スケッチと休憩
公園の少し奥のほうにクラウディアたちがよく過ごす場所があった。
ここまで来ると他の人は滅多に来ない。
「ほら、ここなら好きにしていいぞ」
「はい!」
早速クラウディアは辺りをうろつく。
キティがクラウディアに日傘を差しかけてくれる。
もう一人同行してくれている侍女が兄の従者と共に地面に敷布を敷き、兄がその上でくつろぐ。
侍女や従者にもくつろいでいていいと兄が告げたので彼らも敷布に上がって座っている。
すぐに兄たちのことはクラウディアの意識から追いやられた。
いつ来てもここはクラウディアの興味を掻き立てる。
いつ来ても同じということはなく、新しい景色をクラウディアに見せてくれるのだ。
近くに咲いていた花の前にしゃがみ込むとスケッチブックを取り出してスケッチを始めた。
キティが慣れた様子で花が影にならないようにクラウディアに日傘を差しかけてくれる。
クラウディアはスケッチに没頭した。
どれくらい没頭していただろうか。
「クラウディア、そろそろ一旦休憩しろ」
その言葉とともに強めに肩を叩かれて、クラウディアの集中力が切れた。
クラウディアは振り向く。
「お兄様?」
「そろそろ一旦休憩しろ、と言ったんだ」
「わかりました」
クラウディアはスケッチブックを閉じて立ち上がった。
軽くよろけたところをすかさず兄に支えられる。
集中し過ぎたようだ。
兄は何も言わずにクラウディアの身体を支え、敷布のところまで連れていき優しく座らせた。
すかさず侍女がお茶を差し出してくれる。
「ありがとう」
受け取ってゆっくりと飲む。
喉がからからに渇いていた。
それにも気づかずに集中していたようだ。
「これも食べておけ」
兄に口許にクッキーを差し出され、素直にかじる。
チョコチップクッキーだ。さくさくしていて美味しい。
飲み込んだところを残り半分を口の中に放り込まれる。
咀嚼して飲み込み、お茶の残りを飲み干した。
ティーカップを置くと、そっとまた注ぎ足される。
「ありがとう」
一口飲んで兄に尋ねる。
「お兄様は何をされていたのですか?」
「うん? お前を見ながら読書をしていた。」
「……お兄様、器用ですね」
「いつものことだろう」
言われてみればいつものことだ。
「そうですね」
公園に連れてきてもらった時も領地で自由に過ごしている時も、兄は傍らで何かをしながらクラウディアを見守ってくれている。
「いいか。続きをするのは構わないが、少し休んでからだぞ」
「……はい。あ、キティも休んで」
ずっと日傘を差してくれているキティにも休むよう促した。
「ありがとうございます」
「ここは日陰だから日傘も大丈夫よ」
兄も頷く。
「わかりました」
キティが日傘を畳み、敷布の端に座った。
もう一人の侍女がキティにお茶とクッキーを差し出している。
「ありがとう」
そんなやりとりを見てキティのほうは大丈夫だと判断する。
キティが休めるようにクラウディアもしっかり休まなければ。
「どんな絵を描いていたんだ?」
「いろいろですわ」
クラウディアは兄にスケッチブックを渡した。
兄がぱらぱらとスケッチブックを捲る。
「……結構描いているな」
「色をつけていませんからね」
「色はつけないのか?」
「今日は鉛筆しか持ってきていませんの。帰ってからいくつかは色をつけようとは思いますが」
「そうか」
兄がクラウディアにスケッチブックを返す。
「できたらまた見せてくれるか?」
「ええ、構いませんわ」
「楽しみにしている」
「はい」
そんなふうに兄とお喋りしながら休憩を取り、クラウディアは立ち上がった。
さっとキティが近寄ってきてまた日傘を差しかけてくれる。
「キティも適当に休んでね」
「はい、ありがとうございます」
キティがきちんと頷いたのを確認してクラウディアはスケッチに戻った。
読んでいただき、ありがとうございました。




