52話 最悪の状況
ちょい長くなった・・・(´;ω;`)
「それでは皆さん私に付いてきてください」
先程出ていかれた柏木さんが気掛かりですが、今はお嬢様方を優先させて頂きましょう。
護衛の皆さんを伴い施設の最も強固な場所であるコントロール室へと移動する。
「おおぅ、何がなんだかわからんが凄ぇ場所だな」
「どれだけ金かけてるんだ?」
「俺達が一生お目にすることはない額なのは確かだな」
コントロールに入ると皆さんは口々に感想を漏らす。
この部屋は施設に存在する全ての機械の脳だ。したがって、それらを稼働させるための装置が至る所に設置されており初めてこの部屋を見る人はその規模に大抵驚愕する。
皆さんの様子を尻目に私は機械を操作して施設を稼働させていく。
すると施設を覆うように半透明の膜が出現する。この膜は物理に限らずあらゆる敵の能力を吸収する結界だ。例えSランク級の怪物が再度襲ってこようともこの結界を破るのは時間が掛かるだろう。
「よし、これで後は援軍を待つだけですね」
予定ではそろそろ連絡が入るはずだ。
プルルル!
「おっと、丁度いいですね」
どうやら丁度援軍から連絡が来たようだ。
スマホの通話ボタンを押して耳に当てる。
「はい、井貝です。それで何時頃――」
『高宮家の執事か! マズイ事になった! 現在こちらは何者かが仕掛けた結界によってそちらに向かえない状況だ!』
「ん? この施設の結界なら私がシステムに許可を出せば通れますから大丈夫なはずですが」
『違う! 一度外を確認しろ!』
何があるというのかと疑問を持ちながらコントロール室から出ると窓から外を覗く。
そして、その光景に絶句した。
「・・・なんですか・・・これは・・・」
天高く伸びている光の柱が四本。この施設を囲うように連立し、その間を薄紫の膜が架かっており、外との一切を遮断していた。・・・いや、中からの脱出を不可能にしていると言った方が正しいだろうか。
『私達は結界の突破を試みる! 時間が掛かるかもしれないが少しの間耐えてくれ!』
電話の内容が頭に入ってこない。力なく震える指で通話を切断する。
この震えは恐怖からではない。溢れんばかりの怒りが体を巡っているのだ。
「ここまで・・・ここまでするのかッ!」
強く握った右手を壁に叩きつける。
能力が特殊だというだけでどうして彼女達の自由が脅かされなければならないのか。
彼女達を狙う一部の上層部も、研究者たちも狂っているとしか言いようがない。
ウォーン!ウォーン!
怒りに肩を震わせていると突如施設に警報が鳴り響く。
「・・・来ましたか」
私は急ぎ足でコントロール室へと戻る。
「おいおい執事のあんちゃん、この警報は何なんだ?」
「どうやら敵が来たようです」
「敵だと?! ここは大丈夫なのか!」
岩谷様の疑問は最もですが、今は答えている暇がない。
すぐさまパネルを操作して施設付近の様子を画面に映す。
「おいおい、こりゃまずいぞ・・・」
「あいつは倒されたんじゃないのか!」
「隙をついて逃げ出したんだろう・・・最悪の状況だな。」
その映像には町を破壊しながらこちらに迫る三体の怪物の姿があった。
一体は高速道路で遭遇した鬼の怪物。後の二体は初見だが、その内の一体は人間に近い容姿をしているが、体の半分が機械のようなものに侵食されている。残りの方は体全身を覆うフードを被っておりその全容が全く確認できない。
鬼が建物を拳で薙ぎ払い、半身が機械の怪物は浮遊する鉄骨などを操り破壊の限りを尽くしている。
人々は逃げ惑い、最も安全な地帯だと言えるこの施設目掛け逃走している。
『助けてくれ!』
『誰か救援隊に連絡して!』
『あんなん救援隊にどうにか出来る訳ないだろ! 特殊対策部隊すら不可能だ!』
『早く入れてくれ!』
(これは・・・本当に最悪の状況ですね)
これだけの人数を施設に入れることは出来ない。
しかも結界を張っている状態で無理に入れようとすれば、必ず結界の何処かに綻びが生まれてしまう。
よく映像を見ると怪物達は建物を破壊しているだけで直接人間に危害は与えていない。
明らかにこちらの弱点が分かってる動きだ。
「くっ!」
・・・やはり、裏切り者がいるみたいですね。
それもこの施設や瑠奈お嬢様の能力まで知っている重鎮が。
「・・・井貝。大丈夫ですか?」
私に焦りに気付いたのか春香お嬢様が私の右手を優しく包む。
「・・・はい、ご安心ください。私は大丈夫ですよ。春香様はこの場を動かないで下さいね」
いけない。
私が弱みを見せてどうするのか。
パネルの映像を閉じるとコントロール室から退出する。
その際この瞳にお嬢様方の姿をしっかりと焼き付けて・・・
「行くのか」
部屋の外には壁に寄りかかってこちらを見る岩谷さんの姿があった。
「はい。お嬢様方のことをよろしくお願いします」
「おいおい、死ぬつもりじゃねえだろうな?」
「そんな訳ないじゃないですか」
いつもと変わらぬ笑みを浮かべる。
岩谷さんはそんな私を見て少し眉を寄せるとため息を一つ吐く。
「俺も一緒に行ってやるよ」
「なっ?! 岩谷さんは大事なことがあるはずです!こんな所で――」
「死にに行くわけじゃねえんだろ?」
「そ、それはそうですが・・・」
「じゃあ、大丈夫だ。一人より二人の方がいいに決まってるからな。それより急がないと本格的に死人が出てくるぞ」
「うーん。ああ、もう! 分かりましたよ! その代わり死んでも知りませんよ!」
納得はいかないが、今は人命が優先だ。
本当に生きて帰れたら、岩谷さんには返しきれない恩が出来るな。なんてもしもの未来を想うと少し笑えた。
◇
施設から出ると、結界の前に大勢の人が集まっているのが見える。
その目と鼻の先には怪物達が暴れているのが確認でき、ここに到着するのも時間の問題だろう。
私の姿を視界に入れた人達が早く入れてくれと懇願するが、私は首を横に振る。
それに絶望した表情を見せる人達に、私は言葉を続ける。
「大丈夫です。私があの怪物達を押さえておくのでその間に皆さんはこの場から離れて下さい」
「あ、あんた・・・」
「では」
何か言葉を発しようとしていた男性の言葉を聞く前に砂を操作して岩谷さんと怪物の元へと移動する。
降りかかってくる瓦礫を躱しながら、建物の側面を移動し、怪物の頭上を取る。
「あん? てめえはさっき見た奴だな」
鬼がこちらに気付くとその顔を獰猛なものへと変える。
「お前等邪魔するなよ。あいつらは俺の獲物だ。憂さ晴らし程度にはなるだろ」
鬼の言葉に従うように二体の怪物が後ろへ下がる。
「らぁああああ!!!」
岩谷さんが砂から飛び出し、鬼目掛け拳を振り下ろす。
岩谷さんの能力は【生命増幅】、己のエネルギーを増幅させ攻撃に転換する力を持つ。
その拳は全力のエネルギーが込められており、決して生半可なものではない。
しかし・・・
「はっ、この程度かよ」
鬼はその拳を右手一本で受けきる。
続けざまに岩谷さんの横腹目掛け鬼の左足が迫る。
「させません!」
衝突するギリギリで何とか砂を操り岩谷さんを回収すると、鬼を覆うように砂で周囲を固める。
「これで少しは――」
「止められるってか?」
背後!
勢いよく振り返る。そこには捉えたはずの鬼の姿があり、既に拳を振りかぶっている状態で待機していた。
「死ね」
咄嗟に砂で両腕を覆い、防御姿勢を取る。
次の瞬間、大砲かと錯覚するほどの衝撃が腕を襲い、鈍い音を立てる。それだけに留まらず体が吹き飛び、後方の建物を倒壊させていく。
「井貝!」
「てめえも沈んでろ」
「がはッ!」
一撃、頭上からの拳が岩谷を襲いその意識を刈り取る。
「はあはあ」
地面を幾度も転がり回りようやく停止した。
両腕は粉々に砕け、力が全く入らない。
少しは止められると思った。
高速道路での戦闘では、ある程度私の能力は通用していたはずだ。なのに今は戦闘と言うのもおこがましいほどに鬼との力が離れすぎている。
「どうして・・・」
「もしかして俺を少しでも相手どれると思ってんのか。おいおい、自惚れも大概にしろよ」
私を追って鬼が目の前に降り立つ。
「あんな遊びが本気な訳ねえだろうが、二升分飲んでる今の俺に勝ち目はねえ」
鬼の闘気が膨れ上がる。
それは最初にあった時とは比べ物にならないもので、鬼の言う遊びが本当である事だと嫌でも実感した。
・・・そうか、最初から勝目なんてなかったのか。
「井貝!」
後方から声が聞こえる。
私はその聞き覚えのある声に思わず振り返る。
「春香お嬢様!」
それだけではない。その後ろには瑠奈様もおり今にも泣きそうな表情をしている。
何故施設から出ているのか、早く戻ってくださいと叫びたいが内臓も負傷しているのか上手く言葉を喋れない。
集中していて気付かなかったがどうやら施設の近くまで飛ばされてしまったようだ。
このままではいけない。この鬼を一刻も早くこの場から離さないと。
「くッ!」
能力を発動しようとするも腕の激痛に上手く発動出来ず、バランスを崩して片足をついてしまう。
「お前を殺した後は小娘も直ぐに送ってやるよ、だからいい加減潔く死ね!」
鬼の左足が私の顔目掛けて振り上げられる。
「いやぁあああああ!!!!」
・・・すみませんお嬢様。どうやらここまでのようです。
高宮家での日常が走馬灯のように蘇る。
お庭で元気に笑い合って走り回る春香様と瑠奈様。
お花で冠を作って私の頭に載せて頂いた時は本当に嬉しかった。
・・・神様・・・
私はどうなってもいい・・・
けれど、あの方々だけはどうか・・・どうか助けて下さい。
心の優しい方々なんです。
笑顔の似合う可愛らしい方々なんです。
だからどうか・・・彼女達から・・・その笑顔を奪わないで下さい。
「え・・・?」
「何ッ?!」
鬼の脚がふとその動きを止めた。
しかしそれは鬼の驚愕の声から奴の意思ではない事が分かる。
よく見るといつの間にか鬼の脚の上に別の脚が乗っていて鬼の動きを止めていた。
「面白そうなことしてんなあ、ちょっと混ぜろや三下」
怒りの籠った声が頭上から聞こえる。それは鬼の声ではない。そしてその声を私は知っていた。
私は恐る恐るといった風に顔を徐々に上げていく。
太陽の光が眩く差す中、目を細めながらその人物の姿を目に収める。そして流れる雲によって光が遮られた時、その人物が明らかとなった。
「柏木様・・・?」
次話は明日の夜か明後日です(*‘ω‘ *)
隼人君ギリギリ過ぎるよ・・・





