77話 炎の巨人
剣聖視点。
これは、人間と戦っている気がしないな。
上空に浮遊している炎の化身。
炎を自在に操り、僕との距離を一定に保ったまま一方的な攻撃をしている。
そして、そんな無茶を可能とさせる火力が明らかに人の域を超越している。
ひとたび振るえば町一つを氷の世界に変える神器、氷結剣フレーリアをもってしても自分の周囲を凍らせる事しか叶わないとは。
「まあ、一本で戦う訳ないよね」
こんな序盤で二本目を切らされるとは思わなかった。
封結剣リブ、能力は名の通り封印と結界。
結界で対象を囲むことで消滅、封印を可能とする宝剣だ。
左手にフレーリア、右手にリブを持ち万全の状態で構える。
まずは僕の間合いに彼を入れなければ話にならない。ならばこちらから攻めるしかない。
「仕方ないか」
剣を一振り、感触を確かめると上体を前面に倒しながら疾走する。
「滅せよ」
当然、少年が容易に懐へと入らせる訳もなく炎の猛撃が迫る。
龍が、大蛇が、騎士が、あらゆる万物に炎が形を変え、敵を滅ぼさんと地を、空間を蹂躙しながら踊り狂う。
僕が出来る事はただ一つ、斬る事のみ。
龍の首を落とし、大蛇を両断し、騎士の大軍を切り払う。
「囲え、リブ」
それでもなお時が戻るように再生する炎を結界で囲み、完全に消し去ると、一歩、また一歩と前進し熱風を走り抜ける。
ああ、楽しい。
これほどまでに斬りがいのある相手はいつぶりだろうか。
Sランク級上位の吸血鬼との戦闘を思い出す。終始決着はつかなかったが、あの超回復は正直もう御免だ。斬っても斬っても倒れない相手程面倒な相手はいない。
「凍てつけ、フレーリア!」
そんな昔の事を考えながらも彼との距離を詰めていく。
フレーリアで巨大な氷像を作り出し、その上を疾走し飛び上がる。
浮遊している少年の頭上まで飛び上がるとお互いの瞳が交差する。
動き出しは同時、
「凍れ!」
「燃えろ」
極氷の剣と猛火が空中でぶつかり合う。
衝撃が伝播し世界が彩られる。
僕の後方は次々に凍りつき、まるで氷の世界を体現しており、反対に少年の後方は燃え盛る炎が徐々に黒く変色し、まるで地獄だ。
「くっ!」
ようやく間合いに入れる事が出来たが、正面からのぶつかり合いは僕の方が若干だが押されている。本当に馬鹿げた火力だ、何故これほどの能力者が表に出てこなかったのか不思議でならない。誰かが情報操作していたのかもしれないな。
フレーリアで押し込みながらも右手のリブで彼の周囲を一閃する。
「ん?」
突如として出現した結界に彼は僅かに眉を寄せると、浮遊する炎の腕で破壊しようとする。
「させないよ」
しかし、僕の方が早い。
彼を囲む結界の上からフレーリアで凍らせる。リブの能力である封印も発動している。早々に破る事は不可能。このまま結界ごと切り裂けば、
バキッ!
眼前の結界が罅割れ人の指が顔を出す。
次の瞬間、その指は結界をこじ開けるように左右に大きく開くと結界を粉々に粉砕する。
驚愕に唖然としている中、純白のオーラを纏った拳が僕の腹部を捕らえ地へと叩き落とす。
「がはっ?!」
(あれはっ、レオンとの試合で見せたスタイルか!)
まずい! だとすれば一瞬の隙が命取りになる。
地面に手を付け即座に体を起こす。
――眼前に拳が迫っていた。
「星穿」
最早この行動に僕の意思はなかった、本能が警鐘を鳴らし今までの経験が体を動かす。
拳と自身の間にリブを潜り込ませ、最大限の結界を張り防御する。
「――六撃」
一瞬の拮抗の後、結界が粉砕し衝撃が体を襲う。
(重っ?!)
だが、距離は離れた。
吹き飛ばされている体を空中で回転させ剣を構える。
前方からは白髪に変化し、純白の闘気を纏う少年が地面を砕きながら疾走する。
星のように輝きながら地を駆ける姿は美しさすらあり、戦闘中だというのに少し目を奪われる。
「おっと、御免よ」
そんな僕を咎めるように剣が振動する。
今は戦いに集中しよう。
距離は二十メートル、彼は一歩を強く踏み込むと跳躍し、距離を瞬く間にゼロにする。
「流星群」
空間を覆うような拳の嵐、確かレオンはこれを【先見】で回避していたのだったか。
残念ながら僕に未来は見えないのでそんな芸当は出来ないのだが、
だから、全て捌く。
一挙一動全ての動作を予測、拳に合わせ剣を斜めに構え衝撃を受け流す。
「ッ?!」
ここにきてようやく少年の顔色が変わった。
僕は一応絶対者だが彼等とは違い、技の威力や応用よりも技の技量に重点を置いているのだ。
「レオンとの戦闘を考慮して僕に挑んでいるのならやめておいた方がいいよ」
隙間を縫うように剣の一閃を見舞う。
少年は剣の腹に左の拳を当てると、体を横に回転させながら宙に飛び上がり、炎に包まれる。
「爆ぜろ!」
放たれる爆炎を後方に飛ぶことで回避する。
先程スタイルを自在に変えられることが分かったから予想はしていた。
少年は再び上空に浮かび上がると、身に纏う炎の勢いを弱める。
一体何をするのかと眉を寄せた時、それは起こった。
「叩き潰せ、炎の巨人」
燃え盛る炎が一点に集まっていく。
それは人の形を模し、足、胴、腕と次々に完成へと向かう。
数秒をかけ、遂に巨人は完成する。
でかい・・・何て言葉では表せない体躯を持ったそれは足元の僕を、首を曲げ睥睨する。
「・・・ははっ、これは流石に予想外だ」
乾いた笑みが漏れ、頬を冷たい汗が垂れる。
この巨人を前にいくら技を繰り出したところで意味があるようには思えない。
(しかし・・・先程から彼が動かないとこを見るに、巨人に割くリソースが相当に高いということか)
賭けるならそこだ。
術者たる少年を倒すしか方法はない。
そうと決まれば話は早い。
空気をフレーリアで凍らせ、一気に少年との距離を詰める。
・・・
気を抜いたつもりは無かった。
全体を注視し、巨人の挙動を常に見続けていた。
しかし、現実として僕は巨人の脚で蹴り上げられた。
「かはッ?!」
たった一撃で意識が吹き飛びそうになる威力に肺から空気が吐き出され、剣が手から離れそうになる。
巨人の動きが速い訳ではない。
体が巨大すぎるあまり少しの動作で空間の何処にでも攻撃が届いてしまうのだ。
脚を上げるだけの動作と数十メートルを走り抜けるのとでは圧倒的に前者の方が早く届く。
「・・・だからって、簡単にはやられないさ!」
気力を振り絞り、体を反転、宙の空気を凍らせることで足場にし、少年目掛け飛び出す。
僕を掴もうと巨人が振り上げた手をフレーリアで切り裂きながら回避する。
体はところどころ火傷し、服が黒く炭化している。
「うぉおおおお!!!」
しかし、だから何だというのだ。
腕がもげようが下半身が消えようが、そんな事が止まる理由には断じてならない。
愚かだと笑えばいい。
それでも僕は剣を振り続けよう。それが少年に対する最大限の礼儀であり、僕という人間の意地だ。
少年に辿り着く直前で、巨人の手が僕を地に叩き落とす。
「ぐッ!」
血を拭い、剣を地に走らせると再度少年に躍りかかる。
それを何度も、何度も繰り返し、
――ようやく完成した。
「リブ」
僕の呟きと共に少年の足元に五芒星の輝きが現れる。
「これはっ!」
少年が脱出しようと動き出すが、もう遅い。
「眠れ」
五芒星の内側全てが凍りつき、巨大な氷塊に姿を変える。
フレーリアとリブの合わせ技だ、地に剣を走らせそれぞれのポイントに記しを付けるのに多少時間が掛かったが何とかなった。
そして、炎の巨人は姿を徐々に薄れさせ完全に消滅した。
「勝った・・・と言いたいけれど」
まだ、フィールドから戻されていないという事は・・・
気を引き締め、油断なく剣を構える。
そして僕の予想を証明するかのように、氷塊の中心を紫電が走る。
縦一閃に両断され、中からは着物を羽織り、二本の刀を腰に差した少年が現れる。
今までの圧倒的な覇気は消え失せ、ただただ静を体現した姿に剣を握る手に力が入る。
「位階上昇――舞い踊れ、武御雷」
剣聖だけで物語作れそう。
次話は28日予定(*´▽`*)





