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引きこもり令嬢と呼ばれていますが、自由を謳歌しています  作者: 燈華


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スケッチ観賞会

今日はヴェイン伯爵家へとお邪魔していた。

前に約束していた前回のスケッチを見せ合う会をナーシアが開いてくれたのだ。


ヴェイン伯爵家は太っ腹にも夜会で使うような広い部屋を開放してくれていた。

そこにテーブルをいくつも運び込み、スケッチブックを置いていく形式だ。

イーゼルも用意され、キャンバスに描かれた絵はそこに載せられている。


クラウディアも適当に空いているところにスケッチブックを置いた。

スケッチブックやキャンバスのほとんどにはサインが描いてあるので、誰の作品かわかる。


参加しているのはさすがにあの日に参加していた全員というわけにはいかなかった。

それでもそれなりの人数が参加していた。


みんな和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気だ。

一人でじっくり見ていたり、複数人であれこれ意見を言い合っていたりしている。

楽しそうだ。


ちなみに飲み物や軽食は隣の部屋に用意されており、そちらの部屋では自由に飲食していいことになっている。

代わりにこの部屋での飲食は禁止だ。

一段落したら隣の部屋にも行ってみるつもりだ。

そちらも密かに楽しみにしているのだ。


早速他の者たちのスケッチを見に行く。

まずはイーゼルに立てかけられている絵から見ていくことにする。


鉛筆描きのものから水彩画や油絵など画材もいろいろだ。

同じ場所で描いたのに一枚として同じモチーフはない。

どれも個々人の個性が滲み出ている。


こんな構図やこんな表現があったのかといろいろな発見があって楽しい。

と同時に絵が描きたくなってうずうずしてきてしまう。

同じような様子の者は何人もいる。

やはり根っからの絵を描くのが好きな人種なのだろう。


一通りイーゼルに立てかけられている絵を見た後はテーブルの上に並べられたスケッチブックを端から見ていく。

何冊か見ていくとナーシアのものに行き当たった。


「ナーシアと、隣はモルトね」


ナーシアとモルトのスケッチブックは並べて置いてあった。

誰も見ていなかったので何となく両方を並べて開いてみた。

ナーシアのスケッチブックを一枚めくり、モルトのスケッチブックを一枚めくる、を繰り返す。


ナーシアは大胆な絵を、モルトは繊細な絵を描く。

並べて見てみると不思議と調和している。


二人で合作などしてみてはくれないだろうか?

あとでお願いしてみようかしら?


やるかやらないかは本人たちの気持ち次第だ。

どんな作品になるか想像できない分わくわくする。


そんなことを考えていると。


「クラウディア」

「あ、ナーシア。それにケネスも」


二人が連れ立っているのは、少し不思議だ。

仲良くなったのだろうか?

訊く前にナーシアが答えてくれる。


「たまたまそこで一緒になったのよ」

「そうだったのね」


そこかしこで顔見知りが合流し、一緒に見ている光景が広がっている。


そんなことよりとばかりにケネスが身を乗り出してきた。


「僕の絵は見てくれた?」

「まだよ」


まだケネスの絵までは辿り着けていない。


「そっか……」

「順番に回っているからまだ辿り着けていないのよ」

「あ、そうなんだ。クラウディアは律儀だね。僕は興味を引かれたのから見ているんだ。クラウディアのも見たよ」

「あら、どうだった?」

「本当にクラウディアの絵は面白いよね。僕も負けてられないな」


面白い絵を描いたつもりはないのだが。


「私も見たわ。なんかクラウディアらしいわね、って思ったわ」


どういう感想だろう?

クラウディアはごくごく普通の絵しか描いた覚えがない。

…….まあ、感想は人それぞれだ。


「私もナーシアとそれからモルトの絵を見たわ」

「あらどうだった?」

「二人で合作したらいいんじゃないかしら?」


ナーシアは令嬢らしからぬ様子で肩を(すく)める。


「私とモルトだと絵の傾向が違いすぎるわ」

「だから合作したら面白いのではないかと思ったのよ」

「なるほど」


ナーシアが真剣な顔で考え込む。

そのままクラウディアを見て告げる。


「……あとでモルトに相談してみるわ」

「もし描いたら見せてね」

「ええ、もちろんよ」

「僕も見たいな」

「ええ、構わないわ」

「楽しみにしているよ」

「ええ」


ケネスがクラウディアに向き直る。


「僕のも見てほしい」

「ケネスのはどこ?」

「あそこ」


ケネスの指差した先にはスケッチブックが何冊も積み上がっている。

ケネスは手が速いのだ。

周りには彼のスケッチブックを見ている者が何人もいる。


「今は人が多いから後でゆっくり見させてもらうわね」

「うん」


ケネスのスケッチブックを見ている者たちは皆熱心だ。

あそこに割って入るのは骨が折れそうなのだ。


ケネスの絵はゆっくりと見たい。

彼の絵は独創的なものから繊細なものまで幅広く面白いのだ。

多くの気づきももたらされるのでクラウディアも楽しみにしている。


「見たら感想を聞かせてくれる?」

「ええ、もちろん」


ケネスが嬉しそうに微笑(わら)う。


「楽しみにしているね」

「ええ」

「さてとそれじゃあ僕は他の人のを見てこようっと。クラウディア、ナーシアまたね」


ふらりとケネスが立ち去っていく。

彼はいつだって自由だ。


ケネスを見送ったナーシアがクラウディアを見て微笑む。


「クラウディア、軽食のほうも楽しんで。料理人たちが張り切っていたから」


やはり食いしん坊だと思われているのだろうか?

いや、ここは好意的に受け取っておこう。

きっとクラウディアを始め参加者に喜んでもらおうと張り切った料理人たちの料理を食べてもらいたいのだ。


「そうさせてもらうわ」

「ええ」


ナーシアは嬉しそうだ。

後で食べたら感想もしっかりと伝えようと思う。


「じゃあクラウディア、ゆっくりしていってね」

「ええ」


ナーシアが立ち去っていく。

クラウディアは次のスケッチを見るために移動を始めた。


読んでいただき、ありがとうございました。


誤字報告をありがとうございました。訂正してあります。

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