雨天と今後の予定
「雨が本格的になってきたね。これはもう公園は諦めるしかないようだ」
窓の外を見たアーネストが言う。
「残念ですが仕方ありません」
「クラウディア、雨が上がるまでいるといいわ」
「ええ、ありがとう。そうさせてもらうわ」
クラウディアも窓の外を見た。
外は薄暗く、当分雨がやむ気配はない。
同じように外を見たヴィヴィアンは気分を変えるように明るい声で言った。
「せっかくなので、お昼はバスケットに詰めてもらったものをいただきましょう。お兄様はどうなさいますか?」
「そうだな。私も一緒に食べようかな」
そのほうが料理を無駄にしなくて済む。
クラウディアが密かにほっとしていると、ヴィヴィアンが微笑みを向けてきた。
「うちの料理人の料理は美味しいからクラウディアも楽しみにしていて」
「うちの料理人も負けていないわ」
「楽しみね」
「ええ」
「私も楽しみだ。クラウディア嬢が美味しいというのなら食べるのが楽しみだ」
まさかアーネストがそんなことを言うとは思っていなかったので驚く。
それを表には出さないように気をつけてクラウディアは微笑む。
「ええ。楽しみになさってください。ラグリー家自慢の料理人の渾身の料理ですので」
モーガン兄妹も食べる可能性があるということで、料理人は下手なものを持たせたらラグリー家の沽券に関わると、張り切って料理を作ってくれたのだ。
「それは楽しみだね」
それからクラウディアはふと気づいた。
「そういえば、ご両親は今日はいらっしゃらないのですか?」
いるのであれば一言挨拶したほうがいいと思い尋ねれば、アーネストが答えてくれる。
「ああ、今日は二人揃って昼食会兼音楽会に招待されていてね、夕方までは帰ってこないんだ」
「そうなのですね」
主人一家が出払っているはずが、客人を連れて戻ってきたとなると、使用人たちも予定が狂って大変だろう。
主人たちがいないうちにしたい作業とかもあっただろうに。
「ご在宅でしたら一言御挨拶をと思ったのですが」
侯爵夫妻とは一応面識はある。
こうやってヴィヴィアンを訪ねてきた時に挨拶しようと思うのだが、ほぼ会うことはない。
避けられているとかではなく、お忙しい方たちなのだ。
夜会とかで見かければ声をかけてくれる優しい方たちだ。
「両親には伝えておくよ」
「ありがとうございます。お願いします」
「うん」
アーネストはお茶を飲み干して立ち上がった。
「さて、私は少し書類仕事をしてこようかな」
やはりお忙しい方なのだ。
「まあお兄様、休日までお仕事なさる気ですの?」
「急ぎではないが、それくらいしかやることがないからね」
何もせずにいることはできないようだ。
仕事中毒は健在のようだ。
「お兄様、あまり無理はなさいませぬよう。身体を休めることも大切ですからね」
アーネストは苦笑する。だが頷きはしない。
無理をするという自覚があるのか、身体を休めるのが嫌なのか。
妹相手にも言質を取らせないのはさすが高位貴族と言ったところか。
ヴィヴィアンは溜め息をついた。
いつものことなのだろう。
アーネストはそれを咎めるようなことはせずにクラウディアを見た。
「では私は一度退室させてもらうよ。昼食の時にまた」
「はい」
アーネストは退室していった。
「じゃあクラウディア、私たちはおしゃべりを楽しみましょう」
ヴィヴィアンはすぐに切り替えたようだ。
「ええ」
それを聞いた侍女が手際よく新しくお茶を淹れてくれた。
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