64話 アメリカ支部の二人
「お兄ちゃんあの建物何!」
「柳君、あっちも面白いのがあるっすよ!」
「じゃ、後で行ってみますか」
俺のおざなりの回答にも満面の笑みで頷きキャッキャウフフする女性陣。
少しは落ち着いて欲しいが旅行気分の女性にそれを言うのは野暮ってものだろう。
ちなみに他のメンバーとは別行動をしていて、どうしてか俺に服部さんと蒼が付いてくることになった。
昨日転移した後の話をすると、アメリカは日本とは十四時間程時差がある為、転移した時は既に夜中であった。事前に予約していたホテルに泊まり、夜を明かしてからこうして街に繰り出している。
そうして余力が有り余っている二人は目の前のようにテンションマックスで走り回っている訳だが、今日は観光の前にしなくてはならない事がある。
世界大会が行われる会場に行って武器の申請をしなければいけない。
今回は絶対者に当たるギリギリまでは能力を隠しておきたいのだ。五十パーセントの勝率より五十・一パーセントを俺は取る。
客の非難の目もあるだろうがそんな事は知った事ではない、俺の目的は絶対者を倒す事だ。別に優勝を目指している訳でも正々堂々の戦いをしに来た訳でもない。卑怯上等だ!
「うわ~! 美味しそうなお菓子売ってる!」
「あっちで大食い大会やってるらしいっすよ!」
・・・流石にお二人さんを止めた方がいいか。
二人は傍から見れば超の付く美少女だからな。
モデル顔負けの容姿に加え、万人を笑顔にする笑顔を振りまけば当然、勘違いしたパリピ共がやってくる。
「ちょっとそこのお嬢ちゃん! 俺達と一緒に――」
「あれ? お兄ちゃん、この人たち何かいきなり倒れたんだけどどうしたのかな? 助けた方がいい?」
「ほっとけ、どうせ昨日パーリーナイトして酔いつぶれてるだけだろ」
「そっか~ じゃあいいや」
蒼をナンパしに来たパリピ共に殺気を向けて意識を飛ばす。
中学生相手にナンパしてんじゃねえよロリコン共。ぶっ飛ばされてえのか!
「お~い! 緑髪の――」
次いで服部さんをナンパしようとするアホンダラを手刀で気絶させる。
そうして目的の場所に着くまでの間に数多くの気絶者が街中に溢れ、通行人は地面に倒れている人たちを困惑するように見ていた。
「お~ 着いたっすね!」
「ここが・・・」
「そうっす! 世界大会が行われる会場っすね!」
巨大なドーム型の会場だ。
特殊対策部隊本部の地下にある空間の一・五倍はあるかもしれない。
「早速入ろうよお兄ちゃん! 中はどうなってるんだろう!」
俺の腕を掴んでどんどん進む妹殿。
少しはペースに落ち着きを入れて貰いたいんですが・・・流石は母さんの指導を受けてきただけはあるな。将来は立派なヤンデレになる事だろう。
入って真っ直ぐ進むと試合が行われるであろう空間が見える。外から見た通り内部の空間も大変広く、収容人数は六万人との事だ。
東京ドームの収容員数が約四万六千という事を考えると単純計算でもその一・三倍はある事になる。
「おお、凄い! お兄ちゃんこんな場所で戦うんだね!」
まだ試合が始まっていないというのに手に汗が滲み心臓が大きく鼓動する。
え? マジで俺こんな場所で戦うの?
しかも当日はテレビも来て全国にその雄姿を映されるらしい。
もういっそ試合そっちのけで絶対者を倒した方が気分的には楽かもしれない。街中探せば見つかるかな? まあ、ダメだよな。
こめかみを左手で押さえ溜息を吐くと、武器の申請の為に受付の場所へと移動する。
受付の場所は入り口を入って左側にあったらしくどうやら見過ごしていたみたいだ。余程緊張しているな・・・
「じゃこれでお願いします」
「はい、かしこまりました。当日にはこのカードを提示して頂ければ申請して頂いたものと交換する事が出来ますので忘れないで持ってきて下さい」
「分かりました」
申請用紙を提出してカードを受け取る。
番号は『四』番。幸せの四番ってことでいいよな。反論は許さん。
死んだ目でカードを眺めていると、不意に何処からか声を掛けられる。
「お? 服部じゃねえか」
「うん? ああ、ライルさんじゃないっすか。隣にいるのはマナさん? もしかして世界大会に参加するんすか?」
「参加するのはこの馬鹿だけよ。私は戦闘においては無力な事は知ってるでしょ」
どうやら服部さんの知り合いのようだ。
茶髪で長身の男性とその隣には金髪の小柄な女性がいる。
「服部さんのお知合いですか?」
「そうっす。合同任務で何度かあった事がありまして、彼等はアメリカ支部の能力者なんすよ」
「おう! もしかしてお前新入りか?」
「はい。入って一か月程度です」
俺が答えるとライルさん? は面白そうに笑みを作り、少し好戦的な威圧をかけてくる。
「じゃあ、ちょいと先輩が戦闘ってのを教えてやろうか」
「ちょっとやめて下さいよ! 柳君は大会に備えないといけないんすから変なちょっかいかけないで欲しいっす」
「ほう? そいつが・・・マナ!」
「はあ・・・あんた趣味が悪いわよ? まあ、私も日本の新人君はちょっと気になるけどね」
金髪美女はそう言うと俺を少し見つめる。
いつの間にか瞳の色が青色に変わっていて何だか見透かされている気分になった。
「・・・君、大会に出ない方がいいわよ」
「は?」
突然の言葉に混乱し、間抜けな返事が出てしまったが、これは致し方ないだろう。
何せ見ず知らずの人にいきなり大会に出るなと言われたんだ。訳が分からな過ぎて頭が真っ白になるのは当然だ。
「おいおいもったいぶるなよ、それでいくつだったんだ?」
茶髪のライルさんはにやにやと笑みを浮かべながら訪ねる。
一瞬マナさんは回答に俊巡するが、直ぐに口を開いた。
「・・・百よ」
「は? すまん、何かの聞き違いか?」
「聞き違いではないわ・・・その子の戦闘力は間違いなく百よ」
「・・・」
ライルさんはその顔から表情を消すといきなり俺の胸倉を掴み上げる。
「おい、お前舐めてんのか」
「いや、何の事か分からないんですが!」
まあ、大体分かるけども。
大方金髪のマナさんは相手の強さを可視化できる能力を持っているのだろう。そして俺を能力を使ってみたところその戦闘力はたったの百。今は能力を使っていない為これは俺の生身の戦闘力だろう。
そして能力者の強者が集まるこの世界大会に俺のような雑魚がいる事に目の前のライルさんはぶちぎれている訳だ。
「ライルさん。それ以上柳さんに手を出すなら私があなたを叩き潰しますよ」
俺の横にもぶちぎれている人が・・・
服部さんや・・・そんな怖い顔しなさんな。
後ろの蒼を見て下さいよ。どうでもよ過ぎてベンチで船漕いでるじゃないですか。あれを見習って・・・いや、お前は何で寝てんだ?! 兄のピンチだぞ!
「ちッ?! 金剛の野郎も目が曇ったみたいだな、こんな雑魚を部隊に入れるなんざ何考えてやがる。おい、行くぞマナ。時間の無駄だ」
「はあ~ 分かったわ。・・・ごめんなさいね、あいつ単細胞だから。でも、本当に出場はやめておいた方がいいわ。場合によっては心に重大な障害が出てしまうかもしれないから」
そう言うと、アメリカ支部の二人はドームから出て行った。
出る瞬間、
「女に庇われて恥ずかしくねえのか?」
と言うライルさんには多少腹が立ったが、今は我慢だ。
「もう、何なんすかあの人! 柳さん、大会でぼこぼこにして下さいね!」
「あはは、それはちょっと難しいかもしれませんね」
ぼこぼこどころか反撃する隙すら無く瞬殺してやりますよ。
ふっふっふ、そしたら面目丸潰れで顔を真っ赤にするでしょうね。
「あがっ、ふぁ~ もう終わった?」
そして蒼、お前はちょいとお仕置きだ。





