228話 病室
3週間ぶり・・・・・・ではないですね!
えっ、何か月? ちょっと怖くて確かめてないですがこれは土下座で許して頂けるんでしょうか(´;ω;`)
隣の病床。
カーテンが開かれた先には、五年経ってもはっきりと分かる俺の両親がいた。
父さんは若干皺が出てきたか、大人の貫禄のようなものが感じられた。
喉元と左腕に包帯を巻いているのはどこかで戦闘があったのだろう。言霊で回復しないのはわざとか、もしくは回復できない呪いでもかけられたか。
そして魔女、いや母さんは全く姿が変わっていなかった。
もしかしたら時でも止めているのかもしれない。怖い、布団に潜って視線から逃れたい。
「ごめんなさいね? 夫への気持ちが抑えられなくて、少し五月蠅くしてしまったかしら」
「いえ全く問題ありませんどうぞそのまま俺のことはいないものとしてお過ごしください」
「まあまあそう言わずに、若い子と喋る機会も少ないから少し付き合って欲しいわ。どうかしら?」
今までこの母親の子供として生きていた俺の直感が働き、いくつかの選択肢が現れる。
1、無視する
2、『年が離れすぎて合わないだろう』と言って断る
3、命乞いをする
4、了承する
くっ、なんて選択肢を出しやがる。
1と2を選ぶぐらいなら怪物の群れに突っ込んだ方がまだ幾分か生存の余地がある。
命乞いは、厳しい境界線だな。機嫌次第でより凶悪な姿にチェンジさせてしまうおそろしい選択だ。
仕方ない、ここは4しかなさそうだ。
「あまり面白い話題は喋れませんが。俺で良ければ是非」
「嬉しいわ。あっ、お一つどうぞ」
鞄から切り分けられたバウムクーヘンとミニサイズのペットボトルに入った紅茶を渡される。
「亜矢君の知っている範囲でいいのだけれど、英雄思想の彼等は今どういう状況なのかしら?」
英雄思想? と一瞬疑問符を浮かべたが、おそらくは蒼がいる組織のことであろうと納得する。
「えと、つい先刻アンネ・クランツがこちらの組織を襲撃したというのは知ってます」
「あの子が」
目を見開いた後、母さんは少し顔を暗くし『もう時間がないのね』と小声で一人ごちた。
それは俺がアンネさんと衝突する前に彼女も言っていた事だ。
――・・・・・・もう、あいつは限界なんだよ。
その後に恋人は守ると言っていたことを考えれば、この世界の俺の体が限界を迎えそうになっていると考えるのが妥当だろうか。
それ程までに強力な呪具が使用されたのか、と考えるとなんだかやるせない気持ちになる。権力というのは一度手にしてしまうと容易に超えてはならない境界を踏み越えてしまうものらしい。
にしてもだ、英雄派? が襲撃してくる理由は、その呪いを解ける方法がこの組織にあるということだろうか。
いや、一案としては考えていたのだ。母さんであれば呪いを解くのは造作もないことだろうと。
だが、だとしたらわざわざ襲撃をかける意味が分からない。
解けるものなら母さんが自分から解呪しているはずだ。であれば彼等が狙っているのは別の物、もしくは人物か。
「全く、全員幸せにしますとか言って5人も恋人を作ったのに情けないわね~」
困ったわ~ と頬に手を当てるマイマザー。
別のことに割いていた思考が一気に吹っ飛び、頭を上げる。
いや、俺としては決して聞き逃せない何かを今耳にした気がする。
「恋人が5人というのは、その、どういう?」
まさか俺の話ではあるまいと若干声を震わせながら尋ねる。
そうだジャックさんだ。三人では足りずもう二人をお嫁さんにしたに違いない。
「あら恥ずかしいわ。つい口が滑っちゃった。亜矢君は真似しちゃ駄目よ? 一人だけに愛を注いだ方が嬉しいに決まってるんだから。ねぇ、あなた?」
コクコクッ
幾分か低くなった声で尋ねられた父さんは必死に首を縦に振る。
「まだ全てを背をいきれる実力もないのに、誰かさんが後押し何かするからこうなるんです。・・・・・・まさか、隠れて自分もしてるからなんてことはありませんよね? ねぇ、あなた?」
カクンと首を横に倒し父さんを見つめる瞳は伽藍洞のようになにも映していない。
五年も経てば流石に夫婦の仲が穏やかになっているものだとばかり思ったが、どうやらヤンデレパワーは落ち着くどころか更に力を増しているらしい。いずれ特級呪霊になるのではと戦々恐々としてしまう。
「俺に二心なんてある訳がないだろう。心の中は既に君で一杯だから他の要素が入り込む余地なんてないさ」
がっしりと手を掴み取りそう言い切ることで満足したのか、瞳に光が戻る。
「分かっていますよ。ふふっ、私はあなたを疑ってなどいませんのにそんなに必死になって可愛いですね」
絶対嘘だ。間違いなく父さんと意見が一致した瞬間だが両者共になにも言わない。
だって怖いから。俺があの目で見られたら絶対ちびる。
にしてもそうか。俺はこの世界でハーレム野郎になっちまったというのか。
なにがあってそんなことになったんだよ。というか誰が恋人なのかが非常に気になる。
あのアンネさんを恋人にするだけでも、今の俺には想像もできない程に高難易度なはずなのだ。
だというのに彼女の他に四人に手を出す?
この世界の俺は恋愛の神と契約でもしたのではなかろうか。でなければDT会長の俺が恋愛マスターのような存在になれるとは思わないんだが。
くそっ、これじゃああのイギリス野郎になんも言えねえよ。
というかこの二人はまたいちゃいちゃしだしたし。
一応人様の前だって事分かってんのかね。
結局丸一日ラブラブ夫婦の仲を見せつけられて過ごす羽目になってしまった。
それとなく霧灯馴、あの無表情野郎の話を振って情報を得られたのは僥倖だ。父さんの傷は奴にやられたものらしい。当初は喋る事さえできなかったが、分かる通り今では普通の会話が出来る程には回復できている。
全てではないが、おおまかな奴の能力を把握できたのは大きい。
他に情報が得られないならもう元の世界に戻ってもいいんじゃないかと考えたが、そうも言ってられない。
この世界の俺の妹がかなり憔悴しているらしい。とんでもないルールを創りだしていることからもヤバさが伺える。
俺より年上の妹というのはなかなかおかしな感じがするが、それでも蒼が妹であることはどの世界であろうと変わらない事実だ。
せめてこっちの俺を叩き起こしてから帰る事にしよう。
「先日はありがとうございました。面白い話が聞けて良かったです」
「いいえ、私も若い子の話が聞けて良かったわ」
「じゃあもう行きますね。そもそも俺は傷もありませんでしたし」
「ええ、怪我には気を付けてね」
「若いからとあまり無茶はしてはいけないよ」
「わかりました」
温かみを感じる視線に見送られ俺は病室を出る。
◇
隼人が退室した病室で、二人は笑みを浮かべる。
「懐かしいですね。四、五年前ぐらいの背丈かしら」
「雰囲気がまた別だったから過去から来た訳ではなさそうだね。別の世界から時空を超えてきたのかな?」
二人は早々に亜矢と名乗った少年が自分たちの息子であることに気付いていた。
なにやら隠したい様子だったため指摘はしなかったが。
久しぶりに元気な様子だった息子の姿を思い出して秋穂の瞳から僅かに涙が零れそうになる。
「えぇ、神の声を聞ける私だから分かりますが、あの子の力は今の現状を壊すことも可能でしょう」
蒼の話を漏らした際の隼人の反応は一目では分からない程度だったが、明らかに心配の色が強く表情にでていた。
「少し力が戻ったから強引にでも動こうかと思ったけど、もう少し休めそうだ」
「ふふっ、あの子はどの世界でもお節介焼なのでしょうね。全く、誰に似たのかしら?」
「・・・・・・そこで俺を見ないで欲しいな」
病室では久方ぶりに安堵の笑いが響いた。
三c( m・∀・)mスライディング土下座





