87話 上月 花蓮
遅くなってすみません!あと、誤字報告助かります!
体調戻ってないので、文おかしいかも・・・
私の姉は“皆が笑顔でいられるように頑張らなくっちゃ!”と口癖のようにいつも言っていた。
太陽のような笑みは周囲の人全てを笑顔に変え、生きていく活力を満遍なく分け与えていた。誰もが姉の事を慕い、私はそんな姉の妹であることを誇りに思った。
「私もお姉ちゃんみたいになれるかな?」
「うんうん、絶対なれるよ! 何せ花蓮はとっても頑張り屋さんだからね」
姉の温かい手が頭に触れ、優しく撫でる。
姉がいて、家族がいて、皆が笑っている毎日。
そんな日がいつまでも続くと、この時の私は信じて疑わなかった。
「へ?」
だから、初め姉が死んだことを伝えられた時私は何を言われたのか全く分からなかった。
日本中を飛び回っている姉は家に帰ってこない日が多く、今回もいつものように忙しいのだと思っていた。
しかし、私達家族の前で黒服の男は言う、姉は死んだと。
そんなはずはない。
あの姉が死ぬ? ありえない。何せ姉は世界屈指の実力者だ。それに、姉の隣には頼りになる恋人も付いている。
だから、死ぬ訳が・・・
混乱する頭で、黒服の言葉を一言も逃さずに姉が死んだ理由を聞き続ける。
嘘だと、姉はまだ生きていると聞きたくて。そして、
「・・・どうして・・・?」
語られた内容に、そう問わずにはいられなかった。
こんな、こんな事があっていいはずがない・・・
男は姉が怪物に殺された訳ではないと言う。
それでは何に?
――人間だ。
姉は人を心の底から愛し、全ての人に笑顔をもたらそうと体を差し出し、守ろうとした人間の手によって殺されたのだ。
「・・・」
悔しさのあまり手を強く握り過ぎて感覚がなくなってくる。
隣ではお母さんが泣き崩れ、お母さんを支えるように腕で抱きしめるお父さんは歯を食い絞めて体を震わせていた。
・・・
「・・・っ・・・っ」
両親の姿を見て、視界がぐにゃりと歪んだ。
姉がいない。家族が家族で無くなる感覚。
大切な・・・とても大切な欠片が零れ落ちるような喪失感。
(もう・・・会えないの・・・?)
この瞬間、私はようやく姉と会う事が二度と出来ない事に気付いた。
あの太陽のような笑顔を見る事も、優しく包む温かい手に触れる事も叶わないのだ。
「ぁ、あ、あ゛あ゛ぁああああああ!!!」
感情を押し留める事などできなかった。
叫んで、叫んで、喉が枯れるまで叫び続けた。
もっと一緒にいたかった! いろんなところに遊びに行って、二人で、家族で笑い合って。
もっと、もっともっと!
何もかもが手遅れだった。
何かを失ってからとめどなく溢れ出る感情に嫌気がさして、耳を塞ぎ、己を呪った。
それから三年がたったある日、家に一人の少年が訪ねてきた。
白い髪をしていて、何故か近くにいるだけで不快に思ってしまう。
何の用か尋ねると、少年はこう言った。
「あなたのお姉さんは今も人間に利用されていますよ」
突然の言葉に困惑する私を置いて少年は言葉を重ねる。
「どうです? どうですかねえ? 色々と情報を提供する代わりにあなたには少し手伝って頂きたい事があるんですよ」
そう言った少年は懐から一枚の写真を取り出す。
「っ!」
その写真には、大きな試験管の容器に似たものの中で、液体に浮かぶ姉の姿があった。
その日から二年、二年だ。
どれだけこの日を待ち望んだことか。
姉の体をモルモットのように研究し続けている狂人どもを駆逐する為に戦闘技術を磨き、裏で密かに関係している研究機関を潰していった。
そして今日、最後の仕上げとして姉を言葉巧みに誘導した後鳥羽のいるこの研究機関を潰し、奴を殺す!
今考えると、姉に声をかけた最初の段階から、実験の失敗も、姉の体を利用する事も決めていたのかも知れない。奴らにとって思い通りに事が上手く運び過ぎている。
しかし、奴らが醜悪な笑みを浮かべるのも今日が最後だ。
この槍で体を抉り、いくら叫ぼうとも何度でも突き刺し、最後には首をもぎ取って槍で掲げてやろう。
ようやく姉の無念を晴らせる日が来たのだ。
・・・だというのに、なぜこの少年は私の、いや俺の邪魔をする!
「はッ!」
超近距離からの槍の刺突。
回避する事はおろか視認する事すら難しいそれを目の前の少年は上体を後方に反らすことで易々と避ける。
腕の筋肉を無理矢理動かし、その状態から槍を下に振るうも少年は右に体を逃がす。
俺は追撃に足を一歩踏み込む。
その瞬間、地面が爆発した。
「ちッ!」
またかっ!
先程から幾度も見たが、男は指を走らせ、宙であろうと関係なく文字を刻む。すると、その文字から炎や雷撃やらが飛び出してくるのだ。
そして腹が立つ事に全ての攻撃が加減されている。
もしも相手が本気であるならもう既に私は戦闘不能に陥っているだろう。それ程までに男と私の戦闘技術は隔絶していた。
「ふざけるなっ! 戦う気がないならそこをどけ! 何も知らないお前がっ、関係ないお前が俺の前に立つな!」
俺の叫びを少年は真剣な表情で受ける。
「・・・どきませんよ。何せ俺はハッピーエンドしか許しませんからね」
真剣な表情を僅かに笑みに変え少年は言う。
「あなたにはここで止まって貰います。・・・しかし、あなたにも抑えきれないものがあるのでしょう。だから――」
全てを受け入れるかのように両腕を広げ、
「今、この瞬間に全ての力を出して下さい。憎しみも、憎悪も、全て俺が受け止めます」
「どけぇえええええ!!!」
人の気持ちも知らないで、知ったような口を利く姿に無性に腹が立ち、激情のまま飛び込む。
風を切り、槍を構え疾走する。
そのままの勢いで薙ぎ払った槍を少年は宙返りで避けながら宙に文字を刻む。
「走れ、雷光」
文字から俺の脚を狙って電撃が走る。
「はっ!」
当たる直前、体を落とすことで垂直に飛び上がり、空中で槍を回転させて投擲の構えを取る。
相手はあの絶対者だ。殺す気でいかないで倒せる相手ではなかった。
(もう容赦はなしだ・・・俺の道を阻む者は誰であろうと、薙ぎ払う!)
「ロンギヌス!」
そして放たれる一槍。
紅の尾を引きながら一直線に少年へと向かう。
「っ! これは流石にっ!」
槍が直撃する間際に少年は文字を重ねて威力を相殺しようとするが、拮抗したのは僅かに数秒だけだった。
槍は文字を破壊すると、驚愕の表情を浮かべた少年の腹部を貫通し地面に突き刺さる。
「・・・これ程までにお姉さんの事を想っているあなたは、やはり心の優しい人だ。とても見事な一撃でした」
口から血を吐きながら、目を細め笑う少年はふらつきながら嬉しそうに言葉を漏らす。
「何で、そんなになってまで・・・」
その少年の姿に、疑問の声を出す。
いや、やめよう。今はそんな事を考えている暇じゃない。
遂に地面に倒れ伏した少年の横を通り、槍を引き抜く。
最後に少年の顔を見ておこうと後ろを振り返る。
が、振り向いたと同時に倒れ伏した少年の体が霧散した。
「は・・・?」
呆けた声が漏れる。
しかし、それも無理はないだろう。
何せ、今の今までそこにあった体が突然消えたのだ。理解不能な現象に頭が追い付かない。
パチパチパチッ
次に聞こえてきたのは拍手。
しかし、聞こえてくるはずの場所がおかしい。
後方から・・・さらに、左右から、宙から、様々な場所から拍手が響きだす。
祝福を祝うはずの拍手が、俺にはとても恐ろしいものに聞こえた。
恐る恐ると言った風に俺は宙に目を向ける。
「なん・・・で」
「言ったじゃありませんか。俺はあなたを止めると」
宙に浮かぶ少年は軽快に宙を歩く。
「流石にあなたを無傷で抑え込むには一人では足りないみたいだ」
右から姿を現したもう一人の少年は肩をすぼめ、手を上げる。
「ですので、とりあえず百倍にしてみました。これならば十分でしょう」





