225話 死のルール
応援のコメントが多くてありがたいですね(*^^*)
どうも、犯罪者です。
現在は桐坂先輩の椅子として空気椅子の刑にしょされている最中であります。本当に15歳なのかと疑う程軽いので少し心配な後輩です。
「で、なんでしたっけ? 蒼の覚醒? 新世界の神にでもなったんですか。ははっ」
「あながち間違いではありませんわね」
「えっ、そうなんですか」
冗談で言ってみただけだが、外れた発言ではないらしい。
あいつがどや顔で『計画通り!』とか言っているのを想像すると・・・・・・まあいつも通りだな、あいつはそう言う奴だ。
てか俺、あいつと血が繋がってなかったんだな。
まあ俺が知ってるだけならなにが変わる訳でもないか。
「彼女が覚醒したことで起こったのが新たな死のルールの追加です」
「死のルール?」
「通常、死とはそのものが寿命を迎える、乃至は他者による殺人があります。刺殺、絞殺、撲殺、いずれも直接的な手段を必要とするものですが、新たに生まれた死のルールはこれらに含まれません」
新たな概念の創造、本当に話の通りであるならば蒼の権能によるものか。
当然、なにが死に結び付くのかという疑問を口に出す。
「正義に反する行い。その度合いによって死が決まります」
なんだその曖昧な基準はと顔を顰める。
正義なんてものは人の視点によって千差万別だ、誰かの悪は、誰かの正義なのだから。
「彼女が目覚めた初日、およそ15万人の人が死亡しました。糸が切れたように突然心臓の動きを止めた彼等は、最初であったが故にまだ幸運だったかもしれませんね」
「じゅうごっ?!」
曖昧な基準、世界規模で見れば少ないと判断すればいいのか。
世界中で混乱が起きたことだろう。突然人が死ぬのだ、己が欲の為に動ける者を考えればやはり権力者が多かったのではないだろうか。
この世界の俺を昏睡状態にしたという連中は、間違いなく関係者全員が死んだことだろう。
「二日目も大量の人が死に、三日目以降、判明してきた死の原因に世界が震えあがりました」
「萌香もあの時は怖かったのですよ。体に異変はないのに、どれだけ能力を使っても意味がなかったのです。電車の中で隣に座っていたおじいちゃんがいきなり息を引き取った時はちびるかと思ったのです」
治療をする間もなく訪れる死。
対処法の存在しない死というのはどれ程のものか、徐々に迫って来て覚悟をする時間などないのだ。
常に後ろから首に鎌をかけられ、不正解を通れば命乞いの余地なく刃が首を刈り取る。
誰の傍にも死が見える世界。怪物よりも恐ろしいと感じるのはきっと少なくない、人の感情が善性だけであるはずがないのだから。
「そして迎える四日目――100万人を超える人が亡くなりました」
「えっ、たった三日で85万人の死者が出たってことですか!」
「亜矢、四日間ではなく、私は四日目といいました。100万人を超える死者が出たのは、その一日での話なのです」
「なんで・・・・・・」
死ぬ理由が分かっているのに、どうして死者が増えたのか。
スぺさんは瞳を暗く濁らせ、淡々と回答を述べる。
原因が分かっているのだから、それを解決しようと動くのは言を俟たないことでしょうと。
曰く、世界各国で蒼を殺す為の作戦が練られたということだ。
直接的手段、当然不可能だ。武器を持った暗殺者は日本に到達するまでもなく死亡。
なれば殺意のないものであればどうだ、無垢の民に暗示をかければいい。残念ながら、暗示の途中で術者が死亡。
間接的にならばまだ可能性がある。死が確定するまでの数秒、無謀な命のリレーを続けたならば可能ではないか。それが隕石を降らすであれ爆弾を設置するであれ、実行者は死のうが物体は残るのだと。俺の妹を知らぬ浅知恵であるとしか言えない。あいつは権能なんざなくとも強い事は喰われた俺がよく分かっている。
激情に駆られた蒼を、その情を鎮めようとするものは皆無であった。
およそ人の業が最も蠢いた四日目、死者が100万を超えた。
「はぁ・・・・・・」
頭が痛てぇ、いや、その瞬間に死ぬかもしれないと考えると無謀な策に乗り出そうともするか。得てして、人は成功体験があるとそれと同じ道を通ることで失敗はしないと思ってしまう生き物なのだということだろう。
「・・・・・・ちなみに悪の判断基準とかって分かってたりするんですか」
「それはあなたの方が分かっているでしょう。この基準は彼女の性格に寄っています、なにが悪でなにが正義か、日頃を思い出せば容易に想像できるのではなくて?」
日頃の蒼を想像する。
『ふふっ、お兄ちゃんは正義のヒーローって感じじゃないよね~ なんだろう、どっちかっていうと悪役の方が似合ったりして。明日黒いマント買って来てあげる! あはははっ!』
「すんません。俺もう死ぬかもしれないです」
「なにを想像したのかは分かりませんが、絶対に違う部分を思い出したことだけは分かりました」
全く、えげつない世界にきてしまったらしい。
死者は今も変わらず一定数が死に続けているという。基準を超えてしまったという事例もあるが、超えずともなにか良からぬ行為を行うことでカルマ値(俺氏命名)が溜まっていくと言われている。
実際に、店のものを万引きした人物が、翌日も同じことを行い死亡した事例があり、他にも類似の事例が複数件挙げられているとのことだ。
つまり、俺が桐坂先輩に抱き着いた件も死には値しないまでもカルマ値は溜まっていると考えた方がいいだろう。やるとしてもあと2、3回で留めておこうと思う。
(寝てる暇じゃねえぞ俺よ)
闇落ち理由の原因である柳隼人はぐうすかと寝ているのはほんとどうにかならないものか。
誰か呪いに明るい人はいないものか、
「って、なんで呪物に侵されてるんだ?」
俺は英雄神の権能が使えるはずだ。
呪いにも明るいあの神の力を使えるのに、単なる人の呪いに掛けられることがあるだろうか。
なにか落ち着かない引っかかりに頭を悩ませていると、突然轟音が響き渡り、建物が大きく揺れた。
「地震か?! 桐坂先輩大丈夫ですか!」
「大丈夫だからさっさと離すのです!」
人間椅子形態を解除し、桐坂先輩絶対守るマンとして先輩を咄嗟に脇本に守護したのだが、暑苦しかったようでぺしぺしと頭を叩かれた。5年後の先輩とのじゃれ合いたい欲が留まることを知らない、またカルマ値が上がってしまった。
そんな事を考えている間も事態は進む。
治療室のドアが開き、男の人が酷く焦った様子で入って来た。
「しゅ、襲撃です!」
「怪物なのですか、それとも」
それとも? の続きを予想出来る程まだ情報はない。
取り敢えず話の邪魔をしないよう続く言葉を待ち、そして紡がれた言葉に自分の耳を疑った。
「こ、【孤高】が単身で攻めてきました!」
【孤高】と言われて俺が知る人物は一人だ。
問題は攻めてきた理由が皆目見当もつかないという事。
「後輩! 早く逃げるですよ?!」
思考する俺を他所に、桐坂先輩は手早く荷物を整理して足早に移動を開始する。
慌てて俺も付いていくが、疑問が増え続けてそれどころではない。
至る場所から破壊音が響き体を揺らす。
発生源はそう遠くない場所まで近づいているらしい。
「あんなに物壊しまくってますけど、なんで死なないんですか?!」
「単純に蒼にとっての悪の基準に引っかからず、それどころか正義の行いといっても過言ではないことをしていますから」
「意味が分からん?!」
全く、どうしましょうと扇子を広げるスぺさんにつっこみを入れながら桐坂先輩を追いかける。どうやら廊下の先に転移ポータルがあるらしくそれで脱出しようということらしい。
彼女は貴重な回復系の能力者だ。
ここで逃げ延びることが全体にとっての大きな生存に繋がることを誰よりも理解しているからこそ、後方職であるはずの先輩が迅速に動けたのだろう。さすせんである。
廊下を曲がり、遂にポータルが見えた時。
同時に前方の壁が吹き飛んだ。
「きゃっ?!」
咄嗟に先輩を引き寄せ背後に庇う。
見晴らしの良くなった前方。
空が見え、構造物が大きく抉れているのが分かった。
そして飛び交う能力者の攻撃。
炎、雷、氷、その他状況を利用した戦いの余波がここまで響く。
「別人、じゃないなあれ」
それを、単騎で受ける中央の人影。
視界を埋め尽くす暴力中を、なんでもないかのように悠然と歩いている。
灰色のパーカー、隙間から覗く金髪は少し伸びている気がする。
一位が戦死、そして二位が重症を負って養生中であるなら、現状の世界最強は彼女だろう。
絶対者、序列三位――アンネ・クランツ。
「桐坂萌香、か」
一度足を止め、高みから見下ろす赤い眼光が桐坂先輩を認識した。
歩みはこちらへ、先輩はふしゃーと威嚇しているが腰が抜けているようで立てないらしい。
「お前が抜ければこの組織の血流が止まるだろう。悪いが来て貰うぞ、抵抗しなければ手荒にはしない」
「絶対お断りなのです! あなた達が世界に絶望して人間に見切りをつけるのは勝手ですが、萌香は救われるべき人達がいることを知ってるのです! なにが目的かは知らないですが、萌香は必死に足掻く人達を治療し続けるです!」
淀みを孕んだ怪しく光る眼光と、胸の内に確固たるものを抱く先輩との視線がぶつかる。
その傍らで、俺はスぺさんに喋りかける。
「スぺさんは大天使ルシファーとかって知ってます?」
「勿論ですわ。それに彼に由来する品物も持っていたり、伝承は十分でしょう」
「それは上々」
う~ん、この落ち着いている感が全てを悟られている気がしてやりづらいんだよな。
もうすぐそこまで彼女は来ていた。
それを止めようと、一人の能力者が彼女の進行方向に躍り出る。
「早く逃げるんだ! あんたが居なくなったらそれこそ終わりだ!」
顔を蒼白にさせてでも守ろうとする姿はいつかの金剛さんのようだ。
力が伴っていないぶん、その差を埋める勇気は相当いるだろう。
「もう、こりごりなんだ」
彼女らしくない、覇気の籠っていない声音。
別に人を気付付けようとしていないのは明らかだった。威力を十倍にして返せるはずなのに、当たった瞬間に最低倍数の反射のみで相殺してばかりだったから。
そんな彼女が、なにかの限界を感じ取ったような悲し気に見える瞳で、そっと手を能力者に向ける。
腕に迫った手はそのまま彼を掴もうとして、
「超越神」
――俺は正面から彼女の手に自分の手を添えた。
なんなら恋人繋ぎをして指を絡ませてみる。
「・・・・・・は?」
天網久遠で遠くに転がっている椅子を二脚、俺と彼女の背後に引き寄せる。
重心の移動を利用して軽く押し、彼女の体はすとんと背後の椅子に座り、俺も椅子に腰を下ろす。
「まあまあ、少しお話しましょうよ。お姉さん綺麗何で、色々とサービスしますよ」
取り敢えず落ち着けようと、どこかで耳にした口上を言ってみる。
うん、失敗したかもしれない。





