公園での散歩と兄の注意事項
そろそろ時間かと玄関ホールで待っているとそれほど待たずに兄が現れた。
今日の兄の服装はチョコレート色の上着とズボン、中のベストも同色のものだ。襟元には葡萄を模ったピンブローチをつけている。
クラウディアは落ち着いた紺色の外出着だ。裾と袖口に明るい青色で刺繍が施されている。腕には先日兄に買ってもらった三連の輪の腕輪をつけている。
「待たせたか?」
「いえ、今来たところですわ」
「そうか。忘れ物はないか?」
「ありませんわ」
「では行くか」
「はい」
兄と共に外へ出た。
用意されていた馬車に兄の手を借りて乗り込む。
「いってらっしゃいませ」
執事長と侍女長に見送られて馬車は出発した。
公園にある馬車停めで兄の手を借りて馬車から降りた。
迎えに来てもらう時間を確認して一度馬車を帰した。
公園に入る前に兄が真剣な顔でクラウディアに言う。
「いいか、クラウディア。ある程度奥に行くまでは好き勝手な行動は控えるんだぞ」
「……気をつけます」
兄の腕に手を添えて歩きながらなるべく周りを見ないようにする。
見れば興味を引かれるかもしれない。
今はまだ人の目が多い。
駆け出すわけにはいかない。
クラウディアの評判だけならいいが、家の評判を下げるわけにはいかない。
前だけを見て歩くクラウディアに兄が苦笑する。
「どうした? 少しは景色を見たらどうだ?」
「お兄様、そんな意地悪をおっしゃらないでくださいまし。私は今何かに興味を引かれないように頑張っているのです。お兄様も自分勝手に動かないようにとおっしゃっていたではありませんか」
「控えろと言ったんだ。少しくらい……いや、クラウディア、お前が正しい」
急に言を翻したのを不思議に思ってクラウディアは兄を見上げる。
「お兄様?」
「好奇心いっぱいのお前を見初める奴もいるかもしれないが、こんなところで会う奴は軽薄な者が多いからな。駄目だ」
真面目な顔だが言っている内容は偏見もいいところだ。
「お兄様、失礼ですわ」
「事実だ」
兄は撤回する気はないようだ。
それならこれ以上その話題を続けないほうがいいだろう。
いつ誰とすれ違うかわからない。
聞かれたらまずい。
クラウディアは周りを見回した。
「お兄様、見てください、可愛い小鳥がいます」
クラウディアの意図はバレバレだったのだろう。
苦笑した兄はそれでもクラウディアの話に乗ってくれ、クラウディアの指すほうに視線を向けてくれた。
「本当だな。あれは何ていう鳥だ?」
「何でしょう?」
クラウディアは首を傾げる。
「あ、飛んでいってしまいました」
もう少し見ていたかったから残念だ。
慰めるように兄がぽんぽんと頭を撫でる。
「ふふ、大丈夫ですわ。あ、ほらまた別の鳥が……」
先程の話題に戻らないよう、クラウディアは目についたものを次々に話題として振り、兄の気を逸らし続けた。
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