28話 チートVSチート
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時間をかけている暇はない。
――最初から本気で行く。
「位階上昇――起きろ、戦神」
髪が白に染まり純白のオーラが体を包む。
首に手を回し軽く鳴らすと俺は足早に怪物の元へと足を進める。
「ブモオオオ!」
ミノタウロスの赤い瞳が俺を睥睨する。
その迫力はゴブリンやオークの比ではない。
見上げるほどの巨体に、完成された肉体。
その筋肉は鋼鉄をも通さない鉄壁の守りだ。
ミノタウロスは僅かにその身を屈めると頭を突き出すようにして地を駆ける。
俺はその突進を前に、
「死ね」
ただ右腕を突き出した。
一瞬の拮抗すら許さずにミノタウロスはその脳髄をぶちまける。
その感触が想像よりも脆い事に首を傾げる。
「完全な模倣ではないという事か? 成程、ただの贋作か」
これが完全な模倣であれば多少は苦戦を強いられたかもしれないが、こんなまがい物であるならば俺の脅威にはなりえない。
瞬く間に俺の周囲をラヴァーナの無数の砲が取り囲みその銃口を向ける。
一泊おいて煌めく閃光が放たれた。
「ふっ」
俺は地を蹴り上空に飛ぶことでそれを回避すると体を反転させ、足を曲げるとそのまま大気を蹴る。
正確には大気を蹴っている訳ではなく、闘気を足に収束させてそれを激発させることで推進力に変えて空中を移動したのだ。
向かう先は今もなお砲を操るラヴァーナの頭上だ。
そのバカでかい頭部に狙いを定めると腕を大きく振りかぶり、破壊の拳を叩きつける。
ドゴンッ! と大気を震動させるほどの衝撃音が響き渡ると、ラヴァーナはその巨大な体躯を力なく地に伏す。
巻き上がった砂塵が俺の体を隠すと息つく間もなく不可視の刃が砂塵ごと俺を切り裂く。
「ま、残像なんだが」
音速を超える速さでリッターの背後に回ると、同時に拳を三撃。
頭部と心臓、そして腹部に風穴を空けると、リッターはそのまま仰向けに倒れる。
時がたっても再生する様子もないので完全に死んだのだろう。
「再生すらしないのか」
随分と劣化している。
だが、こちらとしては好都合だ。
早めに決着を付けれることに越したことはない。
で、残るは・・・
「お前だけだな」
不気味な人形の容姿をした怪物。
奴はその顔の左側から血の涙を流し、右側でケタケタと笑い始める。
それだけに留まらず、その体は急激に巨大化し五メートルを超える巨体となる。
「自分の肉体情報を改竄することも出来るのか・・・」
この疑似空間だから出来る芸当だろうが、それでも脅威としては十分だ。
この空間内だけで考えればAランク級の実力はあるかもしえない。
怪物は異様に長い腕を鞭の様にしならせ俺に連撃を見舞う。
パンっ! と鞭特有の空気を裂く炸裂音が響き渡る。
視界全てを埋め尽くすような連撃に隙など見つけようがない。
――絶対領域
五感全てを己を中心とした半径一メートルに限定する。
まるで深い海に沈んでいるような感覚で途端に周りの光景が遅くなる。
迫りくる腕を手の腹と甲を使っていなしていく。
「見切った」
数十合目、僅かな隙に拳を割り込ませると拳を全力で突き上げる。
何かを破壊する感触と共に怪物の絶叫が響き渡る。
残心、拳を戻すと同時に空中から巨大な物体がべチャっと嫌な音を立てながら落下する。
それは怪物の腕だ。根元から根こそぎ千切られ左腕の付け根からは緑色の液体が噴き出す。
怪物は怒り狂った様に金切り声を上げる。
するとそれに呼応するように地面が盛り上がり巨大な手の形をとると俺を両側から押しつぶすように迫る。
その攻撃を拳で吹き飛ばすも、いつの間にか俺の上空には無数の雷撃、炎、水弾、が俺に狙いを定め待機していた。
怪物が奇声を上げるとそれらが俺目掛けて突撃してくる。
その威力は途轍もなく、地上を破壊の嵐が吹き荒れる。
怪物はその動きを止め、僅かな静寂が訪れる。
未だ砂塵から隼人は姿を現さない。
その事実にようやく目障りな人間が死んだのかと怪物が笑みを濃くする。
そこで、一陣の風が吹いた。
邪魔な砂塵が晴れた先には、額から血を流しながらも二本の脚で立ち構えをとっている隼人の姿が。
「ふう~」
俺は奴の攻撃を敢えて受ける事で溜めの時間を稼いでいたのだ。
俺の姿を視界に入れると、そこで初めて恐怖するように怪物が後ずさる。
そのまま背を返し逃走しようとするが、もう遅い。
「絶拳」
一瞬で怪物との距離を詰めるとその右腕を中心線を抉る様に突き出す。
「ギャ――」
その無慈悲に虚無へ誘う一撃は、怪物の悲鳴を最後まで言い切らせる暇もなくその姿を完全に消失させた。
俺はその場に座り込むと疑似空間の空を見上げる。
「・・・疲れた」
適当に終わらせるはずだった行事が何故こんな事になってしまったのか。
これからどうしようとか外は大丈夫だろうかとか頭に色々と浮かぶが、どうにも思考が上手く働かない。
(マッチョ君の攻撃がかなり効いてるな)
七瀬先輩達に視線を向ける。
何やらこちらに叫んでいるがよく聞こえない。
ただまあ、元気そうで何よりだ。
その光景を最後に俺は意識を失った。
◇
「ん? 急いで来たんだがもう終わったか?」
「ええ、終わったすね。もう少し早く来てたら面白いのが見れたのに残念っすね」
「もしかしてあの時の彼が倒したの?」
「え~ それウチも見たかったんですけど~」
会場内は隼人が怪物を倒したことによりよる歓声が響き渡っている。
隼人を見下していた者も今だけはその手を上げて心の底から喜んでいた。
鈴奈に助けを求めた男性は「ありがとう、ありがとう」と涙を流しながらその手を強く握っている。
そんな中会場に入ってくる人影が三つ。
その人影は鈴奈に近づくと気心の知れたような会話をする。
そう、彼らは鈴奈が連絡をした特殊対策部隊の一員だ。
隼人がリッターを討伐した瞬間を鈴奈と共に目撃した吉良坂 涼子に、金髪の少女の西連寺 麗華。その他に黒髪の大男が一人この場に急行していた。
しかし、会場に到着すると会場から歓声が聞こえ、困惑しながら会場内に入ってきたのだ。
そして鈴奈の姿を見つけるともう既に怪物が倒されたと聞き、胸を撫でおろす。
「システムが回復しました!」
隣から運営が歓喜の声を上げる。
これでようやく彼らを救出することが出来そうだ。
既に怪物は倒されてはいるがその後の事後処理はこちらで全てやる、と鈴奈は意気込む。
能力者である事を知られた彼が次に目覚めたらどういう選択をするのか・・・
その事を思うと鈴奈は楽し気に笑みを浮かべる。
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ちなみに皆さんは好みの武器であったり、好きなタイプのヒロインとかっているのでしょうか?





