227話 交錯
「で、後ろの坊主は初顔だな。噂すら聞かなかったが、お前さんがあの馬鹿を止めてたのか?」
「え、ええまあ」
なんだこの状況。
元の世界では敵対している人物が俺に背を向け、仲間であるはずのアンネさんが俺を殺しに掛かっている。
「そんなに緊張しなくていいぜ。隙は作るからその間に逃げようや」
この緊張はユリウスさんを警戒してのことだが、どうやら違う解釈をしてくれたらしい。
スぺさん達はもういない。徐々に大天使の能力が落ちているのを感じ、これでは逆に足手まといになると一歩引いて二人の戦いを傍観する態勢に移行する。
「よっしゃ! 今日は新人の歓迎――」
言葉の途中、ユリウスさんの全身がマグマに呑まれる。
宙を捻りながら熱を振り撒くそれは、ユリウスさんを完全に囲い巨大な熱の球体となる。
が、赤熱した球体はその色を失い始め、割れた隙間から漏れ出すのは冷気。
「ふ~ 今日も寒いなあ」
隙間に足を掛けて姿を出すユリウスの右手には左手の対となるようなガントレットがあった。冷気が漏れているのはそこからだろう、彼の右の範囲を見れば周囲に霜が現れているのが分かる。
地面に降り立ち、右手をアンネさんに向けて掲げる。
「囲え、ニーフェ」
声に応じ、アンネさんを囲うように冷気の膜が発生する。
一見してそれは相手を留められるような檻には見えない。
「うぜえな」
舌打ちしながら周囲の膜を睨むアンネさん。
若干だが、彼女の体が身震いしたのが見えた。
(冷気が彼女の能力を貫通してる?)
定温だけを取り込むことができない?
それとも取り込んだ温度が更に降下しているのか。いや、そもそも今のアンネさんは地面に立っている状態だ。全身に反射を纏っている訳じゃなく一部を解除していると考えるのが妥当か。
アンネさんが地を蹴る。
反射の反動を利用した移動は砲弾の如く、瞬時に距離を詰めユリウスさんと正対する。
「おっと!」
ユリウスさんの肩を掴まんと飛び出す手を避ける。
掴まれれば作用反作用を反射した衝撃が瞬時に発動し爆裂する。彼女の攻撃を受けるにしても一方向からのものでなければ最悪即死だ。
「手癖が悪いねえ」
氷の足場が出現し、それを滑るようにして移動するユリウスさん。追いかけるようにアンネさんが飛翔し巨大な氷塊を諸共に粉砕しながら宙を舞う。
(・・・・・・怪獣バトルだな)
アンネさんの一撃がデカすぎる。
彼女に対して攻撃(その意志がなく偶発的なものでも)が直接触れようものなら十倍となって己が身に降りかかる。ユリウスさんも加減はしているだろが、十倍ともなれば最早殺戮兵器クラスの一撃に変身だ。
にしても返って来る一撃が大き過ぎるようにみえる。まさかとは思うが十倍以上の反射をしているのではなかろうか。
「ベリト」
返ってきた氷塊に向け、左のガントレットを向ける。
熱気が空気を伝播し、掌から熱線が放たれる。互いが衝突し発生した蒸気によって瞬く間に周囲が白く染まった。
「ずらかるぞ! あんなのとやってられん!」
身軽に地を駆け俺の元に来たユリウスさんが小声で言う。
首肯し、先導するように駆けだすユリウスさんに着いて行こうとして、背筋の悪寒に振り返る。
白い蒸気の向こう、淡く光るなにかが俺達を狙っていた。
おそらく完全に場所は把握されていない、それでも当たる、当てるための一撃。
「やっばッ」
位階上昇も止む無しと能力を解放しようとする。
「止まるなッ!」
それを制止してユリウスさんが叫ぶ。
彼は疾走しながら、左手の人差し指を空に向けた。
一言。
「堕とせ」
遥か上空から放たれるは極光。
それがアンネさんが居た地点に降り注ぐ。
釣られて上空に視線を向ける。
「なんだあれ?」
そこには幾何学的ななにかがあった。
幾重にも形を変え、数すら増やし稼働する物体。驚くべきはアンネさんの反射に対抗しているという点。
一機はアンネさんに直接攻撃し、反射して返って来る攻撃に対して残りが攻撃して相殺する。足止めと言う点に関して、それは学習し最適解へと進化し続けている。
これ程のものは例え5年経ったところで創り出すことはできない。
答えは一つ、あれは人が作ったものではない。
おそらくは神器。それもただの神器ではない、鍛冶の最高神の傑作と言われても疑わない逸品だ。
「よっし、稼働完了。飛ぶぜ」
ユリウスさんの手元にはなにかの機械が見える。
座標を示していることから転移ポータルの手持ち版のようなものかもしれない。
俺の手を掴み、この場を転移した。
転移した場所はまた別の転移ポータル前。
地下であることも変わらないようで、少し薄暗い廊下に出る。
「ようし、転移出来たな。そういやお前さん名前は?」
「亜矢です。えっと助けて頂いてありがとうございました」
「気にすんな。亜矢は誰の紹介でここに入ろうと思ったんだ? 自分だけで入ろうとしたら警報が鳴るだろうからそれは無いと思ってるんだが」
「スぺ・ラーニアさんに」
「うん? ああ、あの独特の雰囲気の女か。なるほど」
思案するように一瞬瞼を伏せるが、すぐに表情を変える。
「まあいいか! それよか今日はお前さんの歓迎会でも! と言いたいところだが、まずは状態を見て貰え。ちょっととはいえアンネのやつとやり合ったんだろう。あいつがなにを反射するかはまだ未知数な所があるからな、確認した方がいい」
「そう、ですね。ちなみに桐坂先輩達もここに?」
「情報だけは送っておいたからあいつらも後で来るだろう。今は自分の心配だけしてな」
ユリウスさんに連れられて身体検査を行う。
横目で彼を見ながらなんだか面倒見のいい兄貴分みたいだなと思った。
ユリウスさんと敵対することになる原因はなんだったかと思い出す。
確か、特殊対策部隊の親友が民間人に殺されたことが始まりだったと聞いた。関わった民間人全てを虐殺しその亡骸を無造作に晒した彼は未だ止まらず俺が鍵としての役割を持つ神殿の石板を狙っている。
石板に望む願いはなんなのか。
その親友の復活か、それとも・・・・・・
「体の異常はなさそうだね。健康そのものだ」
俺の体を検査していた医者が言う。
大天使には再生能力がある。傷は一つもないだろう。
とはいえ戦った相手が相手。
一度経過観察も兼ねて休息を取るべきだと、入院? まあベッドで休息をとることを促された。
通された部屋は四人用の一室。
左右にベッドが二つずつ、右奥のベッドは使われているようだがカーテンが掛かっていて内部を見る事はできない。
俺は右手前のベッドで休むことになった。
「別に大丈夫なんだがな」
まあ、色々と整理する時間は必要かと瞼を瞑る。
「はいあ~ん」
「あはは、いつもありがとう」
「いいのよ、妻として当然のことをしているだけですから」
・・・・・・ちッ
どうやら隣はラブラブの夫婦が占拠しているらしい。
なんかしらないが大変な世界の中で、しかも病室でもラブラブできるとはどんなぶっとい神経をしているんだと疑いたくなる。
「ごめんね、もう少ししたら治ると思うのだけど」
「焦らなくてもいいのよ、こうしてずっと傍にいられるのも大事な時間よ」
「嬉しいけど正面から言われると恥ずかしいな」
「ふふふっ」
イライラ
「あなた、少し目を瞑って頂戴」
「いや、流石に」
「一瞬で終わるのだから照れなくてもいいでしょうに。一日一回はね」
ぶちッ
ラブラブ波動に血管がぶちぎれた俺はベッドを這って隣のカーテンに手をかけ勢いよく開く。
「さっきから聞いてればイチャイチャイチャイチャと! ここがどこだと思って・・・・・・あ、なま言ってすんません失礼します」
そしてそれ以上の速度でカーテンを閉める。
(は? え、は?)
ゆっくりとカーテンが開く。
俺は悪魔と目が合わないよう必死に顔を逸らした。
資格試験で2,3週間更新できないかもです(´;ω;`)
蛇足ですが、新作『遥か遠くの君達へ』を始めましたのでよければ覗いてやってください。





