223話 先輩
皆さま連休はどうお過ごしでしたでしょうか。
私は色々と読み耽って幸せな日々でした・・・・・・
ああ、来年はこんな連休はないだろうなと思いつつの怠惰は虚しくも幸せだったw(´;ω;`)
暴走娘を完全に巻いて裏路地でいじけていると、スぺさんから渡された端末に連絡が入った。地図が添付されており、一部に赤い点が記載されている。どうやらそこで落ち合おうということらしい。
振り返り、暴走娘が追って来ていないことを再度確認しながら指定地へと移動する。
駅4つ分ぐらいか、それなりに距離が離れた場所にようやつ辿り着く。
古民家が並んでいて、節々に目を配れば影が目立つ場所だった。その一角で、スぺさんが丸机を出して優雅にティータイムをおくっているのを発見する。
彼女も俺のことを見つけ、微笑を浮かべながら軽く手を振ってきた。
「あらあら、なんだが浮かない顔をしていらっしゃいますわね」
「そりゃそうでしょうよ。いきなりこんな世界に来たかと思えば、実家であるはずの場所で女の子にぼこされたんですよ。これで機嫌が良かったらとんだマゾヒストだ」
文句を言いながら、空いた椅子に座り出された紅茶を飲む。
あっ美味しい。殴られた事か、紅茶で機嫌が和らいだ俺を見てか、くすくすと手を口元に持っていきスぺさんが微笑を漏らす。
「結局なんの情報も得られませんでしたし、色々と教えて貰ってもいいですか」
「分かりましたわ。でもそれは移動しながらで。でないと私の美貌に引き寄せられた連中に絡まれるかもしれませんので」
なんて自分は罪深いのかと溜息を吐くスぺさんにジト目をおくる。
紅茶を飲み始めて早々であるが、彼女の血で作られていたらしい机が血に還り。立ち上がって移動を始めるスぺさんの隣を歩き、いくつかの質問を投げかける。
「この世界で俺、柳隼人の立場はどうなっていますか」
「そうですわね、この世界のあなたは中学生の頃には既に頭角を現していた能力者。高校卒業後の一年で絶対者の9番目に名前を刻んだ、恐るべき才覚の持ち主ですわね」
「中学・・・・・・?」
予想にない展開に首を捻る。俺がいた世界と全く流れが違うからだ。
中学で能力を人前で使用するような展開など元の世界にはなかった。単に時間軸が違うだけじゃない。明らかにここに至るまでの道程が異なっている。
「けれど、彼は現在意識不明の状態ですわね」
「えっ意識不明?」
まさかとは思うが怪物に負けたのか?
・・・・・・いや、もしかして一度蒼を堕としたあいつか。
最高ランクの怪物が相手なら負ける可能性はある。が、一番うありづらいのはやはり情報が皆無のあの男だ。
でも、何故意識不明で留まっているのかが分からない。
神殿の石板を狙っているなら俺を殺す必要があるからだ。
「・・・・・・怪物にやられたんですか」
俺が知らない存在が台頭してきた可能性を想定して尋ねる。
「いいえ、相手は人間ですわ」
やっぱりあの男かと顔を顰める。
が、続く言葉に思わず己の耳を疑った。
「今まであなたが必死になって守ってきた人間。皮は人間でも、その実は欲に塗れた獣であったということでしょう。明確な線引きが無い分怪物よりも厄介であったのでしょうね」
不可能だろうと思いはするが、とても嘘を言っている表情ではない。
黒髪暴走少女がどうしてあんなに感情を露わにして殴りかかってきた理由がなんとはなしに想像できた。
(・・・・・・そうか、この世界の俺は人間に裏切られたか)
母さんや父さんがいてなお意識不明の状態であるなら、俺を陥れたのは生半可な勢力じゃない。綿密な計画の元に為された犯行と考えていいだろう。
「ったく」
有象無象のいいようにやられてんじゃねえよと言いたい。
タイミングを見て忍び込めそうだったら起こしに行ってやろう。起きたら過去の自分の姿があるのは完全なホラーだな。
もしかしてこの世界に連れてこられた理由は俺を起こすためか?
早々に起きないということは色々とこじれていることが容易に想定できる。
「俺がこの世界に連れてこられた理由って、それが関係したりします?」
「それはまた別ですわ。あなたをこの世界に招いた理由は、目の仇にしている男の情報を教えるため」
「それって」
「よく無表情の男とあなたが呼んでいた彼の名前は霧灯馴。そしてこの世界は、無数に存在する世界線の中で現状唯一彼に勝利した稀有な軸ですわ」
まさかこんな所で怨敵の名前が分かるとは思わなかった。
・・・・・・つまり、奴に勝利したこの世界ならどういう戦法を取ればいいかも把握できると。
にしてもスぺさんの言いよう。世界を幾度となく渡っているとしかとれない物言いは、一生命としての領分を明らかに超えているとしか思えない。
どこまで踏み込んでいいものかと冷や汗を流しながら二の足を踏む。
もし彼女が神の領域にまで浸かっているのだとすれば、不用意な質問は己の首を絞める事になりかねない。
質問をすれば返答がくるのは道理だ。
つまり、一方的な神言ではないため神としての行動に関する抑制が緩む。
・・・・・・まあ、この人から神性は全く感じないからいらない警戒ではあるとは思うが。少し危ない返答になりかねない話題から離れるか。
「・・・・・・この世界と元の世界との時間軸の違いの概算は」
「およそ五年ですわね」
五年か。ということは俺は二十一か二十二で、蒼も時期によっては成人してるな。
まじか、ちょっと見てみたい。身長は少しは伸びただろうか、年頃だから彼氏もいるかもしれないな。
そのから数度の問いかけを経て、目的地に着いたのか、人通りの少ない場所にある扉の前でスぺさんが止まった。
「この扉は簡易的な転移の能力が付与されたもので、指定された場所に移動できるものになっていますわ」
「それは凄いですね。物流に革命が起きるじゃないですか」
扉に埋め込まれたダイアルのようなものを操作し、スぺさんが扉を開く。
俺の世界も五年後はハ〇ルの扉ができるのかと期待を抱きながら彼女の後を付いていった。
扉を抜けた先はどこかの建物の中だった。
地下にでもあるのか窓が見当たらず外の景色を確認できない。
少し薄暗い廊下、点滅する蛍光灯に、怪我をしているのか包帯を巻いている人達がちらちらと視界に映る。
「この程度の怪我で喚くんじゃないのです!」
廊下の奥から怒声が聞こえた。
若い女性の声だ。ただ、どことなく懐かしさを感じたのは何故だろう。
「おっと、あなたの素性がばれると色々と面倒ですので、そのサングラスを付けておいて貰えますか」
「あっはい」
最強装備を着用して歩みを進める。
奥へと進み、逆に奥から戻ってくる人たちはげっそりとした表情をしながらも、どこか安心したように体を動かしている。
「ちょうど彼女も休憩時間ですわね」
おそらくは怒声が聞こえていた部屋の前。
えっまじでと嫌がる俺を無視してドアノブに手をかけてスぺさんが扉を開く。
部屋の中は掃除が行き届いた綺麗な場所だった。
いくつかのベッドが並び、患者を受け入れられるような態勢が整っている。
二人の女性がいた。
一人は助手なのだろうか、書類等の整理をしており忙しなく動きまわっている。
そしてもう一人は白衣をきていた。
明るい髪に、三つ編みをした少女。おそらく俺と同年代の少女は疲れたように机に突っ伏して呻き声を上げている。
「あ゛ぁ~ 能力使い過ぎて死にそうなのです」
頭から湯気を出して唸っている少女にスぺさんが呼びかける。
「少しは休んだらどう?」
「うん? あぁ、お久しぶりなのです。心配してくれるのは嬉しいのですが、回復できるのは他にはいないのです。休みなんてとってられねえのです」
「あなたが倒れたら元もこもないですわよ」
「その時はその時です。それで? そこの彼は誰なのです?」
ああ、間違いない。
この喋り方、そして回復能力と来れば、思い浮かぶのはただ一人。
「新しく組織に入れたい子よ」
双眼が俺に向けられる。
少女は、悠然と立ち上がり不敵な笑みで胸を張った。
視線の位置が俺より少し下ではあるが、それでも依然と比べて遥かに成長した姿になんだか感慨深い気持ちになった。
「ならあなたは萌香の後輩なの! 先輩をしっかりと敬うのです!」
特殊対策部隊の頼れるサポーター。
桐坂萌香先輩は五年経った世界でも笑みを浮かべて生きていた。





