232話 試練
(ノД`)・゜・。
どうも、平行世界にまできて自分の尻を拭いている柳隼人です。
シャルティアさんとこの世界の自分を助けることを約束した俺は、取り敢えず外出に関して桐坂先輩に相談した。
「いやいやいや! 警戒されてるのに一人で外出とは正気なのですか?! それも外国! なにかあっても助けにいけないのですよ!」
強力な能力者は国を渡るのに色々と手続きがあるとかで救出に向かえない、いけたとしても時間が掛かってしまうということらしい。
その点俺はまだ名も広がっていない一般ピーポー。
国を移動するのも能力でちゃちゃっと飛んで終りだ(犯罪)。
「そこまで時間もかかりませんし、おそらく二、三日で戻ってくると思いますので」
「そう言って大体の新人は死ぬのです! この前なんか、『俺はこの戦いが終わったら結婚するんだ』とか『この俺に不可能はない』とか言っていた奴等が総じて重症になってベッド送りですよ! この萌香が丸三日徹夜することになったのです!」
『うぅ、目の下に大きな隈ができて痛かったのです』とどうやら怪我の心配よりも自分が酷使される未来が見えているのが不満らしい。
とはいえ能力を使っているのは本人の意思な訳で、先輩の責任感の強さが伺えるエピソードだ。
「そうですか」
「お、おぉ! 分かってくれたですか後輩! いやぁ、話の分かる子が来てくれて安心したの!」
「先輩に心配させる訳にはいきませんからね。明日は大人しく休養しておきます」
「うんうんそれがいいのです」
満足したように頷く桐坂先輩、俺も満面の笑みを返す。
そして翌日、俺はイラクに来ていた。
桐坂先輩には悪いが、馬鹿真面目に約束を守る俺ではない。
用意して貰った部屋に確認に来たら困るが、傍から見ても相当忙しそうにしていたためその可能性は低いとみている。
極論。
今回のミッションは先輩に気付かれる前に早急に終わらせればいいのだ。
「迷わず来れたようですね」
「お待たせしました」
「いえ、時間通りなので問題ありません。早速移動しましょう」
指定された緯度と経度に移動すれば、どこからともなくシャルティアさんが姿を現す。
軽い会話もそこそこにすぐに場所を移動する。
現在のシャルティアさんの立場は絶対者の中でも特殊で、あらゆる組織の干渉から逃れながら一人目的の為に動いているとのことだ。いや、一人ではなく二人か。彼女の傍には菊理先輩がいるとのことだから、二人三脚で周囲を出し抜いているのだろう。
「あの、本当にシャルティアさんも戦闘に参加するのですか?」
「何度言われても返答は変わりません。確率は少しでも上げるべきです。そして私は足るだけの実力を持っている。それはあなたも同意していたはずですが」
「まあそれはそうなのですが」
「ならば私も戦います」
昨日、なにをするのかを薄っすらと説明した後の返答が、自分も参加するとのことだった。
まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなかった俺は、危険だなんだとシャルティアさんの参戦を阻止しようとしたのだが、彼女は頑なだった。
いつも冷静に状況を見て柔軟に対応する姿を知っているが、この世界のシャルティアさんは異なっていて、感情が優位になっている。
一言で述べれば、ひどく人間味に溢れていた。
(シャルティアさんの戦闘能力は本物だし、なんとかなるか)
梃子でも動かぬと殺意増しましのシャルティアさんはそのままに。
ならば後ろ向きに考えるより逆に考えた方がいいだろう。思考放棄ともいう。
人通りの少ない道を淀みなく移動するシャルティアさんの後を追うこと数分。
そろそろ目的も近くなってきた。
ちなみに目的地とはバビロン遺跡群内にある祭壇だ。
「人が多いですね」
「観光地ですからね。流石に誰にも見られないというのは難しいですね」
元の世界でも当然訪れた場所だが、あの時とは勝手が違う。
あの時は母さんが手配してトントン拍子で事が運んだのだ。
なにやら責任者なる人物が頭を垂れて跪いており、当時の俺は世の中の縮図は単純じゃないのだなと、十円禿げの見える後頭部に敬礼したのを覚えている。
残念ながら今回はその手は使えないので正面突破する必要がある。
「ここからは自分が先行しますので、ついてきて下さい」
「分かりました」
シャルティアさん一人であれば見つかることはないだろう。
彼女の能力は時間を止めることができる訳で、人の死角を的確に着くことができる身体能力と合わせれば多数の警備をものともしないだろう。
問題は俺の方だ。
気持ちは映画に出てくるようなスパイ。
シャルティアさんとつかず離れずを維持しながら人ごみを利用して徐々に移動する。
一気に祭壇まで転移できればそれに越したことはないのだが、外の神を認識した英雄神が無茶な試練を課してくる可能性が非常に高いため、ぎりぎりまでなるべく能力は使わない方針だ。
監視カメラの映像などは、シャルティアさんがハッキング機器を取り付けることで二人の姿が映らないようにした。それでも警備の目は強引に掻い潜る必要があった。
観光客をこ含めればそれなりの人の数だ。
知識は少なくとも、数があれば大きくなるもので【大天使】の能力で引きあがった身体能力でなんとか目的地に到着する事ができた。
(時間はかかったがなんとか)
バビロニア遺跡群内。
その中にある壊れた遺跡、エスアギラ神殿。
古代バビロンの中心にあった、かつてマルドゥクを祀っていた神殿だ。
今では殆ど原型がなく、一部だけがかろうじて残っている過去の遺物。
遺跡内を歩き、それの前で止まる。
祭壇であったであろう遺痕。
それに触れる前に、シャルティアさんに声を掛ける。
「準備はいいですか」
「一つ、菊理花から伝言があります。『混沌を破る道は、射手の守護』だそうです」
その予言の意味を理解し、試練の内容が変わっていないことを察する。
あわよくば下方修正でもされてくれないものかと思ったが、そもそも内容の変更は存在しないのかもしれない。
「ありがとうございます。改めて把握することができました」
「それは上々。私はよく分かりませんでしたが、あなたに合わせますので好きなように動いて下さい」
「う~ん、多分合わせるような余裕はなくなると思いますよ。なので目標は、兎に角死なないでいきましょう」
シャルティアさんが頷いたのを見て、俺は祭壇に手を触れた。
眩い光と、視界の暗転。
瞼を開く前に聞こえてきたのは凄まじい怒号だった。
「これは・・・・・・」
隣からシャルティアさんの唖然とした呟きが聞こえた。
(この光景を見れば誰でもそうなるか)
暗く澱んだ空、雷鳴が目に見える全てで響き渡り、光が唸る。
対面する遥か先、暗雲を掻き分けるようにして現れるは混沌・破壊・原初の化身。
蛇に似た姿に巨大な翼が生えた、龍。
海を思わせる深蒼と、遠近がおかしくなったかと錯覚してしまう程の体躯。
荒れ果てた大地の上に立つ俺達は彼女からすれば羽虫のようにしか見えないだろう。
周囲に視線を向ければ、俺達と同じように龍を見据える多種多様な神々の姿があった。
(来たくなかったなぁ)
普通に怖過ぎるんだよここ。
命が幾つあっても足りない。
物理法則も乱れているし、なあなあで生き残れる場所ではない。
息をするのも忘れる緊張感が戦場を包んでいる。
いつ決壊するか分からない堤防に似た最前線に一人の男が出る。
金の王冠、法衣、その男は鬱屈とした戦場で一人輝きを見せていた。
雷霆の槍を手に龍を見据えて、笑みをこぼす。
「でっけぇな。流石は混沌の主ってところか」
男、マルドゥクが槍を肩に担ぎ深く目を瞑った。
戦場の味方の心を落ち着かせるように、余裕を持った一拍を置いて、
「行くぞ」
神々の怒号と共に戦場が動く。
秩序と混沌の戦いが始まった。
後の人々はこの壮絶な戦闘をこう現した。
――【エヌマ・エリシュ】と。
お久しぶりです(≧▽≦)
遅い報告になってしまいましたが、なんと漫画が出ました! 三日前に! そして会社辞めた★
櫻井一輝先生によるコミカライズとなっております。
是非是非お手に取っていただけると幸いです。





