79話 大会終了、そして予兆
ようやく体調がよくなってきました。
活動報告コメントとレビューありがとうございます(*´▽`*)
ジャックさんとの決勝を終えると、数十分の準備の後、閉会式が執り行われる。
およそ二百名の選手達が並ぶが、何故か俺の周りには一定の距離があった。
そんなに汗臭いのかと焦ったが、離れた位置にいるレオンさん、ジャックさんも俺と同様の状態になっていたのでどうやら俺が臭い訳ではないらしい。
「・・・慣れねえな」
遠巻きに様々な人間の視線が刺さる。
然程が好奇心や賞賛を込めたものだが、中には怒りや嫉妬が込められた視線も感じる。確かに、今まで一度も名前が出なかった齢十六の少年がいきなり現れ優勝をかっさらっていったのだ、そういう感情を持つ者は多いだろう。
『三位、アーベル・レオン』
閉会式の長ったらしい演説が終わると、レオンさんの名前が呼ばれる。堂々と前に進むレオンさんに観客から歓声が贈られる。
『二位、ジャック・グラント」
次に呼ばれたジャックさんは、ニヒルに微笑むと観客席に手を振る。
「「「きゃ~!!!!」」」
女性たちの黄色の声が会場中に響き、比例して俺の不快指数が爆増する。
・・・決勝はもっとぼこぼこにするべきだったかもしれないな。
強いうえにイケメンでモテモテとか・・・喧嘩売ってんのか? 天は二物を与えないんじゃなかったのかよ。
『優勝、柳 隼人』
今日一番の野太い叫びが上げられる。
・・・くっ、どうして目から汗が出てくるんだ。何故俺には女子のキャッキャウフフが来ないんだ!
唯一の望みをかけ家族がいるであろう席に目を移す。
蒼はルイを膝に乗せたまま爆笑して手を叩いており、母さんは父さんとイチャイチャという名の拷問をしている。
ただ、服部さんと西連寺さんはネジの飛んでいる俺の家族とは違い、心から歓声を上げてくれていた。
二人のおかげで多少回復した精神力を使い、目から溢れ出る汗を押し留め順位台を上る。
大会責任者の貴殿はなんちゃらかんちゃらとお決まりのセリフを述べると最後に俺は賞状を受け取る。
『それでは、優勝した柳選手から何か一言感想を頂けますか』
おい、それは聞いてないぞ。
困惑している俺を完全に無視して渡されるマイク。両隣ではイケメンと戦闘狂がいやらしく笑っておりマイクを顔面にぶつけたくなってくる。
「あぁ、そうですね」
一体何を言えばいいのか。
とりあえず世界の危険性でも言っておくか?
「どうせ俺の情報も公開されると思うので多くは語りませんが、まずは俺がこの場に立っているという事実をしっかりと受け止めて下さい」
俺の言葉に困惑の表情を浮かべる観客。
まあ、これだけ伝えてもよく分からないだろう。
しかし、俺の情報が公開された時必ずだれもが目を疑う事になるだろう。何せ俺の能力数値は『0』だ。最弱であり、虐げられる者であり、何者にも勝てぬはずの人間が大会で優勝するどころか新たな絶対者となる事が半ば確定している。
世間は荒れるだろう。
しかし、その事実を受け止めなければ、必ず後悔する日が訪れる。彼等彼女等がそうならない為の分岐点はきっとこの瞬間だ。
会場中を見渡し、彼等に訴えかける。
「数値に囚われないで下さい。イレギュラーは俺を含め必ず存在します。現在の世界の認識ではもしその存在が悪であった場合、取返しのつかない事態に陥るでしょう」
今はまだ分からないかもしれない。
しかし、これは勘だが、その日は予想以上にすぐそこまで迫ってきている気がするのだ。出来るだけ決断は早めに決めて欲しい。
「と、まあ面白くもない話はここまで。最後に一言言わせて貰うと、例え才能がなくとも積み重ねれば天才をも凌駕出来る日が来ます。ですので、決して諦めないで下さい。あわよくば、俺が働かなくてもいい世界にして欲しいですね」
ぽつぽつと笑い声が聞こえる。
これにて俺の大会は終了だ。
明日からは・・・ナンパにでも行くか!
外国のボインを満喫するぜ!
◇三者視点
ホテルの一室。そこには三人の男女がおり、その中の白髪の少年はテレビを見つめ口の端を三日月に吊り上げる。
「見つけた見つけた見つけた見つけた」
「って、こえーよ! さっきからどうした!」
白髪の少年の異様な姿に筋骨隆々の黒髪の男が思わず叫ぶ。
「ああ、ごめんね。遂に長年求めてきた宿敵を見つけて舞い上がってしまってね」
「宿敵? もしかしてお前がずっと言ってた神々の選定者って奴か?」
「そう、そうなんだ。僕の対極の存在。正またはそれに類する神々に見初められた存在。ああ、早く早く早く会いたいな・・・・・・そして殺す」
一転、少年の表情から感情が抜け、無表情となる。
瞳は黒く濁り虚空を見つめている。一体今何を考えているのか分からない少年に黒髪の男は頭を掻く。
「はあ、こいつがこうなると面倒なんだがな・・・なあ、どうにかしてくんねえか?」
黒髪の男は室内にいる三人目に声を掛ける。
「俺に喋りかけるな。お前等とは偶々目的が被っているだけでこれが終わったら貴様等は殺す」
三人目は眼光に殺気を込め男を睨む。
俺、と自分の事を呼んでいるが肩口まで伸びた茶髪に綺麗な顔立ち、そして女性らしい大きな胸が少女が女性であることを如実に表している。
更に彼女は一本の紅の槍を手に持っており、槍からは尋常ならざる気が溢れ出していた。
「おおぅ、怖い怖い」
男はおどけたように手を上げると再度白髪の少年に顔を向ける。
「それで、宿敵さんを見つけたお前はこれからどうするんだ?」
「そうだな、今すぐにでも殺しに行きたいが奴も強敵だ。だからまずは確実に殺すための準備をしなくちゃいけない。ああ、そっちの君は自由に動いてくれていいよ、僕もその方が色々と動きやすそうだからね」
「言われずともそうさせても貰う。貴様がこれから何をするかは知らないが、目に余る行動をすると、今すぐに殺すぞ」
少女はそれだけ言うと部屋から出て行く。
その背を眺める少年は軽く笑うと机の上にあるコーヒーを口元に持っていく。
「愛する姉を殺された復讐に囚われた少女・・・か。自分でもそれが単なる逆恨みである事は分かっているのだろう。それでも武器を持ち前に進む姿は何とも・・・滑稽で、愛おしく、美しい」
少年の惚けるような笑みに黒髪の男はドン引きするが、何も言わない。感情の昂っている状態の少年に喋りかけると何をするか分からないからだ。
少年はスマホを取り出すと己の能力数値を見て不気味に嗤う。
「君が言葉を紡ごうが人間の根底はそれほど簡単には変える事はできない。君は誰も守れない。そしてこの世に神は一人で十分だ・・・待っていろ、柳隼人」
スマホに映る少年の能力数値は、
『0』であった。
次章は『不退の守護者』か『イギリス旅行』のどちらかになる予定です。





