37話 巨木の怪物
テントから離れ、俺達は巨木を目指し森の木々をかき分ける。
先の方で小さな光が見える。
前進するにつれその光は徐々に大きくなり、森を抜けだしたところで俺達は遂に目的の場所に着いた。
そこは今までと違い、草木が生えておらず、少し拓けた場所だ。
ただ、目の前には見上げる程の巨木がそびえ立っている。
「ここで間違いないっすね」
「まあ、周りを見れば一目瞭然ですからね」
巨木もそうだが、それ以外の要素がこの場で違いないと訴える。
そこには壮絶な光景が広がっていた。
至る所に血が飛び散っており、まさに血の海と呼ぶに相応しい。
調査チームと思われる方々が地に倒れ伏し、微塵も動かないところを見るに、既に事切れているのが分かる。
一人でも生きている人がいるのではと思っていたが、現実はそれ程あまくはない。
(・・・すいません。あなた方を連れて帰れる余裕はない。だから、せめて仇は取ります。)
眉間に皺を寄せながら、巨木に近づくように一歩踏み込む。
ヒュンッ!
その瞬間、風を切るように一本の木の枝が俺に襲い掛かる。
最初からそれがただの木ではない事が分かっていたので、驚く事もなく、右腕を薙ぎ振るうようにしてそれを粉砕する。
「ホウ、シノグカ」
不快な声が頭上から聞こえて来る。
見上げると、先程までは何の変哲もなかった巨木の幹に巨大な顔が浮き出る。
思わず息を呑むほどに醜悪で、怖気の走る顔だ。
(言語を介するか、知能が高いな。Sランク級と見て間違いないだろう。)
「うわ~ めっちゃキモイっすね・・・」
「SAN値下がりそうですね。」
何とも気の抜けた会話だが、その声音には緊張の色が見える。
国を相手取るSランク級の怪物相手にこちらはたったの二名。正直かなり絶望的な状況であった。
「カカッ! 我ヲ恐レヨ! ソシテ絶望スルノダ!」
無数の枝が踊り狂うようにこちらに迫る。
俺と服部さんはその場から退避する。
俺達がいた場所には鞭の様に枝が叩きつけられ地面が大きく屠られていた。
(威力はそこそこ、柔軟性は十分、そして攻撃のタイプは無数か。)
厄介なのは攻撃の軌道が読みにくい事だ。
避けたと思っても、突然その軌道が変化し追尾してくる。
最早、予測など全く意味を成さない。
「山砕き」
ならば正面から破壊するまでだ。
迫り来る枝を強引に吹き飛ばす。
「・・・ちッ!」
が、それらは瞬く間に再生する。
その時間はおよそ一秒もかかっていない。これ程の速度で再生するのならば態勢を整える時間など少しも作れないだろう。
「無駄ジャ無駄ァア! 貴様等ト儂トデハ相性ガ悪イ、貴様等ニ勝目ナドハナカラナイワ!」
うるせえ木だな!
ちょっとは黙ってろよ。
追尾する枝を避けつつ地を蹴って高く飛び上がる。
「流星群」
圧倒的破壊力を秘めた拳が雨あられの様に怪物へと降り注がれる。
その暴威を前に怪物の体は次々に屠れ、潰れ、粉砕される。
荘厳と立っていた姿は今や見る影もなく、至る所に風穴が空いていた。
(足りないな、デカすぎて全身に拳が届かない。)
「マダ理解セヌカ、ヤハリ人間ハ愚カ、不遜、ソシテ滑稽ナ存在ダナ」
元に戻っていく、時間が巻き戻るように。
数秒で風穴も、吹き飛ばされた枝も完全に再生した。
(一定量吹き飛ばせば死ぬかと思ったが、どうやら違うみたいだな。)
ここで追い打ちをかける事も出来るが、相手が微塵も焦った様子がない事を考えるとただの徒労に終わる事が予想出来る。
「う~ん、どうします? いくら切っても無駄みたいなんすけど」
隣に服部さんが現れる。
「何か核のようなものがあるのかもしれません。流石にあの巨体を消滅させるのは荷が重いので考えたくないです」
「じゃあ、地道に削っていきますか」
服部さんは駆ける、彼女目掛けて枝が幾度となく襲い掛かるが彼女の速度に全くついていけてない。
銀閃がはしる度、次々に怪物を切り裂いていく。
(俺も止まってはいられんな。)
「位階上昇――起きろ、戦神」
枝が押し迫るが、全て無視する。
先程の威力を見るに、今の俺に対しその程度の攻撃ではまともなダメージは入らない。
「鬱陶しい」
予想通りいくら打たれてもダメージは入らないようだが、いい加減しつこい。
(消し飛ばすか。)
足に闘気を収束させる。
煌めく純白の闘気が強く、強く脈動する。
「服部さん、ちょっと離れてください」
「何を――」
服部さんの返答を聞く前に、
つま先で軽く、トンッと地面を打つ。
それは誰もが日常で靴を履く動作と何ら変わらない。
戦闘中に何をやっているんだと、誰もが訝しむだろう。
それで何が変わるはずもないのだから。
――常識ならば。
「崩星」
しかしながら、それは常識とは隔絶したものだった。
俺のつま先が地に触れた瞬間、俺を中心としたおよそ周囲百メートルを超高純度の闘気が駆け巡る。
それは周囲の木々に触れた瞬間、問答無用に粉砕していく。
数秒と経たずして、抵抗を許さず原子レベルにまで粉砕する暴威の進行により、俺の周囲は荒廃した土地へと早変わりした。
「危なッ?! 死ぬかと思ったんすけど!」
上空に退避していた服部さんが危なげなく地面に着地する。
「すいません。服部さんの速度なら当たる事はないかと思いまして」
「まあ、実際当たりはしなかったすけど・・・それより、ここまで破壊すれば流石に死んだっすかね?」
あ、それフラグです。
ムクリと地面が浮き上がる。
巨木の怪物が復活する。その数三体。
・・・いや、何で増えてんだよ。
核があろうとも確実に破壊したはずだが・・・少々しぶと過ぎないか。
「これがSランクか」
常識がまるで通用しない。
いや、常識外の攻撃であろうと通用しない。
「言ッタダロウ、儂ト貴様等トデハ相性ガ悪過ギルト。確カニ貴様ラノ予想通リ儂ニハ核ガ存在スル。タダシ――コノ空間内ニダガナア!」
・・・まさか、この広大過ぎる空間の事を指しているのか?
遠方を見やるも、空間の途絶えなど何処にも見えない。
「カカッ! 貴様等ガイツマデモツカ見物ダナ」
枝が集まり、槍の様な形へと変わる。それも無数。
一拍おいてそれらが俺達目掛け空気の壁を貫きながら津波のように押し寄せる。
「ふッ!」
その攻撃を目視で全て破壊する。
「ジリ貧だな」
しかし、このままでは奴を倒す事は出来ない。
俺も負傷しないが食料や水を必要とするこちらが先に力尽きるのは必至だ。
こちらは拳と短剣だ、この広大な空間から核を破壊する事が可能なのか?
闇雲に攻撃しても意味はあるのか?
早急に何か策を考えなくては・・・
「柳君、少し下がってください――そいつ殺すから」
薄い刃で背を撫でられるような怖気を感じた。
次話は、20日朝6時。
そろそろ伏線の一つ回収します。





