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引きこもり令嬢と呼ばれていますが、自由を謳歌しています  作者: 燈華


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庭で母とお茶しながらのお喋り

ちらちらと母がテーブルの上に置いたスケッチブックを見る。


「絵を描くのはキティが戻ってきてからにしなさい」

「わかりました」


そわそわしていることに気づかれたようだ。

母の言うことももっともだ。


キティにもゆっくり休んでもらいたい。

だけどクラウディアが絵を描き始めたらキティはすぐに飛んで戻ってきてしまうだろう。

それは駄目だ。


母はこのまましばらく外で読書をして過ごしそうだ。

今はクラウディアのお茶に付き合ってくれるようだ。

キティが戻ってくるまではきっと付き合ってくれるのだろう。

だから気になっていたことを口にする。


「書庫に本が増えましたね」

「ああ、そうね。あまり気にしてはいなかったけれど、確かに増えたでしょうね」


あまり気にした様子もなく母が言う。


クラウディアの次に読書好きなのは母だ。

しかも乱読派だ。

だから書庫にはいろいろな分野の本が並んでいる。


クラウディアの読書好きは間違いなくこの母の影響だ。

書庫にいろいろな本があり、クラウディアの好奇心を大いに刺激したのだ。

入り浸って読書に耽ったのは懐かしい思い出だ。


そこにさりげなく勉強の本を置いてあったのはさすがとしか言いようがない。

まんまと引っ掛かったクラウディアは興味の向くまま読み漁った。

その結果きちんと教養が身についたので何も言うことはない。


それにしてもこの調子だと恐らく誰も気にしていないのだろう。

そのうち書庫が増築されるかもしれない。


それとも領地本邸のほうに本が運ばれてくるだろうか?

領地本邸も本がたくさんあるのだが、王都邸よりは部屋も広く余裕があるし増築するのも容易だ。

運ぶのが大変なだけだ。

あとは、読みたい本が向こうの屋敷にある、という事態が起きやすくなるくらいか。


基本的に領地本邸にいるクラウディアは未読の本が来るのなら大歓迎だが。

王都にいる間に興味のある本をすべて読むのは難しそうだったからそうなったら嬉しい。


「クラウディアも好きに読んでいいわよ。ああ、領地に持っていきたいなら持っていってもいいわ。ただ持っていくならリストにしておいてちょうだい」

「ありがとうございます。きちんとリストにしておきますね」

「ええ。書庫には読み終わったものしかないから気にしないで持っていっていいわ」

「わかりました。ありがとうございます」


領地に戻る前に書庫にこもって本を選別することにしよう。

それはそれで楽しみだ。


ティーカップを置いた母が何気ない調子で言う。


「そういえばオルトへの特別手当て、見せてもらったわ」

「はい」


クラウディアはそっと背筋を伸ばした。

何となくそうしないといけない気がした。


「あのハンカチの図柄はオルトの希望かしら?」

「オルトの希望はリスと菫を刺繍してほしい、ということだけです」

「では図案はクラウディアが考えたのね?」

「はい」


母が少し考えるように沈黙した。


何かまずかったのだろうか?

それとも、男性にあげるにしては可愛らしいデザインだったのだろうか?


神妙な顔で母が口を開くのを待つ。


「ネクタイの色はうちの家族の色だったわね」

「一応色味はずらしてあります」

「そのようね。でも色に疎い人には同じに見えるかもしれないわね」

「まずかった、でしょうか?」


おずおずと尋ねる。

母がクラウディアを見る。

その真面目な顔にクラウディアの緊張感が募っていく。

その緊張感がかなり高まったところでーー


「まあ、うちの使用人とわかるからいいんじゃないかしら」


あっさりと母が言う。

今までのどことなく漂う緊張感はなんだったのか。

クラウディアの身体からどっと力が抜けた。


「そう、ですか」

「まあ、誤解……というより曲解ね。深読みする者もいるから気をつけなさいね」


それを告げるためにわざと緊張感を漂わせたのだろう。


「わかりました」


もう少し気をつけよう。

その辺り、どうしてもクラウディアは疎かになりがちだ。


クラウディアが何か言われるのは構わないが、家族や親しい者が何か言われるのは嫌だ。

そのためにはもう少し慎重にならなくては。


クラウディアは頭の片隅にしっかりと刻み込んだ。

読んでいただき、ありがとうございました。

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