母と妹とティータイム
そのままシルヴィアと一緒にお茶を楽しんでいると扉が叩かれた。
「シルヴィア?」
母の声だった。
クラウディアとシルヴィアは顔を見合わせる。
「お母様? どうぞ?」
侍女が開けた扉から母が入ってくる。
「あら、クラウディアもいたのね」
「お邪魔にならないように失礼しますね」
「あらいいのよ。シルヴィアとお茶でもしようかと思ってきただけだから。三人でお茶にしましょう」
クラウディアにもシルヴィアにも断る理由はなかった。
侍女が手早く母の分もお茶を淹れる。
「ありがとう。あら、ラグリー領のお茶ね」
「ええ。お姉様とラグリー領のお茶が一番と話していたんですよ」
「そうね。私もそう思うわ」
うちの者でラグリー領のお茶が嫌いな者はいない。
ラグリー領のお茶が切れそうになると送ってほしいとクラウディアに連絡がくるほどだ。
実は隠れた名産品で、このほっとするような味が一部貴族の間で根強い人気だったりする。
まあ、そのお茶も地域によって味が変わるため何種類かあるのだが。
それを飲み比べたり気分で飲み分けるのも楽しみだったりする。
貴族向けだけではなく庶民向けの安価なお茶もあり、庶民の間の定番のお茶の一つにもなっていたりする。
ティーカップを置いて母がところで、と尋ねてくる。
「クラウディアはいつ帰るの?」
「お母様、お姉様は今シーズンはこちらにいらっしゃるそうなの」
クラウディアが答える前に弾んだ声でシルヴィアが言う。
「あらそうなの?」
「はい。先日の一件でヴィヴィアンとアーネスト様が気を遣ってくださって一緒に出掛けようと言ってくださったのです」
「ヴィヴィアン様は本当にいいお友達ね。でもアーネスト様はお忙しいのではなくて? 無理を言っては駄目よ」
「少し、時間ができるそうなのですわ。暇をもて余してしまいそうだから是非に、と。お優しい方ですわ」
「そうね。本来なら時間ができたなら御婚約者様と、というところでしょうが婚約を解消なさったそうだもの。その分時間をもて余してしまっても仕方ないわね」
シルヴィアも驚いた様子はない。
本当に知らなかったのはクラウディアだけのようだ。
「それで、いつお二人とお出かけするの?」
「三日後です。その日がアーネスト様がお休みなのだそうです」
「あら!」
何故か母が嬉しそうな声を上げる。
その様子に思わず警戒してしまう。
にこにこと微笑って母は言う。
「ではクラウディアはしばらくこっちにいるのね? なら、たくさんおしゃべりできるわね」
母は嬉しそうだ。
警戒しすぎたか。
ほぼ領地に引きこもっているクラウディアはこういう時か家族が領地に来ない限りは家族と会えない。
母は久しぶりに会う娘と話がしたいだけだったのかもしれない。
「はい」
「一緒に刺繍したり、お買い物に行ったり、お茶会に行ったりしましょうね?」
お茶会だけは勘弁してもらいたい。
母もクラウディアの性格は理解している。
だからこそ、お茶会を並べてきたのだ。
警戒しすぎでも何でもなかった。
「ええ、楽しみにしていますね」
そう答えるしかなかった。
「ふふ、楽しみだわ」
絶対に何か企んでいる。
こういう時の母には警戒が必要だ。
「何をお考えですか?」
「何が? 私はいつもいろいろ考えているわよ?」
はぐらかされる。
いくら訊いてもこのままのらりくらりと躱されるだけだろう。
社交界を渡り歩いている母から話を聞き出すのは、普段領地で伸び伸びと過ごしているクラウディアには無理だ。
「お姉様、お母様のなさることですもの、悪いことにはなりませんわ」
「……そうね」
悪いことにはならないだろうが、恐らくクラウディアを消耗させるものではあるだろう。
クラウディアは早くも領地に帰りたくなった。
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