表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引きこもり令嬢と呼ばれていますが、自由を謳歌しています  作者: 燈華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/105

刺繍のハンカチと従兄弟の婚約者たち

今日、クラウディアは朝からクノス公爵家にお邪魔していた。

前回来訪時に約束した刺繍を一緒にするためだ。


正直、こんなに早く実現するとは思っていなかった。

伯母を甘く見ていた。


一から刺繍を入れるのは間に合わず、手持ちの訪問着に刺繍を足しただけになってしまった。

悔いが残る。

伯母のところに行く時は出来るだけ新しく刺繍をしていきたいと思っている。

それでいろいろとアドバイスが欲しい。


今でも伯母はクラウディアの憧れであり目標なのだ。

アドバイスを受けられる機会を逃したくはなかった。


普段クラウディアは領地にいるのでこうして伯母に会う機会は貴重なのだ。

だからこそ悔しかった。

足した刺繍についてアドバイスは貰えたがそれでも悔しさは残る。


今伯母と、従兄弟の婚約者三人はクラウディアが父から借りてきた例のリスの刺繍のハンカチを見ている。

今日も頼まれて借りてきたのだ。


父は絶対に返してもらうように何度も念を押して貸してくれた。

誰も盗るわけがない。

何をそんなに心配しているのかと呆れるばかりだ。


クラウディアは大人しく彼女たちがハンカチを見終わるのを待っていた。

ほぅと感嘆するような溜め息を漏らしたのは誰だろうか。


「さすがクラウディアさんね」

「本当よね。繊細な刺繍なのにそれを全く感じさせないわ」

「単純にわたしも欲しいですわ」


従兄弟の婚約者たちが口々に褒めてくれる。


「ありがとうございます」


和やかな空気が漂っている。

そこに。


「さて、そろそろ始めましょうか」


伯母の一言で空気が引き締まった。

三人にとっても伯母はやはり憧れの師であり、さらには将来の義母でもある。


「今日は何を刺しましょうか?」


伯母が全員の顔を見回す。


「お義母様、わたくしはクラウディアさんの作ったようなハンカチを作ってみたいですわ」


長男の婚約者のエリーズが意見を述べた。


「いいと思います。私は賛成です」


次男の婚約者であるレオニーが賛同を示した。

三男の婚約者であるサビーナも頷いた。


「まあいいのではなくて」


伯母が許可を出した。

伯母の視線がクラウディアに向く。


「クラウディアはどうするの?」


クラウディアは別のものでもいいと言ってくれている。

だけどどうせならクラウディアも屋敷に飾る用に一枚作ろう。領地本邸に帰る時のお土産にすればいい。


「私も同じで」

「そう。では皆でそうしましょう。わたくしも作るわ」


今度はどんな動物がいいかしら?

リスとは別のものにしようと思う。


猫にしようかしら? ああでもシルヴィアが作っていたから別のもののほうがいいわよね。

猫と鷹はシルヴィアとセルジュにとって大切な図柄になったかもしれない。

それなら避けるのが当然だ。


迷う。


「どんな動物にしましょう?」

「何がいいかしら?」

「構図も迷いますわ」


従兄弟の婚約者たちも迷っているようだ。


ふと思いつく。

あ、うさぎにしようかしら?

可愛らしいうさぎの兄とか見てみたいかもしれない。

兄には文句を言われるかもしれないが。


でも一度そう思ったらそれしか考えられなかった。

クラウディアはうさぎの刺繍にすることに決めた。


伯母が従兄弟の婚約者たちに訊く。


「あの子たちも入れてくれるのかしら?」

「ええ、もちろんですわ」

「入れないと拗ねそうですし」

「どうせなら婚約者を入れたものを持ちたいですし」


従兄弟の婚約者たちは即答した。もとよりそのつもりだったようだ。

伯母は嬉しそうだ。

息子と婚約者の関係が良好で嬉しいのだろう。


「わたくしも貴女たちの姿を入れることにしましょう」


伯母の言葉に従兄弟の婚約者三人は小さく歓声を上げた。

義母になる予定の相手であり師でもある伯母に家族として認められていることの証であり、喜ぶのも当然だ。


クラウディアまで嬉しくなる。

微笑()みがこぼれた。


伯母の刺す刺繍にクラウディアの姿はないだろう。

クラウディアを入れるなら恐らくラグリー家全員を入れないとならなくなるだろうから。

それでは手間も時間もかかってしまう。


だからそれはいい。

クラウディアは今回も家族だけにしようと思っているのでお互い様だ。


あ、セルジュの姿は入れてもいいかもしれないわ。

何となく似合いそうな気がする。


そんなことを考えながらクラウディアは図案を考えようとスケッチブックを手に取ったところでふと気づいた。

参考になるかも、とぱらぱらとスケッチブックを捲る。


「こちら、シルヴィアに頼まれて刺繍した図案です」


見やすいようにテーブルの上に置く。

従兄弟の婚約者三人が身を乗り出す。

そして口々に声を上げた。


「まあ、可愛らしいわね」

「いい構図よね」

「ふふ、表情がリアルね」

「ありがとうございます」


こちらはあくまでも図案ではあるのだが。

そのままを写し取ったように取られている気がする。


まだまだそこまでの域には達することはできていない。

まだまだクラウディアも精進の身だ。


伯母がクラウディアに微笑みかける。


「いいデザインね。シルヴィアも喜んだでしょう?」

「はい。喜んでくれました」

「よかったわね」


クラウディアは笑顔で頷いた。

スケッチブックを手に取り、白紙のページを開いた。


「クラウディアはどんなデザインにするか決まったの?」

「とりあえずモチーフはうさぎにしようと思います」

「まあそれは可愛らしいわね」

「はい。可愛らしいものにしようと思います」

「ふふ、いいんじゃないかしら」


伯母も賛成してくれる。


「楽しみね」

「はい」


そんなやりとりをしている間にも婚約者たちは真剣に考えていたようだ。

次々に声を上げる。


「わたくしは犬、かしら」

「私はインコにしようかしら」

「そうね、わたしは猫にしましょう」


どうやら婚約者三人のモチーフも決まったようだ。


「あらそうすると、わたくしは何にしようかしら?」


伯母は珍しく悩んでいるようだ。

クラウディアにできることはない。

だから図案を考え出す。


どのようなものがいいかしら?

あれこれと考えていると、伯母が明るい声で言った。


「あ、いいことを思いついたわ。そうしましょう」

「何を思いつかれたのでしょうか?」

「ふふ、秘密よ」


楽しそうに伯母が微笑(わら)う。

こういう時、伯母は絶対に口を割らない。


「では、完成を楽しみにしていますね」

「ええ。楽しみにしていてちょうだい」


婚約者たちと一緒にクラウディアは大きく頷いた。


読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ