25話 覚悟
皆様の応援のおかげで日間ジャンル別7位になっておりました。
本当ににありがとうございます(*´▽`*)
私もはやく稚拙な文から脱却できるよう日々精進してまいりますのでこれからもよろしくお願いいたします!
「強い!」
もうどれだけ矢を放ったのか分からない。
しかし、その尽くを東堂さんの風が弾く。
何とかこの四人で均衡を保っているけれどいつ崩れてもおかしくない状況だ。
「うざったいわね!」
苛立ちを含めた暴風が私たちに襲い掛かる。
「・・・止める!」
由良さんの【念動力操作】で何とか暴風を反らすことは出来たが、その余波で髪がなびき、土煙が巻き上がる。
頬を伝う汗が戦闘の緊張を物語る。
隙間を縫うように寧々の分身が三体疾走する。
「シッ!」
東堂さんを囲うように正面と左右から襲い掛かる。
「無駄よ!」
分身の攻撃が届く間際、東堂さんを中心として不可視の風の斬撃が不規則に飛翔し周囲を蹂躙する。
寧々の分身はその刃によって粉微塵にされ、形成を保てずに霧散した。
チッ!
思わず舌打ちが漏れる。
彼女を倒すためには一手足りない。
全員で一斉に攻撃するか、彼女を強化している二人を先に叩くべきか・・・
「どれも決定打には欠けるわね」
どれも彼女の風に吹き飛ばされる未来しか見えない。普通の攻撃ではあの風を突破することが出来ないのだ。強化された彼女の能力は数値にすれば三万に迫っているのではないだろうか。
ならば必要なのは何か。
思考を整理すると弓にエネルギーを込め始める。
「皆、少しだけ時間を稼いで! 全力の一撃を放ちます!」
彼女の風を貫く一点突破の攻撃。
これが私の最善策だ。
「おう!」
「分かった!」
「・・・分かりました」
全員がそれぞれの意思を持って動き始める。
三人は私の攻撃を溜める時間を確保するため、そして私は皆の行動を無駄にしない為に弓に全力を注ぐ。
「そんな事見す見す逃すわけないでしょ!」
東堂さんの暴風が私目掛けて吹き荒れる。
「・・・通さない!」
由良さんがその暴風を反らし、山田先輩が地表を割って相手の体勢を崩す。
「きゃっ!」
東堂さんがたまらず尻餅をついたところに寧々の分身が飛び出す。
それも先程と同じように風の刃で掻き消されるがそれで構わない。
時間稼ぎが出来ればそれでいいのだ。
幾度かの戦闘を繰り返したところでようやくこちらの準備は整った。
臨界点に到達した弓が今か今かと震えだす。
「皆離れて!」
その言葉に三人が射線上から離れた瞬間、
「穿て、【人馬宮】!」
黄金に輝く弓から、極光の矢が放たれる。
短距離からおよそ音速を超える勢いで迫るその一撃を躱すことなど出来るはずもなく。
狙いたがわず相手に直撃した。
「・・・」
眩い光によって、相手の状態はまだ分からない。
衝突の際生じた光が収まった頃、こちら目掛けて風の刃が飛翔する。
「なっ?!」
寸前の距離で回避するが、髪が数本切り裂かれ宙に舞う。
「やってくれたわね・・・」
光が完全に収まり、その全容が明らかになる。
そこには服が破れながらもしっかりと二本の足で立つ東堂さんの姿があった。
ただ、他の二人の姿が見当たらないことを見るに、東堂さん以外はあの一撃で倒す事が出来たようだ。
今だ強敵は残っているが、それでも強化系の能力者を倒せたことは大きい。
「あと少しです! 一斉にかかりましょう!」
こうなってしまえば多勢に無勢だ。
己の能力を発動して東堂さんに迫る。
「舐めないで!」
東堂さんも負けじと暴風を発生させ、私たちと衝突する間際、
私たちの間に、謎の物体が高速で地面に衝突する。
「何?!」
砂ぼこりが舞っていてその物体が何のか確認出来ない。
「がはっ・・・ぐっ・・・ふざけんなよ! あれが無能力者の訳がねえだろ!」
「・・・なんて威力だ・・・」
土煙から人の声が聞こえてくる。
その声はどこか苦し気で、焦っているのが伝わってくる。
「あんたらどうしたっていうのよ!」
東堂さんの発言に私は緊張を高める。
(ここで雲流高校に増援・・・という事は残りの、数値一万越えの能力者ね。)
折角東堂さんをここまで追い詰めることが出来たというのに、このタイミングで更なる実力者の出現に気が滅入る。
しかし、その私たちの緊張を他所に彼らは焦った様子で眼前の木々を注視する。
それはまるで強大な何かから決して目を離してはいけない、少しでも気を抜けばその瞬間に殺されるという風に、
「東堂?!・・・俺たち何処まで飛ばされたんだよ、糞が! 気を付けろ! こっちは一人やられた! もうすぐ奴が――」
「おいおい冗談だろ、まだその程度の認識なのか?」
その、威厳と落ち着きを加えた声はこの場によく通った。
その場にいた誰もがその存在に気づかなかった。
私は一瞬、雲流高校の援軍かと身構えるが、吹き飛んできた選手の顔がその推測が違うことを如実に表していた。
その表情には驚愕と混乱、そして恐怖に彩られていたのだ。
彼は雲流高校の選手たちの後ろで静かに腕を組んでいた。
「え?」
それは私のよく知る人物だった。
いつもやる気が無くて、どこか人生を諦観していた彼だ。
しかし、その容姿は彼に違いがないはずなのに、私はその人物を柳 隼人だと断言することが出来なかった。
彼の纏う覇気が、その射殺すような瞳が、どうしても私の知る柳君とは合致しない。
彼の威圧に耐えきれなかったのか、雲流高校の選手が三者三様に動き出す。
一人は振り向きざまにその拳で殴り掛かり、一人は暴風で吹き飛ばそうとし、一人は障壁で圧し潰そうとする。
どの攻撃も威力は絶大で、無能力者が対処できるようなものではなかった。
その攻撃を前に、相対する彼の行動に思わず息を飲む。
「この程度では蒼はやれんな、せめて俺を瞬殺するレベルでないと話にもならん」
圧倒的な破壊力を有する拳を左手の人差し指で受け、私たちが苦戦を強いられた暴風を無視、上から圧殺しようとする障壁は彼の右腕が一瞬掻き消えるとともに破壊音が響きその姿を消した。
・・・圧倒的すぎる。
最早それは戦闘というには余りにも次元が違い過ぎた。
「あんたは身体強化の能力を勘違いしている。その能力の真価は自身の体の一部に力を集める集約だ」
彼は右手を相手の額にもっていく。
相対している選手は今だ状況が理解出来ていないのか体を硬直させ動けずにいる。
「例えばこんな風に・・・」
右手の指先を折り曲げデコピンの形になる。
「ほい」
しかし、その威力はデコピンとはかけ離れていた。
ドパンッ!
と銃弾にも似た乾いた音が響くとともにその直撃を受けた選手は地面と平行に吹き飛んでいく。
木々を数本なぎ倒しようやくその勢いを失うとその姿を粒子に変えた。
両者との間に余りにも力量差がある。
これにもし名前を付けるとすれば、戦闘ではなく蹂躙という言葉が当てはまるだろう。
そこでふと、体育館での服部さんの言葉が脳裏をよぎる。
『いえいえ、あなた達では柳君に傷をつける事すら不可能でしょう。彼にはそれだけの力があるっすからね』
その言葉を聞いて、ありえないと思った。
彼は無能力者で数値が『0』なのだから。
・・・だからこそ目の前の光景に今だ理解が及ばず体が動かない。
二人の能力者を赤子の様にひねっている彼の姿が。
「くそ! そんな力を隠すなんて反則だろ?!」
「・・・俺が自重する理由より、本気を出す理由が勝った。ただそれだけだ」
その言葉と表情には彼の思いが多分に含まれているのが分かる。
自分に対する怒りと後悔、そして――溢れんばかりの覚悟。
それが何に対してなのかは分からない。
ただ、彼がもう迷わないであろう事だけはその瞳から見て取れた。





