40話 生き残る覚悟
まだ納得できてないのでおいおい修正するかもです。
追記:ちょっと急展開になりすぎたので間に数話入れると思います。
「・・・アア・・・」
怪物が炎に焼かれ消えていく。
死の寸前、その声には安堵が含まれていた。
「・・・やはりまだ完全に制御は出来ないか」
早急に終わらせる為とは言え、少し本気を出し過ぎた。
能力を解いた瞬間、その反動で肉体が焼け始める。
(これは数日間は風呂に入れないぞ・・・)
これから火傷に苦しむ日々が続くかと思うとちょっと泣きたくなってくる。
怪物が死んだことで空間に次々と亀裂が入る。
パラパラと舞い散る空間の残滓を振り払いながら俺は服部さんの元へと足を進める。まだ何があるか分からないというのもあるが、先輩に文句を言ってやりたかったからだ。あのような自己犠牲の戦いを看過できるはずもない。
服部さんに近づくと、彼女はどこが呆けた表情をしており、状況を呑み込めていないのか目をパチパチと開閉している。
「先輩、体は大丈夫ですか?」
あれほど無茶な動きをしたのだ。肉体にも相応の負担が掛かっているだろう、目に見える限りでは大した怪我はないようだが筋肉繊維はボロボロになっているはずだ。
「え? ああ、私は大丈夫っすけど。柳君、君は一体・・・?」
服部さんは困惑したようにそう尋ねる。
まあ、当然の質問かもしれないが今は答えるつもりはない。
「俺は柳 隼人で、それ以上でも以下でもありませんよ」
と、誤魔化した回答を答える。
今回の件はどこか人為的な匂いがした。服部さんになら俺の能力について伝えてもいいかもしれないが、何処に目があるとも知れない場所では迂闊に己の手の内は晒したくはない。
「それよりも服部さん、あの怪物と刺し違えるつもりでしたよね?」
「へ? い、いや、何の事っすかねえ?」
視線をあちこちに向け顔からはだらだらと汗を垂らしている。
・・・めっちゃ動揺してるし、それで誤魔化しているつもりなのだろうか?
俺がジト目で見ていると、服部さんは視線から避けるように俯く。
「はぁ・・・俺は服部さんではないですから、服部さんが何を考えて戦っていたのかは分かりません。ですが、他にやりようは幾らでもあったはずでは?」
「は、はい・・・申し訳ないっす。頭に血が上っちゃって、まともな思考が出来なくて・・・」
本当にそうだろうか。俺には服部さんがそこまで動揺しているようには見えなかったが。
「俺もぐちぐち言いたくないので伝えたい事だけ言いますが。戦いに死ぬ覚悟で挑まないで下さい。どうせなら生き残る覚悟を持って戦って下さい」
「生き残る覚悟っすか?」
俺は仲間や家族を救うために自らを犠牲にする奴が嫌いだ。
どれだけその人を守りたいと思っていようとも、残される者にとって誰かの犠牲の上で成り立つ命など、たんなる呪いでしかない。
だから俺は戦いにおいて己の命は絶対に懸けない。
ただ、それ以外の全ては懸ける。
俺の腕だろうが、目だろうが、そんなもので家族を守れるならば安い代償だ。死ぬよりはずっといい。
「はい、生き残る覚悟です。多くの人があなたに生きていて欲しいと願っているでしょう。だから、その人達の気持ちも考えて欲しい、仲間が死ぬ辛さは先輩の方がよく知っているでしょう?」
「・・・でも、世界の事を考えれば、絶対に二人が生き残れるとは限らない無謀な挑戦よりも、どちらか片方を犠牲にして有用な人物を残す決断は必要だと思うっす。今回は偶々運が良かっただけっす」
「はっ!」
服部さんの考えを鼻で笑う。
「世界? そんなの糞くらえですね、誰が死んでも知ったこっちゃないです」
「ちょっ?! そんな言い方!」
どうやらこの点が服部さんの地雷の様だ。
急激に怒りの感情が漏れ出している。
「間違っていると? 俺はそんな誰とも知れない人達よりも、服部さんの方がずっと大切だ。命をかけるほどの存在だとは思えない」
それが当然だと俺は思う。
この世界には守るべき市民が過半数を占めるが、同様に滅すべき悪も多い。
だから俺は、世界と言うよりかは身近な知り合いの為に戦うのだ。
「だったら・・・今まで死んでいった皆は何だったって言うのよ!」
服部さんは激昂しながらそう叫ぶ。
彼女にとってその言葉は看過出来るものではなかったのだろう。何せ俺の言葉は服部さん達に後を託し死んでいった先人を否定するものなのだから。
「私よりも生きたかった人がいた! 大切な家族をもった人がいた! そんな人達が自らを犠牲にして私達に未来を託したの! それを無駄だったって言うの!」
目の端に涙を浮かべ、声を荒げてその内に秘めた感情を吐き出す。
嫌悪、罪悪感、殺意、悲嘆、絶望、あらゆる感情を込められたその言葉を受け、俺は思う。
やはり呪いだ、と。
服部さんは犠牲になった隊員達の亡霊に囚われている。その事に本人は自覚がないかもしれないが、彼女の言葉には“そうでなければいけない”という植え付けられた固定観念のようなものが垣間見えた。
「無駄だとは言いませんよ」
「だったら!」
「でも、それが正解だとはとても思えない。事実、服部さんは今も苦しみ続けているじゃないですか」
日頃のあの破天荒な生き様も、他の人の分まで生きなければいけない、と言う責任からくるものなのかもしれない。
服部さんは良くも悪くも感受性の強い人だ。自分のために誰かが犠牲になる姿を見れば、それが心に及ぼす影響は計り知れないだろう。
当然限界は訪れる。
今回、彼女にとってこの状況は渡りに船であったのかもしれない。
ここで死ねばこれ以上苦しまずに済むと。無意識のうちにそう考えていた可能性は十分に考えられる。
「もう・・・何が正しいのか分からないよ・・・」
その姿は迷子の子供のようだ。瞳は揺れ、体を縮こませている。
今まで信じてきたものが揺らいでいるのだろう。
その姿が何とも痛々しく、胸が苦しくなる。
本当にこの世界は狂っている。
何故服部さんが苦しまなければいけないのか・・・
誰よりも笑顔でい続け、誰よりも他人の事を想える優しい人が涙を流すのか。
もう見ていられなかった。
だから俺は言葉を紡ぐ。
ずっと道化を演じてきた服部さんの、心の底からの笑顔が見たかったから。
「なら、服部さんが生き残る覚悟を持てるまで、生きたいと強く思える理由が見つかるまで、俺があなたを守ります」
◇
もう何が何だか分からなかった。
私は今まで世界中の皆が笑顔で生活できるようにと思い、ただひたすらに頑張ってきた。それが正しい事で、それが今まで犠牲になった隊員の願いでもあったから。
今回窮地に立たされたことで、私は瞬時に自分を犠牲にする選択をした。
それが世界にとって、最も良い選択だと思ったから。
でも、柳君はそれを馬鹿げていると言う。
なぜ最後まで生き残るためにあがこうとしないのかと。見ず知らずの人達に命を懸けるのかと。
私は激昂するが、柳君の言葉を聞くと何が正しいのかよく分からなくなった。
確かに私は今も苦しみ続けている。
こんな思いは皆にはして貰いたくない。
・・・でも、死んでいった仲間の思いも無駄にはしたくない。それが世界の為だと言うのなら自分の命を投げ打つ覚悟がある。
本当に何が正解なのか分からない。
・・・疲れたよ
もう、世界の為でいいじゃない。
それが一番綺麗で、誰もが笑顔になる最も平和な道なんだから。
私一人の命で大勢を救える鍵になるならそれで
「なら、服部さんが生き残る覚悟を持てるまで、生きたいと強く思える理由が見つかるまで、俺があなたを守ります」
思考の途中、柳君がそう言い放つ。
「服部さんにはもっと自分の事を考える時間が必要なんだと思います。だからその期間ぐらいは俺が稼ぎますよ」
「何でそこまで・・・?」
「俺を引っ張り出してくれたのが服部さんだからですよ。あのままだったら俺はずっと蒼に迷惑をかけ続けていたでしょうから。あなたは俺にとっての恩人なんです」
そんな事でと思うが、彼にとっては非常に大事な事なのだろう。私を見つめる瞳がその想いを伝えて来る。
「今度は俺が服部さんを救う番です。もし自分ではどうにも出来ない事態に陥ったら俺の名前を呼んで下さい。必ず駆け付けますから」
自信満々に柳君は言う。
何の根拠もないくせに。そんな言葉に何の意味があるというのか。
「先輩はドンと頼ってくれていいんです」
「・・・いっぱいよりかかっちゃいますよ・・・?」
言葉が自然と出ていた。
・・・どうして自分はこんな言葉を返したのだろう。
そんなつもりなんて・・・ないはずなのに。
私の方が彼を支えないといけないはずなのに。
「はい、むしろ望むところです」
「凄く、凄く面倒くさいですよ・・・?」
「ははっ、もう十分に面倒くさいので今更ですね」
誰かに守るなんて言われたのが初めてだからだろうか、言葉に表せない感情が渦巻いて悲しみではない涙が頬を伝う。
「安心してください。俺は最強ですからね! どんな困難であろうと物語のヒーローみたいに解決してみせますよ!」
「ふふっ、何すかそれ」
いつの間にか私は笑みを浮かべていた。
それはいつものそれとは違う、本心から出たものだ。
「ですから、もう少し頑張ってみませんか。他の誰でもない、自分の生きる理由を見つける為に」
柳君は手を差し出す。
その手を握ってしまえばまた苦しみ続けなければいけない。
本当に苦しくて、壊れてしまいそうな日々だ。
でも、それでも――
私はその手を掴んだ。
私の死を嘆く人達がいるから。
そんな人達を守りたいから。
私を支え、守ってくれると言ってくれた優しいヒーローがいるから。
難産だった。
シリアスを書くにはまだレベルが足りないみたいです(´;ω;`)
次話、28日の夜予定





