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引きこもり令嬢と呼ばれていますが、自由を謳歌しています  作者: 燈華


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件(くだん)のドレス

小さく音を立てて馬車が停まった。

少し待って扉が外から小さく叩かれる。そして声をかけられた。


「ラグリー伯爵家に到着致しました」

「開けてくれ」


アーネストが応じると外から扉が開かれた。

先にアーネストが降りていき、キティが続いた。


「クラウディア、またね」

「ええ、ヴィヴィアン、また」


ヴィヴィアンと軽い別れの挨拶を()わして、クラウディアはアーネストの手を借りて馬車を降りた。


「今日はありがとうございました」


アーネストに丁寧に礼を言う。


「こちらこそ楽しい時間をありがとう。また連絡するから出掛けたいところを考えておいて」

「はい」

「それじゃあ、また」

「はい。お気をつけて」


アーネストは柔らかい微笑みを残して馬車に乗り込んだ。

ヴィヴィアン付きの侍女も馬車に乗り込む。

御者が踏み台を回収し、クラウディアに一礼してから御者台に向かった。


少しして馬車がゆっくりと動き出した。

それを少しの間見送ってから玄関に向かって歩き出す。


「キティ、今日はありがとう」

「いえ、お嬢様のお供は誰にも譲りません! 楽しそうにお買い物されるお嬢様を見ることができて嬉しゅうございました」

「ふふ、買い物は久しぶりだったもの」

「そうですね」


本当はキティともお喋りしながら買い物をしたかったが、さすがに今回は無理だった。


「クラウディアお嬢様、お帰りなさいませ」 


玄関の扉の前には執事長がいてクラウディアの姿を認めると頭を下げた。

侍女長がいないということは彼女は母のところにいるのだろう。


「ただいま」


執事長が開けてくれた扉から中に入る。


「お嬢様、本日お買い物された物が届いてございます。お部屋に運ばせていただきました」


執事長から報告を受ける。


「請求書があるものは私の個人資産から払っておいてちょうだい」

「承知しました。請求書のないものは……」

「アーネスト様が支払ってくださったものよ。あとで何かお礼をしなくては」


万年筆を贈ったが、あれでは足りないだろう。


「なるほど。わかりました」

「あ、書店からは明日本が届くはずだからその支払いもお願い」

「承知しました」

「ではお願いね」

「はい」


頭を下げた執事長に見送られて自室へ向かっているとキティがすっと寄ってきた。


「お針子たちがお嬢様にドレスを試着してほしいと言っているようなのですがいかが致しますか?」

「着替えるからちょうどいいわ。部屋に来てくれるように言ってくれる?」

「承知しました」


キティが控えていた別の侍女に伝言をして戻ってくる。


「すぐに来ると思います」

「なら急いで戻らなくちゃね」


茶目っ気を出してそう言い、クラウディアはキティを連れて部屋に戻った。




部屋に戻っていくらもしないうちに家のお針子二人がクラウディアの部屋を訪れた。

そのうちの一人が(かか)えているドレスを見てそれが何のドレスか思い当たる。


「先日、お兄様に贈られたドレスね?」

「はい」


パイラー侯爵家の夜会で着た例のドレスだ。


「手直しを終えたので試着していただけますか?」

「ええ、もちろん」


クラウディアはキティの手を借りてドレスに着替える。

キティが姿見を運んできてくれる。


「ありがとう」


クラウディアは全身を鏡に写して前も後ろも確認する。

前面には変わりはなかったが、背中側は背中の半ばくらいまで開いており、そこにリボンを通して編み上げていた。そのお陰で前のものより動きやすくなっている。


「素敵です、お嬢様」

「やはり絶対こちらのほうがいいです」

「背中のチラ見せでクラウディアお嬢様の清楚さに少しの色気が醸し出されていてよくお似合いです」


キティとお針子たちが口々に褒めてくれる。


「ありがとう。私もこっちのほうがいいわ。動きやすいし。これで完成?」

「いえ。まだ少し微調整させていただきます」

「そう。それが終わったら私のところに届けてくれる? 今日刺繍糸を買ってきたから少し刺繍を足したいの」

「承知しました! ええ、ええ、この刺繍も正直物足りなく思っておりましたの!」

「きっと素晴らしいものになりますね! いえ、絶対ですわ。出来上がったら見せていただきたいです!」

「ええ、いいわ」

「「ありがとうございます!」」


きゃあっとはしゃいだ後に仕事を思い出したのか真面目な顔を取り(つくろ)う。


「お嬢様、気になるところはありませんか?」

「動きにくいところがありましたらお直しいたしますので」


言われてクラウディアは手を動かしたり、歩いたりしてみる。

それからダンスを想定してくるくると回ってみた。


「お嬢様」


キティに差し出された手に手を重ねてステップを踏んでみる。


「問題ないわ」


だがクラウディアの動きを見ていたお針子たちが首を振る。


「私たちのほうで直したいところが出てきました。

「お嬢様、手直しした後また試着していただけますか?」

「わかったわ」

「少々お時間がかかってしまいそうなのですが……」

「構わないわ」


別に着る日が決まっているわけではない。

急いで中途半端になるよりは、納得できるまでやって素晴らしいものを作ってくれたほうが嬉しい。


「ありがとうございます」

「絶対にお嬢様を引き立てるものにしてみせます」

「ええっと、頑張って」

「「はい!」」



キティに手伝ってもらって着替える。

お針子たちは脱いだドレスを抱えてやる気いっぱいで部屋を出ていった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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