よく似た姉妹
コルム通りの入り口で馬車が停まった。
御者が開けた扉からまず兄が降りる。
「シルヴィア」
「はい」
先にシルヴィアが兄の手を借りて降りる。
続いて兄の手を借りて馬車を降りたクラウディアはそのまま手を握られて驚く。
「お兄様? 離してください」
「お前を自由にすると迷子になるからな」
「子供ではありません!」
「お姉様、お兄様が嫌ならわたくしと手を繋ぎましょう?」
「ああ、そうだな。シルヴィアとのほうが気をつけるか」
そう言うと兄はシルヴィアにクラウディアの手を預けた。
「私は子供じゃありません」
「お姉様、わたくしと手を繋ぐのはお嫌ですか?」
「嫌じゃないけど、さすがに、ちょっと」
「そうですか」
あっさりとシルヴィアが手を離す。
代わりに兄とシルヴィアにがっちりと挟まれて歩き出す。
駆け出そうとしたり、ふらふらとしようとしたら両側から腕を掴まれるだろう。
さすがに兄妹はクラウディアを熟知している。
「今日は予約してないからな。先に昼食にするぞ」
「「はい」」
「クラウディア、目移りするのは構わないが、まずは食事が先だからな」
「先日来たばかりなので大丈夫です」
兄は疑わしいという目でクラウディアを見る。
「大丈夫ですわ」
「お姉様、お食事が終わりましたらゆっくり見て回りましょう」
シルヴィアにまで言われてしまう。
「……ええ、そうね」
そう言うしかなかった。
「いらっしゃいませ、ロバート様。今日はロバート様が両手に花ですのね」
先日も迎えてくれた女性が今日も迎えてくれた。
「妹にねだられたのでね」
「あら、お嬢様は先日おいでくださった方ですね」
「はい。ここのお料理がとても美味しかったので、兄に我が儘を言って連れてきてもらいました」
女性が本当に嬉しそうに微笑う。
「まあ、ありがとうございます」
「席はあるだろうか?」
「ええ、もちろん。ご案内いたします」
案内されたのは前回同様二階の窓際の席だった。
やはりシルヴィアが窓際の席を譲ってくれ、二人で並んで座る。
シルヴィアの向かいが兄だ。
キティたち専属侍女や護衛たちも近くの席に着くのも前回と同じだ。
「それでお兄様のお勧めはどちらでしょう?」
「これだな」
ロバートが指差したメニューを見てぱっとクラウディアの顔が輝く。
「私、先日そちらをいただきました。お肉がほろっと崩れてとても美味しかったですわ」
「ではわたくしはそれにしますわ。お兄様とお姉様のおすすめなら間違いありませんわ」
シルヴィアがさっとそれに決めた。
「では私はこちらの魚料理にします」
クラウディアは魚の香草蒸しにした。
「なら俺は煮込みハンバーグにしよう」
キティたちのほうも決まったことを確認してから店員を呼び、兄が注文してくれた。
おしゃべりしながら待っているとしばらくして料理が運ばれてきた。
「美味しそうです」
シルヴィアが目を輝かせる。
「いただきます」
シルヴィアが早速スプーンを手に取り、一匙掬う。
ぱくり。
一口食べたシルヴィアが目を見開いた後、笑み崩れる。
「美味しいです」
クラウディアと兄はそんなシルヴィアを見て微笑った。
「お兄様、お姉様、本当に美味しいです。今度セルジュと一緒に来たいです」
「いいんじゃないか」
兄からあっさり許可が降りる。
セルジュはシルヴィアより一歳年下で、今は寄宿学校に通っている身である。
一応学生のうちは学業が本分だと、シーズン真っ只中の今はまだ学校にいる。
シルヴィアがセルジュとここに来るのは少し先になりそうだ。
それまでに兄の気が変わらないといいが。
「お兄様もお姉様と冷めてしまいますよ?」
微笑ましく見ているとシルヴィアが不思議そうに言う。
「そうね」
「そうだな」
穏やかに微笑って兄とクラウディアも「いただきます」と言って食べ始めた。
一口分切って口に運ぶ。
「美味しい」
その表情が先程のシルヴィアとそっくりで兄がまた微笑う。
そんな兄には気づかずにクラウディアは食事に夢中になる。
その隣では同じようにシルヴィアが食事に夢中になっている。
兄は珍しく柔らかく微笑うとナイフとフォークを手に取り、食べ始めた。
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