231話 第四勢力
へっ、へへっ、旦那ぁ、半年ぶりでやすねえ|ω・)
なんか、漫画の配信が始まりやして、久方ぶりにちょいと執筆にきやした。そちらの方も是非見て頂けると・・・・・・(ノД`)・゜・。
「すみません。ファミリーネームが分からないのでファーストネームで呼ばせて頂きます」
「どうぞどうぞ。女性に名前を呼び捨てで呼ばれるのはこちらとしては嬉しい限りですので」
そんなことでも少し距離を近く感じる悲しい生き物なのだ。
まあ本名じゃねえから嬉しさ10分の1だが。てかもう他人の名前じゃん。
シャルティアさんは俺の反応に首を傾げながら紅茶を口に運ぶ。
相変わらず所作が整っている。
それに加えてなんだか色気を感じるのは服が変わったからだろうか。あるいは愁いを帯びた瞳がそう感じさせるのかもしれない。
「どうぞ食べながらで。冷めてしまいますから」
「そうですか? 急ぎの話では?」
「確かに急ぎの内容ではありますが、食べながらでも問題ありません。亜矢は話を聞いて、最後に首を縦に振るだけで問題ありません」
「・・・・・・では失礼して」
なにやら言葉回しに怪しい雰囲気を感じたが、気のせいだと思いたい。
とりあえず冷める前に食べてしまおうと注文した定食を口に運ぶ。
美味しい、美味しいがシャルティアさんの作る料理の方が俺好みだな。目の前にその本人がいるから余計に料理の味を思い出す。
帰ったら好きな料理をリクエストしようかな、調子に乗らないで下さいと文句を言いながらも作ってくれそうだな、などと妄想を全開にする俺を他所に彼女の話が始まる。
「あなたに頼みたいのは、ある人物にかけられた呪いの解呪です」
聞いたことのある話だった。
そのある人物とは俺の知っている人物、というか俺のことだろう、この世界のという枕詞がつくが。
気になる事が2点。
1点目はこの世界のシャルティアさんと俺の関係。
マイマザーが言っていたが、俺には5人の恋人がいるらしい。
アンネさんが恋人なのは分かったが、その他4人が全く分からない。
ちらりとシャルティアさんを覗き見る。
年上のお姉さん、完璧超人、絶対者でお金とは無縁、白髪美人という多種多様な属性付き。市場相場で考えたら値段なんてつけようがない。彼女自身男性の相場を知り尽くしているだろう。そんな人物が俺を選ぶだろうか?
この世界の俺がどんな人物かまだ完璧に理解していないが、桐坂先輩の言葉を聞くに自己犠牲を厭わない理想主義者というイメージが強い。現実主義のシャルティアさんとはまさに水と油だ。
そして2点目、
「俺は呪いを解けるような能力ではありませんが」
そう、知られている情報としてはアンネさんに対処できたというだけ。
俺の能力の詳細については把握していないように見える。
にも関わらず、彼女は来た。
そして力強い瞳には、希望と確信の色が見える。
それに足るだけの理由がなにかあるはずで、俺には一つだけ心当たりがあった。
「予言士ですか」
「その通り。特殊対策部隊の人物に伝えられましたか? そこまでの信頼がもう築けているとは思いませんでした」
【予言士】、菊理花。
彼女の予言は限りなく百パーセントに近い確率で起こりうる現象を予言する。
元の世界で予言を外したのはたったの一度、俺が迷宮の任務にでた時だけだ。
「菊理花の能力は有用です。いや、有用すぎた。今の三つの勢力が争っている状況下で彼等の手が菊理花に及ばないように、私が保護しています」
三つの勢力? と疑問符が浮かぶが、今は置いておく。
保護については、前々からこのような状況になったら菊理先輩を守って欲しいとどこぞの誰かに頼まれたらしい。
シャルティアさんと菊理先輩はいわば第四勢力として他勢力からは離れて過ごしているという。
この戦いがどう結末を迎えるか、それで知り合いが死ぬとしても手を出すつもりはなかった。
菊理先輩が、ある未来を予知するまでは。
「正直、七瀬真鈴か柳隼人のどちらかが死ぬ路線は変えようのない未来でした。それが変わるかもしれない。菊理花はあなたならできると断言しました」
その強い声音には、願いが込められていて、願いを抱く程になにかを押し込めていたのだと悟った。どこまでも強いこの女性が歯噛みしてる状況が信じられないが、詳しいことはとりあえず後で。
「私達は、あなたしか――」
「俺に任せて下さい」
俺に助力を求める言葉を紡ごうとする言葉を遮り、決定事項を伝える。
元の世界でくそお世話になってるこの人に助力しない選択肢は存在しない。
「ぶっちゃけ、俺って万能なんで、お姉さんは大船に乗った気で優雅にお茶でも召し上がっていて下さい」
今の俺は正直雑魚だが、弱さなんて見せられない。
「・・・・・・・・・・・・本当、ですか・・・・・・?」
長い時間をかけて、長い演算を行っていたかのように停滞していたシャルティアさんはそう呟いた。
「勿論」
三度の肯定で、ようやくすこしだけ彼女にかかっていた重荷が和らいだように見えた。
後々やろうとは思っていたが、これは予定を早めた方がいい気がして来た。
さっさと自分の尻を拭いてやりに行こう。
ただ、今の俺で複数の絡み合った呪いを解呪するのは荷が重すぎる。
超越神の権能を使ってもそこまで繊細な操作ができる自信がない。
となれば、
(やっぱり、あの神か・・・・・・)
傲慢で、しかし実力は確かな神との契約時を思い出す。
彼との契約方法は単純明快、興じさせること。
何に? これが問題。
戦いにおいて彼を満足させる必要がある。
最強格の神を相手に今の俺がまともに戦えるだろうか・・・・・・
「ただ、少し準備が必要です。少しだけ付き合って頂いても?」
「分かりました。なにをするのですか?」
「なに、ちょっとした挨拶をしに行く必要がありまして、イラクまで」
「イラクですか」
現在のイラク、古代のバビロンだ。
あそこには呪術に通じる神がいる。
バビロニアの神、『マルドゥク』だ。
かの神との契約を行い、なおかつ多面的な信仰を集めている神であるため、他の足りない部分も補強できるという最善手。問題は、ワンチャン殺される可能性があるということ。
(ま、なんとかなるだろ)
俺が死にそうになったら、全力でヨグ様に命乞いを遂行する。
契約の履行のためにも俺は生きていた方が特になるはずで、なんらかの補助は期待できるのではないかと思う。
もしも見捨てようものなら、ヨグ様の幼い肢体にヨーグルトをぶっかけたコラ画像を布教してやる! 顔をうっすらと朱に染めた神秘的な少女が悩まし気な表情をしている姿に冥府の鬼達も歓声を上げるに違いない。
「ああ、それと」
これだけは聞いておかねばと俺はシャルティアさんに質問を投げかける。
「あなたと柳隼人の関係は? 情報に疎くてあまり知らなくて」
「私と柳隼人の関係ですか?」
なんの間違いか恋人だとしても後から分かるより今聞いた方が後々の耐性ができるはずだ。
正直アンネさんだけで一杯一杯のはずだが、シャルティアさんにも手を出しているなら・・・・・・この世界の俺は英雄じゃなくてただの自殺志願者だ。
その場合、どちらが先に恋人になったのかは分からないが、笑顔で了承とはいかなかったはず。おそらく内臓の半分は捧げる勢いの懺悔が必要だと考えると、いっそのことこのまま死なせてやった方がいいのではないかとも思う。
シャルティアさんはそっと俺に近づくと、何故か翻訳指輪を抜き取る。
「грешник, который потрясает мои чувства」
なにを言ったかはまるで分からない。
でも聞き返すことは出来なかった。
彼女の、拗ねるような、それでいて諦めたかのように口を閉ざして噛みしめている姿があまりにも衝撃的だったから。
俺は確信した。
「俺、死んだわ」
この世界での最後の仕事は自分の棺を作ることになりそうだ。





