53話 戦闘開始
あっぶねえ。
もう少し到着が遅れていたら井貝さんが殺されるところだった。逃げ惑う一般人を見て限界まで速度を上げて良かった。
「おい雑魚・・・いつまで俺の上に足を乗せてんだ」
声の方に顔を向けるとそこにはいつぞやの酒呑童子が。
はあ・・・絶対赤髪のおっさん手抜いただろ。
出来れば処分してて欲しかったんだが。
「はあ? 道端の石に足を置いて何か悪いのかよ?」
俺の挑発にその顔を見る見るうちに憤怒の色に染め上げ、殺意が荒れ狂う。
「死ね!」
俺の顔を狙った剛腕が振るわれる。
力任せで何ともお粗末かつ短絡的な攻撃だ。直情的な敵ほどやりやすい相手はいないだろう。
「ふっ!」
拳を見切り顔すれすれで回避すると酒呑童子の足に乗せている左足を軸にして奴の顔左側面目掛けて右足を叩き込む。
「あがッ?!」
俺の右足は狙いたがわず酒呑童子の顔を捉え、大きく吹き飛ばす。
「おお~ 飛んだな」
思いの外力を込めていたのか、建物を次々にぶち抜きその姿が見えなくなってしまった。
その隙に周囲の確認をする。
護衛対象である高宮 瑠奈はその姉、そして護衛の能力者と共に施設を覆う結界? の中に保護されている状態だ。
そして施設の周囲には一般人がそこそこ集まっている。
彼等は少々邪魔だがそこまで戦闘に支障はないだろう。もしも死んだ時は自己責任という事で・・・今回は俺もそこまで余裕がないからな。
敵に目を移す。
「増えてるな・・・」
敵の数は三・・・いや、四体か。
気配の薄い怪物が一体いるな。おそらく高速道路にいた奴と同じだろう。
そして新たに現れた二体。
体の一部が機械の奴とフードを被った奴だ。
フードの能力は完全に未知だが、機械の怪物は周りの空間に鉄骨やら車などが浮遊している事を考えれば念動力、もしくは金属を操作する類の能力だろう。
それにしても周囲の顔色が悪い。
赤髪のおっさんが来たときは全員が安堵の顔を浮かべていたが、今は絶望の表情を浮かべている。酒呑童子を蹴り飛ばしたぐらいでは安心できないという事か。
「あんまり柄じゃないんだが」
少しでも心にゆとりがないと咄嗟の行動が出来ないからな。
ここは少し気張るか。
俺は上着を脱ぎ棄てる。
「そ、その紋章は・・・!」
俺のシャツに刻まれている龍の紋章。
その紋章の意味を知っているが故にこれを見た井貝さんが驚愕の声を上げる。
「特殊対策部隊所属、柳 隼人。現時刻より敵を掃討します」
俺の言葉に不可視の怪物から怒気を感じる。
まさか俺が家族以外の他人の為に戦う日が来るなんてな。人生何が起こるか分からん。
後ろに振り返ると軽い笑みを浮かべる。
「安心して下さい。まあ敵もそれなりに厄介ですので十分程掛かってしまいますが、皆さんに危害は加えさせませんから」
十分は大袈裟に言い過ぎただろうか。
・・・まあ、いいか。どっちみち殺すことに変わりはないのだから。
敵がどれだけ強かろうが徒党を組んでいようが関係ない。
俺の前に立ちはだかる障害、その尽くを滅ぼそう。
これは俺が決めた決定事項だ、変更など存在しない。
「さて、まずはどうするか」
多くの人の思いを背に一歩踏み出す。
たった一人で何が出来るのかと既に生きる事を諦めている者もいるだろう。
不安に駆られ体の震えが止まらない者もいるだろう。
俺はその気持ちを抑える為の言葉は紡がない。
あなた方に何かをしろとは言わない。
ただ――
――俺を見ていろ。
その不安ごとこの拳で粉砕してやる。
◇
「小僧、貴様あまり調子に乗るなよ」
何処からともなく声が聞こえて来る。
「おいおい、お前の利点は姿が見えない事だろ? 自分から存在を明らかにしてどうするんだよ」
「ふん、貴様が儂を感知しておる事などとうに気付いておるわ。全く、絶対者に続いて貴様のような特殊対策部隊まで出しゃばって来るとは・・・」
忌々し気な感情が伝わってくる。
確かに俺がこの場にいなかったら何の障害もなく簡単に高宮瑠奈を奪取していただろう事を考えれば奴の怒りは当然か。
「お互い様だろ。お前等みたいな屑が出しゃばってきたから俺が態々出てきてやったんだよ。護衛対象を使って何するつもりか知らねえが、お前等の計画はこの場でぶっ潰してやるよ」
その場で軽く飛んで体を慣らす。
(絶好調とはいかないが、支障はないな)
いつもより少し体が重い。
体には気を使っていたはずだが何かおかしな物でも食べたか?
思考の最中、遠くから建物の瓦礫が飛んで来る。
「山砕き」
右腕を振りかぶり瓦礫を消し飛ばす。
次いで、眼前に降り立つ酒呑童子。
(でかくなってねえか・・・?)
先程と比べその身に纏う闘気を更に増しているところを見るに、酒を飲んで強化したのだろう。流石に限度はあるだろうが可能ならば早めに殺しておきたいが。
「家畜風情が! この俺様を蹴り飛ばしたことを死んで後悔しろ!」
酒呑童子の闘気と俺の闘気がぶつかり合い空間にひずみが出来る。
ぶっ飛ばされた程度でどれだけ怒ってんだよ。
俺は日常茶飯事だぞ。
怒りのままに酒呑童子は地を駆け、俺との距離を詰める。
速い。
他の人達は視認すら出来ないほどの速度だ。
一秒にも満たない刹那の間に俺を射程距離に定めると、体をうねりながら左腕を突き出してくる。
まともに当たれば死は免れない一撃。
――起きろ、戦神。
己の位階を上げ、更に戦神に存在を近づける。
「ッ?!」
鬼の渾身の一撃を右の掌で掴み取り、その衝撃を完全に殺す。
「鬼風情が俺に勝てるとでも?」
酒呑童子は信じられないものをみたというように目を見開き体を硬直させる。
「いかん?! そ奴から離れろ!」
酒呑童子の左右から半身が機械の怪物と靄の怪物が俺に迫る。
靄の言葉に気を取り戻した酒呑童子はその場から飛び上がり大きく後退する。
「はッ!」
「・・・」
左から靄の怪物が恐らく短刀であろう武器を横薙ぎに振るい、右から機械の怪物が浮遊する鉄骨を高速で投擲する。
「ぬるい」
左手で短刀をいなし、降りかかる鉄骨をバックステップを駆使しながら高速で回避する。
「・・・ツイカ」
機械の怪物の呟きと共に空間に鉄の剣が生成される。
(操作系ではないのか?)
総計二十の長剣がこちらに狙いを定め空間を切り裂きながら次々に降りかかる。
まあ、多少増えたところで意味はないが。
目視で五本回避し、続く十四の長剣を拳で破壊、そして最後の一本を右手で掴む。
「返すぞ」
ズドンッ! とおよそ投擲によるものとは思えない轟音を立てながら右腕で振りかぶった長剣が機械の怪物目掛け飛翔する。
『零』
ローブの怪物が何事かを呟く。
何か攻撃かと思い警戒するが周囲に変化はない。
が、俺が投擲した長剣がふいにその軌道をずらした。
長剣はそのまま機械の怪物の横を通り抜け後方の住宅を両断する。
(軌道をずらしたのか? ・・・まずは敵の能力を確定させるべきか)
どうやら一筋縄ではいかなそうだ。





