93話 イギリスへ
すいません、ちょい短い!
ピンポーン!
朝八時頃、家のインターホンが押される。
「んが・・・?」
ベッドで爆睡していた俺はその音で目を覚まし、ふらふらと千鳥足で部屋から出るとインターホンの画面を確認する。
そこにいたのは執事服を着たダンディなおじ様である。
何故そんな人がいるのかと疑問に思いながらもとりあえず通話を繋げる。
「遅くなってすみません。何か配達でしょうか?」
『いえ、配達では御座いません。ジャック様より柳様をお連れするよう仰せつかったので、お迎えに上がりました』
「・・・・・・っあ!」
寝ぼけていた意識がようやく覚醒し、事態を把握する。
(完全に忘れてた! そう言えばジャックさんが迎えをよこすみたいなこと言ってた気がする・・・)
「す、すみません! ちょっと準備出来てなくて、すぐに済ませます!」
『いえいえ、ゆっくりで構いませんよ。こちらも連絡が出来ませんでしたから。朝早くに申し訳ございません』
ドアの前で恭しく頭を下げる執事さんに罪悪感が爆発してしまいそうだ。
いつもは蒼の動く気配で目を覚ましていたから蒼が服部さんの家に移動した事で寝坊してしまった。
服部さんと女子同士でキャッキャウフフがしたい! とか言って昨日の夜にはもう服部さんの家にルイと一緒に突撃したのだ。服部さんも服部さんで「全然いいっすよ~」と蒼に甘いので困る。
閑話休題。
それからは、まず執事さんに玄関に入って支度が終わるまで待っていてもらい、リアルで三十秒で支度を済ませた後、執事さんにお礼を言って、彼の後をついて行き家を後にした。
「どうぞお乗り下さい」
家を出てすぐのところに止めてあるリムジンに乗るよう促され、開けられたドアから中に入る。
ふっ、俺は人生二度目のリムジンなのだ。多少緊張はするが、堂々とした態度で対処できている気がする。ついついサングラスを持ってくるのを忘れてしまったが、溢れ出る俺のオーラをどうしたものか。
「それでは、参ります」
「お願いします」
ちらっと横目で運転席に座る執事さんに目を向ける。
見ただけで分かるが、この人はかなりの実力者だ。流石は絶対者の執事というべきか、所作の一つ一つが洗練されていて油断というものが一切存在しない。
ふと、特殊任務で出会った高宮家の専属執事である井貝さんの事を思い出す。
彼も将来こんなジェントルマンになるのかと思うと、男として自分が置いていかれるのではないかと少々焦りを感じた。
(いや、その焦りを解消するために嫌々ながらもあのハーレムパイセンに教えを請いに行くのだ。焦る必要は何もない)
そうだ、リアルハーレムを築くあの絶対者ならば必ず俺の進むべき道を教えてくれるに違いない。問題はその対価になにを要求されるかだが、戦闘関連ではない事を祈ろう。
走行開始から数十分が経ち、ようやくリムジンが停止する。
リムジンから降り、俺は僅かに上を見上げる。
「・・・もしかして、これでイギリスまで行くんですか?」
「はい、こちらはジャック様のプライベートジェット機です。最大で時速九百キロまで加速させることが可能になっております」
そう、俺の目の前には真っ白のジェット機が、その姿を陽光に反射させていた。
機体の側面にはでかでかと剣の紋章が入っており、おそらくジャックさんの機体である事の証明だろうと思われる。
流石にジェット機で移動するとは思わなかったので少し間抜けな顔を晒してしまった。こちらを見ないように目を逸らしてくれた執事さんの紳士な姿に格の違いを見せられてしまった。
◇
「おぉう! 思ったよりも寒いな」
飛行時間は体感十二時間程、ジェット機の中で睡眠をとりながらようやく目的地のイギリスのロンドンに到着した。日本との時差が大体八時間と考えると、イギリスは現在正午だ。
気温は十度ぐらいだろうか、俺も長袖を着てはいるが少々肌寒い。もっと厚手の服を着てくるべきだったかもしれない。
しかし、それを忘れる程綺麗、というか日本とは全く違う街並みに直ぐに目を奪われた。日本とは違う様式の建築物が建ち並び、街全体を見渡すと一体感のようなものが感じ取れる。
そして何よりも、遠くにそびえ立つビッグベンを見て、ここがロンドンである事を再確認した。
五十年前に出現したリッターの被害を受けてなお今世まで毎日鳴り響いている鐘の音はロンドンの希望、民衆の支柱と呼んでも過言ではないだろう。
「・・・ありがとう」
俺は鐘を数秒、敬意を込めた目で見続けた後、待っていてくれた執事さんに感謝を述べ、再度ジャックさんの場所へと向かう。
・・・
「はへ~」
そして軽い観光を楽しみながら、ジャックさんの住まう場所にようやく到着した俺は、首を上に上げる程高いタワーマンションを見上げて感嘆の声を漏らす。
そんな俺の正面から、歓喜交じりの声が投げかけられた。
「やあ、久しぶりだね少年! リアムさんも案内ご苦労様です」
ダンディな執事さんは姿を現したジャックさんに頭を下げると、別の場所に移動していく。
俺は執事さんに軽く頭を下げた後、目の前の男に目を移す。
ふむ、相変わらずいけ好かない顔をしていらっしゃる。天は二物を与えずというが、あれは完全に嘘だな。この男は二物どころか四物ぐらい持ってそうだ。
「少しは休んでくれていいのになあ。あの人は仕事熱心過ぎる」
「それだけ仕事にやりがいを感じているのだと思いますよ。絶対者の力になれるというのは、回りまわって人々を救う事に繋がりますからね」
「あはは、そう言われると何だか照れ臭いなあ。まあ、それよりもだ。少年、イギリスへようこそ」
ジャックさんが笑みを向け右手を差し出してくる。俺もそれに応え、右手で握手を交わすと、彼は嬉しそうに笑った。
「実は、今まで絶対者同士で仲がいい、というか。気軽にコンタクトを取れるような人物がいなくてね~ 少年が新しく入ってきてくれて少々舞い上がってしまった、すまないね」
「そうだったんですか? でも、俺としては情報のやり取りが出来る相手ができてありがたいですけど。これからもよろしくお願いします」
「ちょっと堅いなあ。まあいいや、とりあえず中に入ろう。話はそれからだ」
「はい」
俺はジャックさんの後ろに付いてマンションの中へと入る。
ジャックさんには恥ずかしくて言えないが、学校に通っていたころに一人も友人と呼べる存在がいなかった俺としては、自分の事を友人のように思ってくれている事に、少し、駄菓子程度の嬉しさを感じたのであった。
リッターに関しては一章の9話を見て頂ければ思い出せるかと思います(*´▽`*)
次話、10か11日予定。





