50話 獅子宮
祝50話! 何だかハーフアニバーサリー気分です(*´▽`*)
「行ったな」
レオンは砂に乗って移動する隼人達の背を見送る。
その姿が完全に見えなくなると、自分の後方にいる二体の怪物達へと視線を戻した。
「全く隙がないのう。これはちと困った・・・酒呑童子よ、退避を優先するぞ」
「ちっ、しゃあねえなあ」
ようやく靄が口を開く。
絶対者を前にどれだけ存在を薄くし息を潜めようが無意味であると判断したのだ。
怪物達の目的は目の前の化け物と戦う事ではない。
高宮 瑠奈の奪取が最重要目的だ。
この場は極力争わず退避して、移動中の高宮一行を追うのが最善の選択だ。
「まさか俺から逃げられると思ってんじゃねえだろうな?」
しかし、そんな勝手を許すほど絶対者は甘くない。
この場には既に己と二体の怪物のみ。レオンはその表情を獰猛なものへと変える。
――ならば、少しは本気を出しても構わんだろう。
「獅子宮」
レオンが能力を発動させる。
すると両手には漆黒に赤い模様の入ったガントレットが出現し、その凶悪な爪が陽光に反射して妖艶に光る。
「長々と付き合うつもりはねえ。さっさと終わらせてやるよ」
対する怪物二体はレオンに張り合うようにその力を増幅させる。
酒呑童子は更に酒を飲み、靄の怪物は極限まで薄くしていた力を開放する。
「あまり粋がるなよ人間」
その言葉を皮切りに絶対者とSランク級の怪物二体が衝突する。
最初に動いたのは酒呑童子だった。
一直線にレオンに接近しその剛腕を振るう。
確かに早く、先程よりも威力は格段に上がっているがそれでもまだ足りない。レオンは首を僅かに反らすことで最小の回避をするとそのがら空きの腹部に拳を叩き込む。
しかし、その拳が酒呑童子の腹を穿つことはなかった。
レオンの拳は軌道を強引に変え、己の背後で短刀を振るおうとしている靄目掛け、薙ぎ払うように横に空間を裂く。
「ッ?!」
明らかな死角。確実に入るはずであった一撃を防がれ靄は動揺する。
「ふっ!」
その隙を逃さず二体それぞれに蹴りを叩き込み左右に吹き飛ばす。
レオンに奇襲は通用しない。
それは【獅子宮】の能力に秘密があった。
【獅子宮】は複数の性質を持つ複合型の能力なのだ。
現在確認されているものは【先見】、【調子上進】、【獅子奮迅】の三つだ。
靄の攻撃を防いだのは【先見】によるものだ。その効果は自身に降りかかるあらゆる攻撃を三秒先まで全て見抜くというものだ。
【調子上進】は戦闘中に調子が徐々に上昇していき力が格段に増加していく。ただ【獅子奮迅】は過去に一度のみしか使用していない事から詳細が未だ不明であった。
「おいおいそんなに呑気でいいのか?――上がっていくぞ」
レオンの調子が上昇する。
彼の纏う覇気が一段と膨れ上がり空気が悲鳴を上げるように共振する。
その圧倒的な覇気に当てられ思わずといったように足を後退させる酒呑童子。
しかし、その後退は己の首を絞める事に他ならない。今も尚調子を上げ続けるレオンを倒す為には力が上昇していない序盤の内に仕留める以外の方法は不可能に等しいのだから。
レオンがこれまでに仕留めたSランク級の怪物の総計は二十五。
どの怪物も恐るべき力を誇り、中には序盤であればレオンを圧倒するような強敵も存在した。
しかし、最終的に戦場に残るのはレオンのみであった。
力が上昇し続ける存在には、いかに国を相手取る怪物であろうと敵わなかった。
レオンの最長の戦闘時間は僅か六分。
五分を超えた頃には一撃で地形を粉砕するほどの威力へと昇華する。
故に、その力に敬意と畏怖の念を込め人々は彼をこう呼ぶ。
【破壊王】、と。
戦闘開始から二分が経過した。
最早レオンの動きを怪物達が捉える事は出来ない。気配に反応し、攻撃を振るおうと既にその場にレオンの姿は無く、残像だけが幻のように残される。
「何処見てんだよ」
気付いた時には体に鈍い衝撃が走り建物を破壊しながら一直線に吹き飛ばされる。
「このチート野郎が!」
レオンの滅茶苦茶すぎる力に酒呑童子が鬱憤を吐き出すように叫ぶ。
「酒呑童子よ! こっちへ来い!」
靄が酒呑童子を呼び寄せる。
(あん? まだ何かあんのか)
不可思議な行動に眉を寄せるが、すぐにどうでもいい事だと切り捨てる。
何をしてこようが正面からぶち破るのみだ。もう戦闘開始から二分以上経過したレオンを止められるのはSSランクの怪物か、自分以外の七人の絶対者のみだ。
「終わりだ」
二体が合流した場所目掛け必殺の拳を振り下ろす。
「ちッ、出来れば使いたくなかったが」
靄は懐から瓶のようなものを取り出すと地面に叩きつける。
「?」
レオンは再度眉を寄せるが拳は止まらず、二体に向かって放たれた。
地面が屠れ、周囲の建物が爆風によって吹き飛ばされる。
「・・・成程な、逃げられたか」
レオンの拳が怪物に衝突する寸前、その姿が掻き消えた。
(あれは転移か? 何かきな臭えなあ・・・今からでも追うか?)
能力を全開にすれば、例え転移していようが奴らの場所が分かるだろうと考えるが、即座にその考えを改める。
「ま、いいか。俺がそこまでやる義理はねえしな。それに」
――あの坊主であれば大丈夫だろう。
元はと言えばレオンがこの場に来たのは隼人の力を感知したからだ。
強者の存在に胸を高鳴らせながら移動するとあの二体の怪物に襲われていた訳だが・・・坊主が本気であればあの程度の怪物であれば問題ないだろうと判断する。
「坊主のあの力、どこか一位に似てるが親戚か何かか?」
誰もが認める絶対者の一位、つまり世界最強の能力者。
レオンはその一位と隼人の能力に類似したものを感じた。
流石に一位ほどの覇気は感じられなかったが、それでも自分と闘える程度の力はあるだろう。
「また拳を合わせる機会ぐらいはあるか。その時を待つとするか」
レオンは気分良さげに踵を返す。
この時のレオンはまだ知らないが、二人が拳を合わせる機会は案外近くまで来ていた。





