75話 神との対話
フィールドから帰還した俺を迎えたのは会場中の観客から発せられる大歓声であった。
誰もかれもが感情を爆発させて叫ぶため何を言っているのかは分からないが、この歓声を聞いてようやく俺は勝てたのだと実感する事が出来た。
「ようやく・・・か」
何だか感慨深くなり、目を細め顔を上に向けていると、武骨な手が俺の頭を無造作に撫でつける。
「おうおう、マジで俺に勝ちやがるとは。やっぱ最高だぜお前!」
「あ、レオンさん」
振り返ると、屈託ない笑みを浮かべた赤髪のレオンさんが立っていた。
肉体の外傷はないとは言え、あの戦闘の直後によくそこまで元気に笑えるものだ。
「統括支部のお達しがねえとまだ絶対者って訳じゃねえが、お前は俺を倒した。まず間違いなく俺達の同類になるのは決定事項だ。はははっ! これから忙しくなるな!」
何か不穏な事を言っているが全力で厄介ごとからは逃避させて頂こう。
絶対者関連の面倒事など考えたくもない。
「俺はのんびりしてたいんですけど・・・はあ、じゃあ俺はもう行きますね。テレビの取材に捕まるのも面倒くさいので」
「おう、明日の決勝を楽しみにしとくぜ!」
「はぁ~ 疲れた~」
準決勝終了後、テレビの取材を撒きながら家族を見つけると速攻でホテルへと帰還した。
「い、いや~ 今でも夢の中にいる気分なんすけど。柳君は本当にあのレオンさんに勝ったんすね・・・」
勝った・・・のだろうか?
九割がた戦神の成果で、俺は最後の一撃程度しか成果を残せていない様な気がする。
その証拠に先程から母上の機嫌が悪い。腕を組んで不機嫌オーラをこれでもかと噴き出している。そして母上の隣で頬を膨らませている蒼は何なんだ?
「蒼さんや、どうしてそんなリスみたいになってるんですかい?」
「む~ だってお兄ちゃん最初の方、相手が強敵だからってビビッて本気出せてなかったじゃん!」
「は? いや、そんな訳ないだろ」
相手はあの絶対者だ、一瞬のミスでさえ命とりになる相手。
だから最初から本気でやっていたし、武術すら使って今まで以上に慎重に行動していたはずだ。
「いえ、蒼の言うとおり加減してたわよ。いつものあなたなら慎重な行動よりも派手な力で相手を叩き潰そうと動いてたはずよ?」
・・・確かに、言われてみればそんな気がしないでもない。
あそこまで追い詰められたらいつもであれば力の方向性を変えていただろう。情報を漏らしたくないとは言え戦神を最後まで使おうとは思わなかったはずだ。
そうか・・・俺はビビってたのか。
「まあ、その隙を見咎められて一時的に体を取られたのだから、十分自分の弱さを反省はしているのでしょう?」
「そりゃ当然」
今頃神様も額に青筋を立てているだろう。
俺もまだまだってことだな、まだ絶対者と名乗る訳にはいかないか・・・
「勝つよ、明日も」
「ふふ、当たり前よ。何せ私と篤さんの息子なのだから。明日も無様な姿を見せてみなさい、その時は死にたくなるような特訓をしてあげるわ。それが嫌なら圧倒的な勝利で完勝しなさい」
まったく、無茶を言ってくれる。
ジャックさんはレオンさんよりも序列は上だというのに。
しかし、その彼を圧倒する事で俺の絶対者としての第一歩としよう。
それに、一応レオンさんを倒した俺は絶対者になる事は確定であるとすれば、俺の能力に干渉してくる阿保共はほぼいないと考えられる。
つまりそれは、全ての能力を存分に使えるという事。
枷は全て解き放たれた、負ける気がしない。
「ああ、そう言えば隼人の明日の対戦相手って三人も嫁さんがいるんだったか・・・はははっ! 隼人とは雲泥の差だな!」
とりあえず糞親父を殴り飛ばす。
・・・忘れていたよ。
そうだ、そうだったな。
明日の相手はハーレム野郎じゃあねぇか!
「ふ、ふふははははははっ!」
今までの自省の雰囲気から一変して嫉妬の咆哮を放つ俺に女性陣のジト目が突き刺さるがこの感情を抑える事など不可能だ。
倒す、倒さねばならない!
見ていてくれ、全人類の同志達よ! 俺は必ずや、ハーレム野郎をぶちのめす!
これは俺達の聖戦だ、負ける事は許されない。
◇
明日の決勝に向け、夕食をみんなで食べ風呂から上がると直ぐに俺は寝床についた。
そのまま直ぐに意識が薄れると、いつのまにか白に覆われた空間の中に俺は立っていた。
「ああ、やっぱり呼ばれると思ってました。お久しぶりです」
「おう、辛気臭ぇ顔してねえで座りな」
空間の中には俺のほかに三人の・・・いや、三柱の男性の姿があった。
一柱は白髪の筋骨隆々の男、暴力的とも思える闘気が吹き荒れており、俺の頬を冷たい汗が伝う。
一柱は燃え盛る様な、いや、実際に体から獄炎を迸らせ宙に浮遊してる。
そして最後の一柱は浴衣を着ており二刀の刀を腰に携えたまま静かに目を瞑り瞑想している。
混沌だ。はやく目覚めねえかなあ・・・
「・・・じゃあ、失礼して」
促されるままに白髪金眼の男――戦神の前に腰を下ろす。
「今日お前さんを呼んだのは軽く喝を入れる為、だったんだが、どうにもその必要はねえみたいだから久々に軽く喋ろうやって感じだ」
「はあ? と、言いましても喋るような事なんてありますか?」
喋るよりもはやくこの理不尽の象徴から解放されたいです。誰かヘルプミー。
「いやいやあるだろう、明日の決勝は俺の力を使うつもりなんだろう?」
横から炎を纏う男――太陽神が喋りかける。
いや、超熱いんですけど。そんなに近寄らないでもろて。
「え、ええ。何せ相手は剣、間合いを詰めさせなければ楽に倒せる相手かと」
「けっ! 拳に気合入れりゃあ炎なんざいらねえだろうが!」
「がははっ! 拳だけで解決するのはただの脳筋だ。いい加減それだけでは足りない事を理解しろ!」
「んだとごるぁああ!」
この二柱は毎回こうだ。
仲がいいのか悪いのか・・・それに巻き込まれる俺の気持ちを少しは考えて欲しいものだ。
「・・・太陽神の力だけでは難しいかもしれんぞ」
ここでようやく武御雷が口を開く。
「そりゃどういう事だ? 俺の力があの剣野郎に劣っていると?」
「そうではない。お主の火力があれば我らの領域に踏み込んでいるといえど、人間に後れなど取らぬであろうが、隼人はまだ発展途上。お主の力には程遠い」
「成程、確かに言われてみりゃそうかもな・・・」
自然に俺が弱いと貶すの止めて頂きたい。迷宮の任務から帰還した後、ちょいちょい太陽神の力も訓練していたがまだまだ足らないという事か。
「・・・その時は武御雷様の力を行使しますよ、場合によっては位階を上昇させると思います」
「ふむ、守護神が力を貸してくれれば話は早いのだがお主は女神に避けられておるからなあ」
「ぐふぅ?!」
うぅ、涙が止まらん。
現実では彼女は出来ないし、超常的存在である女神にも避けられてるとか・・・俺、これから何を支えに生きて行けばいいんだ。
「まあ、我の力でなくともよいがな」
「いや、流石にあの方の力使ったら次元ごと消え失せそうなんで止めておきます」
「それもそうか、農具であれ程の威力を出せるとは我が目で見ても信じられん。その上、奴の力は一つではないのだから・・・全く、敵でなくて良かったものだ。もし、敵であったなら我も滅ぼされていたかもしれぬ」
武御雷様が倒されるイメージが全く湧かないが、どちらも桁違いな程強いからなあ。
「いやいや炎だけで倒せよっ?! 既に諦めてたら仕留められるもんも仕留められんぞ!」
「まあまあ、落ち着いて下さいよ。俺も可能な限り力はばらしたくないので、本気でやりますから」
そんなこんなで神々と喋りながら俺の夜は過ぎていった。
次回、明日予定。
明日から決勝(*´▽`*)





