82話 仮面の女
暑いですね~ 皆さんも体調にお気を付けください(*´▽`*)
二人で障壁の上に乗り要請のあった研究機関へと向かう。車やヘリを使うよりこちらの方が勝手がいい。
まさか昼時に襲撃するとは思っておらず少し驚いたが、何も支障はない。手早く任務を済ませて終わりだ・・・と、なればいいが相手の能力は未知数な上に報告ではかなりの強さを誇っているらしい。
「牙城、今回の相手は少々厄介な相手のようだ。気合入れていくぞ」
「分かってます・・・ちゃんと武器も持ってきましたから」
牙城の左手の小指には小さな指輪が嵌められている。その指輪は魔道具と呼ばれるもので、内蔵している武器を音声認識で取り出してくれる機能があるのだ。彼の指輪に収納されている武器は様々な種類の銃で、最大威力の物だと低位のSランク級を一撃で屠る事も可能だ。まあ、当たればの話だが。
「それじゃ・・・俺はこの辺で狙撃するので近接は任せました」
「了解だ。間違って俺に当てるなよ?」
「安心して下さい・・・百パーセント当てませんから」
何とも頼もしい台詞を置いて牙城は障壁から飛び降りる。
俺はそのまま障壁で空中を移動していると、直ぐに要請のあった地点が見えてきた。しかし、所々火が上がっており手遅れである事が分かる。
「ちっ、遅かったか・・・うん?」
まずは被害にあった研究員達の救助に移ろうと目を凝らした時、施設から出る一人の人物が目に映った。般若の仮面を被り紅の槍を持ったその姿は異様で、状況を鑑みると敵である事は一目瞭然だ。
飛行する障壁を操り敵の眼前に突撃する。
地面に衝突する寸前で後方に回転して着地すると、そのまま目の前の敵を見やる。
体つきから女性だと判断できるが、気迫が常人のそれとはかけ離れている。そしてここまで近くに来たことでそれの力を肌で感じた。
(何だ・・・あの槍は・・・?)
俺の五感全てがあの槍が危険だと訴える。
見た目からしてただの槍ではないのは分かるが、能力が全く分からない。頭の中にある文献と照らし合わせてもどれとも該当しない。
牙城と二人での任務であれば大丈夫だと思ったが・・・これは予想より遥かにきつい展開になりそうだ。
『ポイントに着きました・・・何時でもオーケーです』
インカム越しに牙城の声が聞こえる。
これでこちらの態勢は整った。出来れば相手が投降してくれるのが一番だが、
「特殊対策部隊だ、武器を捨てて手を上げろ」
俺の警告に相手は槍を構える事で答える。
「・・・残念・・・作戦開始だ、牙城」
およそ一キロ離れたビルが一瞬光り、住宅の上を超速の弾丸が駆け、仮面女の右足目掛け突き進む。
弾丸の殺傷力はほぼないが当たりどころが悪ければ即死するほどには威力は高い。仮面を着けたハンデを背負っている中で牙城の弾丸を弾くのは相当難しいはず。弾丸が直撃した瞬間に距離を詰め捕縛する。
キンッ
しかし、俺の作戦は一瞬で崩れ去る。
仮面の女は弾丸を視認する事も無く槍を軽く横薙ぎに振るい弾丸を両断したのだ。
遅れてタァン! と腹に響く重鈍な音が昼間の住宅に響き渡る。
「ちっ!」
第三の眼でもあるのかと悪態をつきたくなるが何とか抑え、四枚の障壁を操作し相手を囲う。
「・・・っ」
僅かな息遣いが聞こえ、槍を持つ手が力むのが分かる。
まさか、と嫌な予感が過ると俺は自分の前に三枚の障壁を連立させる。
次の瞬間、仮面の女は曲芸のように槍を回転させ、自分を囲う四枚の障壁を粉微塵にする。更に、障壁で抑えきれなかった余波が周囲を蹂躙し、眼前に連立させた障壁の二枚を崩壊させた。
「まったく・・・そんな軽々と、プライドもずたずただぜ」
笑えない冗談だ。障壁がまるで紙のように切り刻まれ、一枚では防御の意味を微塵も成していない。
『撃ちます』
牙城から二弾目が放たれる。
次は足ではなく腕を狙ったもので、避けるのが定石の一撃だった。しかし、仮面の女はその一撃も槍を振るい切断する。
わざわざ弾丸を迎撃した事に俺は眉をひそめる。
(こいつ、牙城の能力を知っているのか・・・?)
牙城の能力、【黒点掌握】は、己が狙いを定めた場所に必ず攻撃が当たるというものだ。回避をしても攻撃は軌道を変え狙いの場所に突き進む。対処法としては牙城の一撃を迎撃するしかない訳だが、
(何処で漏れたんだ・・・)
特殊対策部隊の情報はその機密性から外部に漏れる事はない。例外として俺のように世界ランクの上位に名を刻んでいるなら別だが、牙城は上位に位置している訳ではない上に、本人は余り能力を使いたがらない。
で、あるならばまた上層部の誰かが裏切った線で考えるべきか。
まったく、柳の事で手いっぱいだったってのにまたあいつらか・・・有能な人材以外潰すか?
「それで? お前は上にいる誰の犬なんだ?」
返答を期待しての問いではなかった。
ほんの軽口で語り掛けたものだったが、どうやら俺は選択を間違えたみたいだ。
「殺すぞ」
仮面の女から漏れ出す殺気が、物理的に空間を圧し潰すように俺に降りかかる。
・・・訂正だ。
仮面の女はどうやら上層部の犬ではないようだ、でなくばこれ程の殺気が出るはずもない。そして俺は彼女の地雷を踏んだどころか踏み抜いてしまったらしい。
女は槍を低く構え、地面を疾走して一気に距離を詰める。
弾丸の如く突き出される一撃を左の頬を掠りながらも体を右に傾けて回避し、流れる体にあわせた右拳で仮面を剥ごうと振るうも、相手は突き出した槍を目にも止まらぬ速さで懐に戻し、ほぼゼロ距離の位置から再度突きを出そうとする。
しかし、牙城から放たれた三段目に槍の向きを変え、刺突で弾丸を粉砕。その隙に俺は後ろに飛んで距離を取る。
『先輩・・・相手は並みの敵じゃない、本気でやります』
インカムから雰囲気の変わった牙城の声と雷の弾けるような音が聞こえる。
おそらく牙城は超電磁砲を放とうとしているのだろう。少々過剰だとは思うが、こういう場面でのあいつの選択はいつも正しい。俺は牙城の攻撃を止めることなく爆風に吹き飛ばされないよう周囲を障壁で固める。
仮面の女は俺の行動で次の攻撃を理解したのか俺に対する構えを解き、来たる一撃に感覚を集中させている。
『超電磁砲』
インカムからその声が聞こえたと同時、射線上の存在全てを焼き払いながら雷撃が駆ける。
対する相手は全力で回避――することなく瞬時に槍を肩に担ぎ投擲の構えを取る 。
あれを防ぐつもりなのか?!
ありえないとは思いつつも、俺は心のどこかで可能であるかもしれないと考える。
何せ、紅に輝く槍が、柳の白く輝く姿と余りにも似ていたから。
超電磁砲がコンマ一秒で直撃する瞬間、仮面の女は何事かを呟く、
「貫け、―――の槍」
その呟きと同時に投擲された槍は、一瞬の拮抗の後超電磁砲を貫き、牙城へと迫る。
「避けろっ! 牙城!」
『ッ?!』
インカム越しに凄まじい破壊音が響き、槍の投擲による威力が如何に強大であるかを物語る。
『・・・あっ、ありがとうございます。危うく死ぬところでした』
牙城の言葉に一先ず命の危機はない事に安堵し、俺は仮面の女に向き直る。
牙城に放った槍は宙に軌跡を描きながら所有者の手に吸い込まれるようにして帰還を果たす。
最悪死ぬかもしれないな、と冷や汗を流していると仮面の女は何故か俺に背を向けこの場を去ろうとする。
「おい、何処に行くつもりだ!」
意味の分からない行動に思わず叫ぶと仮面の女は一度立ち止まり、
「あんたはそっち側じゃないだろ・・・まだ、何も終わってないぞ」
そう言葉を残し消えていった。
この場に残された俺は目を驚愕に開き体を動かせないでいた。
最後の彼女の声が俺の知る人物の声と瓜二つだったからだ





