63話 吠える獅子と微笑む剣の化身
俺が世界大会への出場を決めてから四日後、そうもう四日だ。大会まで一週間を切っている。どうすんだよまじで。出場する絶対者が誰なのかも分からんぞ。
「ふう~」
気持ちを切り替えよう。
今日は大会が開催されるアメリカへ西連寺さんの能力でひとっ飛びする事になっている。国境を越えるのにそんな方法でいいのかと思うが、特殊対策部隊は免除されているのかもしれない。もし応援要請が来て国を移動するとき一々手続きしてる暇など微塵もないからな。
まあそんな訳で、今は柳ハウスに西連寺さんと服部さんを招いている。
転移する場所は本来何処でもいいのだが、わざわざ家に招いた理由がある。それは、マイファミリーが同行するなどと宣ったからだ。
俺は必死に抵抗したが虚しく撃沈、父さん、魔女、暴君の三人は旅行にテンションマックスだ(ルイも同行)。ちなみに蒼に学校はいいのかと聞いた時、
『え? 何言ってるのお兄ちゃん? その時期は夏休みに・・・あっ、ごめん。社畜のお兄ちゃんにはそんな時期は無かったね、気にしないでね!』
憐みの目で見てきやがったので拳骨をくらわせてやった。
そして現在、我が母を前に服部さんがタジタジになっていて大変面白い状況になっている。
「は、服部 鈴奈っす! よろしくお願いします!」
「あらあら~ とっても可愛い子じゃない! ねえねえ好きな人とかいるのかしら? お姉さんに言ってごらんなさい」
「あわわわわ!」
母さんに撫でまわされ目を白黒させながらテンパっている。母さんは初対面の人でもぐいぐいいくから大抵の人は最初こうなるのだ。西連寺さんは己に飛び火しないように必死に気配を消しているが、奴に捕まるのも時間の問題だろう。
それにしてもお姉さんって、ぶふっ、もうそんな歳じゃ、
ガシッ
母さんは流れるように俺の頭を掴むとアイアンクローをかます。
「それ以上ふざけた事考えたら頭が柘榴になるわよ?」
「ずびばぜん!」
俺の謝罪(命乞い)を聞いて納得したのか手を外しゴミのように投げ捨てる。
痛ってえ・・・なんてお姉さんだ。
服部さんと西連寺さんがびびって端の方で震えてるじゃないか。
痛む頭を摩りながら準備した荷物をまとめていく。
数日分の着替えにスマホ等の電子機器、後はお菓子ぐらいか?
ちなみに言語の心配は無用だ。
俺は英語を完璧に習得した!・・・などというのは幻想だが、服部さんに言語を自動で翻訳してもらえる指輪を貰った。他人の言葉を分かるように翻訳するだけでなく自分の言葉も相手に伝わるよう変換してくれる超優れものだ。
今は俺と蒼の指に嵌められている。
他のメンバーは全員が英語を習得しているらしい。父さんと母さんは兎も角、服部さんも英語が話せるとは思わなかった。一つだけしか歳が変わらないのにこの差は一体・・・
「にゃ~」
「・・・ルイ、慰めてくれるのか? そう言えばお前性別どっちなんだ?」
少し調べようと体を掴むと、ベシッと猫パンチをくらってしまった。猫にもプライバシーがあるらしい。仕方ない、確認は諦めよう。
「それじゃそろそろ飛ぶよ~」
俺を母さんへの盾にしながら西連寺さんが声を掛ける。
「いつでもいいわよ~」
旅行カタログ片手に頷く母さん。
「家族旅行って久しぶりだね!」
兄の事を忘れ旅行気分の蒼。
「よしっ! カメラもばっちりだ! これで隼人の雄姿をしっかりとれるぞ!」
唯一息子の事を考えている大黒柱。ただし家族内カーストは最下位。
「みゃ~ みゃ~」
もちろんルイの事も忘れてないぞ。
不満たらたらの猫様を腕に抱いて準備万端だ。
「じゃあ皆で円になって手を繋いで下さい」
指示された通り、全員で円になって手を繋ぐ。
ただ、俺は猫を抱いているため肩を掴まれている。左は西連寺さんで右が服部さんだ。・・・両手に花か・・・悪くないな。
「転移」
若干の不安を抱きながらも俺達はアメリカへ転移した。
◇三者視点
アメリカの料理店。
そこでは赤髪の男が大量の料理を食べており、中の客は驚愕の顔でその男を見ている。
「おい、あの人今何皿目だ?」
「もう八から先は数えてねえよ、それよりもあの赤髪って」
「ああ、間違いないだろう。どうしてこんな普通の料理店に来ているかは知らないがあの人は世界大会に出るってマスコミが大騒ぎしてたからな。このアメリカに居るのも不思議じゃない」
「じゃああの人が・・・絶対者の一人、アーベル・レオン・・・」
赤髪の男――レオンは最後の皿を食べ終わるとその表情を笑みへと変える。
「来たな・・・」
確証はない。
しかし、本能が訴えかける。
自分に届きうる能力者が来たと。
レオンが今回世界大会に出場した理由は、何か楽しそうな気配を感じ取ったからだ。
絶対者同士の戦闘は地形が変わってしまうため残念ながらリアルで戦う事は殆どない。その上、イベントなどに出るとただの出来レースになってしまうので基本イベントにも参加しなかった。
しかし、今回はそれを破ってでも世界大会に出場した。
出来レースにはならない。それどころか油断するとこちらが喰われそうな緊張感さえ抱く。
「さあて、どんな奴が来るか楽しみだぜ! あいつよりも先に戦いてえな。途中で負けられてもつまらんしな」
あいつ、それは今回自分と同様に世界大会に出場するもう一人の絶対者の事だ。
「まっそうなった時はあいつと俺がやり合う事になるだけか・・・それもまた一興だな。今はどっちの方が強えか」
レオンは更に笑みを濃くすると、早々に店を後にし、疼いて仕方ないとばかりに怪物狩りに出かけた。
その日、アメリカ一帯の怪物が出現した端から最恐の獅子に狩られた。
◇三者視点
場所は変わってイギリスのタワーマンションの一室。
その最上階のバルコニーに金髪碧眼の男が左手にワインを持ちながら階下の都市を眺めていた。
風に靡く風をそのままにニヒルに笑みを浮かべるとワインを一気に飲む。
「あら? 何だか楽しそうね」
彼の後方から赤髪の美女が呼びかける。
彼女は男の妻の一人であり、優秀な能力者でもあった。
「ナタリーか。そうだね、何だか面白そうな気配がしたんだ」
「それは世界大会の事?」
「ああ。もしかしたら九人目が誕生するかもしれないね」
「にわかには信じられないわね。あなたのような絶対者クラスはそう簡単に現れる存在じゃないでしょ」
「私も同意見かな~」
ナタリーの背後から金髪の美女が抱き着きながら意見を言う。
彼女も男の妻の一人であり、本来は男を篭絡するはずだったスパイだが逆に篭絡されてしまったへっぽこスパイだ。
「もう、アリサったら、急に抱き着くのは止めなさい。びっくりするから」
「ふふ、ごめんね~ でもナタリーが抱きやすい体してるのが悪いんだよ!」
「はあ、何よそれ・・・?」
一人の男に複数の女性が侍る。
本来であればあり得ない状況であり、隼人が見れば血涙を流すのは確定だろうが、男にはそんな不可能を可能にする力があった。
「そろそろ僕もアメリカに発つか・・・皆も付いてくるかい?」
「もちろんよ。あなたが変な事をしないか見張っておかないと」
「私も行くよ! 久しぶりにジャックの雄姿が見れるなんて最高! あっでもやり過ぎちゃだめだよ? お相手さんが可哀そうだからね」
男は妻たちの言葉に苦笑し、軽く頷く。
「・・・本当に楽しみだ」
闇夜に呟く男の名前は、ジャック・グラント。
世界に八人存在する絶対者の一人であり、彼こそが世界大会に出場する二人目の絶対者であった。
彼の能力は敵対する相手によってその姿を変える。その戦いは華麗であり、誰もが見惚れる美しさを秘める。
そんな彼の二つ名は、
――【剣聖】
二人目、登場です(*´▽`*)





