やまない雨と室内ピクニック
昼食の時間になる頃にアーネストは戻ってきた。
雨はまだやみそうにない。
「なかなか雨はやまないね」
「そうですね」
クラウディアたちが窓の外を眺めている間も侍女たちはてきぱきと動く。
別室に置かれていたバスケットがテーブルの上に置かれる。
「お料理を並べさせていただきますね」
キティとヴィヴィアン付きの侍女が手早くバスケットの中から皿やら料理やらを取り出して盛りつけていく。
「キティたちもちゃんと食べてね」
こそりとキティに告げておく。
キティは無言で小さく頷いた。
うまく調整して食べるはずだ。
モーガン家のほうでも配慮してくれるだろう。
ヴィヴィアンの部屋のテーブルの上には所狭しと料理が並べられた。
さすがに床の上に布を敷いて、というわけにはいかなかった。
「お飲み物だけはこちらから注がせていただきますね」
「ああ」
侍女がティーポットから温かいお茶を淹れてくれる。
「ありがとう」
お礼を言えばにっこりと微笑んでくれた。
準備を終えて侍女たちは壁際に下がっていく。
「ではいただこうか」
「はい」
食前の挨拶をして食べ始める。
「クラウディア、うちの料理人自慢のサンドイッチよ。食べてみて」
「ありがとう。いただくわ。こっちはうちの料理人自慢のサンドイッチよ」
主食はどちらの家もサンドイッチで同じだった。
「ではいただこうかな」
「わたくしも」
クラウディアが取ったのはハムとレタスのサンドイッチだ。
一口食べる。
目が丸くなる。
美味しい。
また一口、また一口、と気づけば手の中のサンドイッチはなくなっていた。
「どうだったかな?」
言われてはっとする。
どうやらアーネストとヴィヴィアンは食べるクラウディアを観察していたようだ。
「とても美味しかったです」
「よかった。では後で料理人にクラウディア嬢が美味しく食べていたと伝えておくよ」
「はい、お願いします」
ヴィヴィアンがサンドイッチを一口かじった。
その目が見開かれる。
「美味しいわ。卵と胡椒とマヨネーズのバランスがとてもいいわ」
ヴィヴィアンが食べたのはどうやら玉子サンドのようだ。
「本当だね。それに食感がいい」
同じように一口食べたアーネストが微笑んで言う。
どうやらアーネストが食べたのも玉子サンドだったようだ。
「お口に合ったようでよかったです」
「クラウディアが自慢するだけあるわ」
「ありがとう。モーガン家の料理も美味しいわ」
クラウディアはすでに二個目のサンドイッチに取りかかっていた。今度はポテトサラダが挟まったものだ。
「ふふ、クラウディアの口に合って嬉しいわ」
「本当に美味しいわ」
和やかに勧め合って食事は続いていく。
「これはこれでピクニックみたいで面白いね」
アーネストは楽しそうだ。
確かに湖畔などにテーブルと椅子を持ち込んでするピクニックなどはこのような感じだ。
ラグリー家で、家人だけであれば、キティたち使用人も一緒に食べられたのだが。
ここはモーガン侯爵家だ。そんなことできるはずもなかった。
それが残念だった。
「そうですね。でも次は外でいただきたいですわ」
ヴィヴィアンが言う。
「そうだね。今度こそお弁当を持ってどこかに行こうか。クラウディア嬢も」
そつなくアーネストが誘ってくれる。
「はい、是非ご一緒させてください」
外で風に吹かれての食事も本当に楽しいものだ。
領地ではよくやっていた。
「ですが公園は残念でしたね。次こそは行きましょうね」
「そうだな。ただ少し先になってしまいそうなんだが構わないだろうか、クラウディア嬢?」
「私は構いませんが、やはりお仕事がお忙しいのですか?」
アーネストが苦笑する。
「いや。相変わらず定時で帰らされているし休日出勤もさせてもらえない」
言葉の選び方から仕事中毒の片鱗がのぞく。
「いいことではありませんか。お兄様は働きすぎですわ」
クラウディアには口が挟めることではないので黙っておく。
アーネストは誤魔化すようにクラウディアに理由を話す。
「実は次の休日は兄妹でお茶会に招待されていてね」
「あら、そうなんですね」
「ええ、そうなの」
「ではまたの機会に」
「申し訳ないね」
「いえ、いつでも機会はありますから」
「ありがとう」
クラウディアは特に社交はさせられていないが、ヴィヴィアンたちはきちんと社交をしているのだ。
毎回クラウディアのために時間を使ってもらうのも申し訳ない。
「クラウディアと過ごすのは楽しいから残念だけど」
「まあ嬉しいわ。私もヴィヴィアンと過ごすのは楽しいわ」
「そう言ってくれて嬉しいわ」
「私もクラウディア嬢と過ごすのは楽しいから残念だよ」
まさかアーネストまでそう言ってくるとは。
社交辞令だろうか? それともお茶会に行くのが気が重いのか?
わからなくてクラウディアは曖昧に微笑う。
「だからその次の休日にまた誘ってもいいだろうか?」
まさかさらに先の予定の約束を申し出られるとは思わなかった。
「ええ、構いませんが」
「ありがとう。今度こそお弁当を持って公園に行こうか。どうだろう、ヴィヴィアン、クラウディア嬢?」
「素敵ですね」
ヴィヴィアンが楽しそうに頷く。
「はい、楽しみです」
またこの美味しい料理を食べられるかと思うとそれもまた嬉しい。
だからクラウディアは微笑んで頷いたのだった。
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