帰り仕度と懸案事項
「クラウディア、そろそろ帰るぞ」
声をかけられると同時に軽く肩を叩かれて集中力が切れた。
手元もだいぶ見えなくなっていることに気づいた。
「ああ、はい」
慌てて立ち上がる。
振り向けばもう敷布等は片づけられており、みんながクラウディア待ちをしているところだった。
「すいません。みんなを待たせてしまいました」
みんな笑顔で首を横に振ってくれる。
ラグリー家の使用人は本当に優しい。
それに、退屈だっただろうにこうして一日クラウディアに付き合ってくれた。
「お兄様、ありがとうございました。みんなもありがとう。」
使用人たちはみなにこにこと笑顔だ。
昔からラグリー家の使用人はクラウディアが何かに夢中になっていると優しく見守ってくれていた。
時折、嫌そうな顔をする使用人もいたが、彼らはいつの間にかいなくなっていた。
彼らはラグリー家とは合わないから辞めていったと言っていた。
合わないのから仕方ない。
嫌々働くより合う場所で働くほうがお互いにいいだろう。
「クラウディア、楽しかったか?」
「はい!」
「ならいい」
兄がぽんぽんとクラウディアの頭を撫でる。
キティがさりげなくクラウディアの手からスケッチブックと鉛筆を回収していく。
「さて帰るぞ」
「はい」
辺りはだいぶ暗くなっていた。
「少し急ぐが大丈夫か?」
「私は大丈夫ですが、申し訳ありません」
クラウディアのせいで遅くなってしまった。
「声をかけなかったのは俺の判断だ」
きっぱりと言い切った兄が差し出した腕に手をかける。
「帰るぞ」
兄が使用人たちに声をかけて歩き出す。
いつもより歩調の速い兄に遅れずについていきながらクラウディアは思う。
ヴィヴィアンたちと公園に来るのが中止になったのはよかったかもしれない。
うっかり何かに目を奪われたり興味を持ってしまっていたら迷惑をかけているところだった。
兄の懸念していたことはまさにそれだろう。
子供のような注意だと思ったけど、兄が正しかったようだ。
今ようやく実感した。
本来、公園は散歩をしたり、お弁当を持っていたとしても軽食で、こんなにがっつりいることはない。
ヴィヴィアンたちと予定していた先日の公園行きも、少し散歩をして昼食を取り、また少し散歩して帰ることになっていた。
それが一般的だ。
クラウディアの公園の利用が一般的ではないのだ。
今度こそは、と言われていたが、公園での散歩は断るべきかもしれない。
さすがにこんなに暗くなるまで付き合わせることはないが、何時間も何かに夢中になってしまう可能性は否定できない。
それでは迷惑をかけてしまう。
ヴィヴィアンやキティが止めてくれるだろうが、それはそれでアーネストに気を遣われてしまう気がする。
それでは駄目だ。
アーネストがクラウディアと出掛けてくれるのは、善意なのだから。
優しさに甘えて迷惑をかけるなどもってのほかだ。
やはり公園に誘われた時はやんわりと断ることにしよう。
そう決めたクラウディアは思考を切り替えた。
行きとは逆にクラウディアはきょろきょろと辺りを見回す。
「クラウディア、いくら興味深くても、これ以上は駄目だからな?」
「わかっています」
「この時間に公園に来るのも駄目だからな?」
「はい」
素直に頷く。
さすがにクラウディアもこの時間に来ようとは思わない。
少し気になったことがあったのだ。
だがさすがにこの薄暗さではよくわからなかった。
そのうち明るいうちにまた来たほうがいいだろう。
さすがに明日というわけにはいかないので先に調べたほうがよさそうだ。
クラウディアはスケッチしていただけではない。
気になることがあればメモしておいた。
やっぱり明日、図書館に行こう。
そうクラウディアは決めた。
読んでいただき、ありがとうございました。




