85話 神は見ている
盆は流石に忙しや~
本部に足を踏み入れると、すぐに桐坂先輩の姿が見えた。
何だか表情が暗く、というより困惑しているようで眉間に皺を寄せて首を捻っている。
「どうしたんですか先輩。可愛い顔が台無しですよ」
「あっ後輩。いや、それが、何だか金剛さんの様子がおかしいのですよ」
「と言うと?」
「早朝から地下の訓練場で一心不乱に特訓してて、その表情が何と言うか、ききせまる? みたいな感じなのですよ!」
「ほう」
何かあったのだろうか。
金剛さんが感情を制御出来ていない姿を想像出来ないが、余程動揺してしまう事態が起こったのかもしれない。もしや俺が何かやらかしてしまったか・・・?
「気になりますね・・・まあどちらにせよ今日は金剛さんに会いに来たので、それとなく様子を見に行ってきますよ」
「頼むのですよ。もしかしたら体調悪いのを我慢してるかもしれないので、もしそうなら殴ってでも連れて来て欲しいのです!」
「了解です」
桐坂先輩に見送られながら地下の訓練場に向かう。
全く、あんな小さい子を心配させるなんて金剛さんは後で幼女の神に怒られるだろうな。
「ん?」
地下に一歩足を踏み入れると、まず感じたのが思わず一瞬身構えてしまうほどの殺気だった。反射的に辺りに目を向け敵がいない事を確認する。数秒が経ち、敵がいないと判断するとと再度訓練場へと足を進める。
そして殺気の壁の中を抜けた先には能力を使って十三枚の障壁を操作している金剛さんの姿があった。
「・・・」
一見して分かるいつもと違うその姿に戸惑い、何があったのか疑問に思う。
別に金剛さんの感情が表情に現れている訳ではない。
しかし、抑えきれない感情が溢れているのか一つ一つの動作が荒くなっている。
今金剛さんの中で渦巻く感情は、抑えようのない殺気や憎悪と己への嫌悪、怒りだろうか。見ているこちらの方が胸が締め付けられそうな感情が視界から襲い掛かってくる。
「・・・おはようございます。今日は朝から特訓ですか」
もうこれ以上は苦しくて見ていられなかった俺は牛丼を訓練場の外に置いて、金剛さんに近づき声を掛ける。
「ん? ああ、柳か。何だか久しぶりな気がするなあ。テレビ見たぞ、やりやがったなこの野郎~ 信じてはいたが本当に絶対者になりやがったな! はははっ!」
豪快に笑い声を上げ俺の背を叩く金剛さん。
その動きからは何も違和感を感じない。ただ、金剛さんの瞳の中に今の俺では届きそうにない覚悟を見た。
「金剛さん、何があったんですか」
「ん? 何のことだ」
いけない、このままだと金剛さんが後戻りできなくなると感じた俺は直球に尋ねる。
金剛さんは首を傾げ、俺の問いを受け流そうとするが僅かに抑えていた殺気が漏れ出すのを感じた。
「金剛さん。俺と一戦やりませんか?」
言葉ではどうやっても金剛さんから聞き出すことは難しいと判断すると、別の方向にシフトする。
戦神の力も試したかったとこだ、丁度いい。
「あと、勝った方が負けた方に一つ質問する権利を貰えるなんてどうです。勿論負けた方がはぐらかすことはなしで」
「・・・それを俺が受けるメリットは?」
「まあまあ、今までの俺の働きに免じてお願いしますよ。それに俺の持つ情報もかなりの価値だと思いますよ」
金剛さんとの視線が交差する。
数秒、もしくは数十秒はたったかもしれない。その間俺は金剛さんから一瞬たりとも目を離さず、金剛さんは俺の視線を受けると共に思考を巡らせていた。
そして思考が定まったのか、金剛さんは目を瞑り長い溜息を吐く。
「俺一人では厳しいか・・・はあ、誰も巻き込むつもりはなかったんだがな」
「何かあった時に仲間を頼らなくてどうするんですか」
「そう・・・だな・・・。ふっ、いいだろう。その勝負、引き受けよう。但し、俺も今は虫の居所が悪い――危うく殺してしまうかもしれんぞ」
そう言葉を紡ぐと、金剛さんの抑えていた感情が解き放たれる。
表情は一転して修羅のように、そして金剛さんの感情に答えるように障壁がその輝きを増す。
「本当に・・・一体何を背負っているんですか。いいですよ、全力で来てください。一度金剛さんとは本気でやり合いたかったんですよ」
首を回し、軽く体を慣らす。
「じゃ、始めますか」
戦闘の合図はいらないだろう。
これは試合でも模擬戦でもない。
位階上昇――
「守護者」
「起きろ、戦神」
白銀の尾を引きながら一瞬で金剛さんの懐に入り、腹部目掛け右腕を振るう。
「守れ」
金剛さんの声に応え、彼を守護する障壁は六枚。
俺の拳は四枚を易々と粉砕するが、五枚目を貫いたところで止まってしまう。
流石だ。テレビで俺の戦闘を見てあらかた必要な枚数を把握しているのだろう。
金剛さんはその場からバックステップを取ると左手で俺の上空を指す。
「潰せ」
すると、七枚の障壁が俺の頭上に連立し、その面積を広げて一息に俺を潰さんと迫る。
「ふう」
焦る事はない。
闘気を左腕に収束、呼吸で上体を整え破壊の一撃を放つ。
「絶拳」
左腕を頭上に振り上げ、七枚の障壁全てを消滅させる。
衝撃で建物が揺れ、右腕に纏わりつく障壁を吹き飛ばす。
俺は再度距離を詰める為に疾走し、金剛さんもまた新たに召喚した障壁で応戦する。
五分後、
訓練場の真ん中で仰向けに倒れる金剛さんと傍に立つ俺の姿があった。
「はあ、はあ・・・分かっていた事だがやはり強いな。手も足も出ないとは」
そんな事はない。
俺は頬の傷から垂れる血を手で拭いながら金剛さんの実力に内心舌を巻いていた。防御型の能力でありながら俺相手に怪我を負わせられる実力者など世界で見ても一握りだろう。金剛さんは間違いなく破格の実力者だ。
「金剛さんの変化の原因を教えて貰ってもいいですか」
苦笑した後、金剛さんは語りだした。
五年前にあった事件を。
聞いているだけで虫唾が走るその内容は、当事者でないはずの俺でさえ拳を強く握り怒りを抑えなければならないものだった。
当事者の、それも恋人であった金剛さんの心中がどうなっているのか考えるのは容易だ。彼の口に滲む血が、殺意を秘めた瞳が物語っている。
「本当に・・・あの時に何もできなかった俺自身が憎くて仕方ないよ」
話の終りに金剛さんはそう締めくくった。
「・・・そんな事が」
俺は少し天を見上げ目を細めた後、怒りの表情を笑みに変えた。
「じゃあ、そいつらぶちのめしに行きましょうか!」
「それは無論だ。・・・柳もくるのか?」
「何言ってるんですか! 行くに決まってますよ! そんな胸糞悪い話聞いたんじゃあ拳が疼いて仕方ないですから!」
それに今も研究が進んでいるんだとすれば相手の戦力は強大だ。流石の金剛さんでも一人ではキツイ可能性も十分ありえる。
「ふっ・・・そうか。ならば、柳には頼みたい事がある。引き受けてくれるか?」
「最初からそう言ってればいいんですよ。勿論引き受けますとも、仲間じゃないですか」
隼人にはシリアスブレイカーの称号を授けよう(*‘ω‘ *)
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