタージュを一匙口に含む。
「美味しい」
アーネストが珍しく無防備に目を丸くする。
「今まで食べてこなかったことを悔やむね」
クラウディアの手柄でも何でもないが、クラウディアは誇らしい気分になった。
後で料理長に伝えておこう。
にこにこ微笑ってサンドイッチを囓る。
こちらも文句なく美味しい。
「美味しいかい?」
「はい、とても」
「そうか」
アーネストが自身のサンドイッチを手に取り、一口食べた。
「こちらも美味しいね。本当にずっと損をしていた」
「私はアーネスト様がここの料理が美味しいと知ってくださって嬉しいです」
「そうか。知れただけいいのか」
「はい。そうすれば次回もここで美味しいものが食べられます。知らなければ素通りすることになるかもしれません」
「なるほど。確かにそうだね。ではまた図書館に来る時にはここで食事をすることにするよ」
「是非!」
ぱっと顔を輝かせるクラウディアにアーネストは穏やかに微笑む。
そのまま食べ進めていくうちにアーネストの皿の上がみるみるうちになくなっていくことにクラウディアは気づいた。
成人男性であるアーネストはクラウディアたちより食べるのが早い。
クラウディアはふと気になった。
「アーネスト様、足ります?」
「お腹が空いたらその時にまた食べればいいから問題ないよ」
成人男性にはやはり物足りないのだろう。
アーネストのような利用客もそれなりにいるのだろうか? どうだろう?
もしそうならしっかりした食事を提案してもいいのかもしれない。
お試しでならありかしら?
ついアーネストを放っておいてそんなことを考えてしまう。
楽しそうなクラウディアを楽しそうにアーネストが見ていたことには、思考に夢中になっていたクラウディアは気づかなかったのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。




