221話 お誘い
新章スタート!
家に帰ってきて日常にも少し慣れてきた。
あれから厄介な依頼も来ていない、シャルティアさんのご飯を食べて黒猫のルイと、本部に行ってポメラニアンのサリーに癒してもらう日々。
桐坂先輩と菊理先輩は少し成長していて将来の姿が少し想像できた。願わくば家の女性陣のような魔女にならなければと思う。
ちなみに父さんと母さんはもう家におらずまた外に出て行った。もう少しのんびりしていてはと思うが、そうできない用事であるらしい。ならば仕方ないだろう。
ピンポーン。
時刻は午前9時頃、家のチャイムがなり俺は席を立って訪問者を招き入れるため玄関へと向かう。ここ最近のチャイムにも少しづつ慣れてきた。
「おはようございます! えへへっ、また会いにきたっす!」
玄関を開ければ満面の笑みを浮かべた服部さんの姿があった。
神々との戦いが一応の終りを迎えた後、時々家に訪れる事が多くなった。なにをしに来るかと言えば、まあ仕事の話だったり趣味やゲームなんかをすることも。
一緒にいて凄く付き合い易い人だと改めて感じる。
パーソナルスペースの取り方が上手いのだろう。
そして彼女がなんのために来るのかを考えて、さっさと結果を出せない自分をぶち殺したくなる毎日を送っている。将来の選択に出家を考え出し、ネットで色々と調べ出した俺はもうだめかもしれない。
「どうぞ上がってください」
「お邪魔するっす」
フランクでいて少し大人っぽい服装。
以前まではなかった小さなピアスが少し揺れる。
「うん? どうかしたっすか?」
「あ、いえ、服部さんは大人っぽい服も似合うなと」
「本当に? ちょっと勉強しだしたんすけど、あんまり分からなくて。でも似合ってるなら良かったっす!」
甘ぇ、くっ、陰キャとして君臨していた弊害か体が拒否反応を起こすように歪な動きになる。
油の切れた機械のような動きで服部さんをなんとか俺の部屋に案内する。
俺、服部さん、蒼、そしてソフィアさんがそれぞれ座る。
「いやなんで?」
「「ん?」」
「ん? じゃないのよ。蒼は何故か俺の膝の上に座ってるし、ソフィアさんはなんでお酒を容易してるんですか」
「なんだか座らないといけない強迫観念に襲われて」
「このくらいの年の子の甘酸っぱい青春物語をお酒のつまみにしながら酔い寝しようかと」
だ、駄目だ、こいつら狂ってやがる。
ソフィアさんは俺の注意に慣れてしまったのかどこ吹く風、せめて蒼はと思うが、ヘルプの視線を服部さんに向けても気付かず、『兄妹で仲良しっすね~』とお姉さんモードに入っている。
「あびゃっ!!」
奇怪な声を上げてソフィアさんが地面に突っ伏す。
その背後には呆れた表情を向けるシャルティアさんの姿があった。
「はぁ、一度人選を見直した方がいいかもしれませんね。テオドル・チェルニークならば問題ないと思いますが」
「ほんと、いつもすみません」
「あなたが謝る必要はありません。この脳空にはそろそろ教育を施すべきでしょう。怠けるにも限度というものがあります」
溜息を吐きながら、シャルティアさんはもってきたお盆を机の上に置く。
そこには特盛のおやつがある。その殆どが服部さんの胃袋に吸収されるであろうことは誰もが分かっている。
一度夕食でもと、家にきた服部さんの胃袋の力を目にしたシャルティアさんの顔は今でも鮮明に思い出せる。人間は理解の範疇にない不思議を前にすると、情報を咀嚼できずに固まってしまうらしい。
「では、失礼します」
片腕でソフィアさんを無造作に担ぎ上げシャルティアさんが去っていく。
「本当にシャルティアさんはお料理が上手で羨ましいっす」
もっきゅもっきゅとリスのように頬張る服部さん。ついでに口を開けてる蒼の中にも放り込んでおく。
「逆にあの人ができないことなんてあるんですかね。完璧超人という言葉が具現化した姿としか思えません」
「確かに、なんでもできてスタイルも魅力的なのは反則っす!」
「一緒にお風呂に入ったけど、シャルティアさんはとっても綺麗なおっぱいだった!」
「誰がそんなこと聞いた? 一瞬考えちゃっただろ?」
頭を挟み込んでぐりぐりとお灸を据える。
「隼人君はなにか好きな食べ物とかあるんすか?」
「・・・・・・牛丼、とか?」
くっ、洒落たものなんか知らないんだ。
なんちゃら風のなんたらあえとか言えたらかっこいいのだろうが、俺はどこまでいっても庶民なのだ。この世の大体が手に入るはずなのに、チャレンジしなかった俺が憎い。
下を見れば、蒼が鼻で笑っている。
「牛・丼(笑)」
「笑うんじゃねえ!」
激しい攻防を繰り広げる我等をよそに服部さんは笑みを浮かべて、なにやら手帳に書き込む。
「うん! じゃあ今度作ってくるっすから是非隼人君に食べて欲しいっす!」
ほわほわした空間の中で楽し気に笑う姿はビーナスの生まれ変わりなのではと疑ってしまう。悪鬼蒼は浄化されそうになっているのか両目を手で覆って『目がぁ、私の目がぁああ!!』と叫んでいる。
不意に、本日二度目のチャイムが鳴り意識が引き戻される。
人の気配からどうやらシャルティアさんが玄関に向かったらしい。
なにか配達でも頼んでいたかと記憶を思い起こすが、そんなものはない。じゃあ、この前の依頼に関してまた別途でお礼でも贈られてきたのかもと考えたが、どうやらその想定も間違えだったらしい。
部屋のドアが開き、珍しく嫌そうな顔を表に出したシャルティアさんの背後、赤い何かがいた。
「お久しぶりですわ」
真っ赤なドレスに身を染めた美女。
数多の知識を有しているという【強欲】の吸血鬼、スぺ・ラーナリアがそこにいた。
まあ楽しそうと参戦した吸血鬼のスぺさん。そしてなにかやらかさないかと監視の意味でこの場に残るシャルティアさん。
「比率がおかしい」
男子1に対し女子4、ここまでになると気まずさの方が勝る。
なるべき気配を消して黒子に徹するべきだろう。
スぺさんは軽く皆を見回して、
「あらあら、もしかしてハーレムでもおつくりに?」
「ぶふぅう!」
変わらぬ笑みを浮かべるちょっと怖い服部さん、そんな甲斐性ないのにねと言わんばかりの顔で見てくる蒼、機嫌が急降下し眉間に皺が寄るシャルティアさん。
「そんな戯言を言いに来たのですか? そんな女性の敵はジャック・グラントだけで十分です。貴方も、そのようなことを考えてる訳では・・・・・・ありませんよね?」
「はい! 勿論です!」
怖い怖い怖い。
薄々分かっていたがシャルティアさんはジャックさんの事を相当嫌っているらしい。複数の女性を相手にしている点を不誠実だと感じているのだろうか。
「そうですか? 貴方なら上手くできると思いますが」
「あはははは! やめて下さいよもぉ! 俺にそんな甲斐性があるはずないじゃないですか!」
こんな話を続けていれば俺の心が死に絶える。
話題展開をと焦りちらかす俺を見てスぺさんが口元に手をやってくすくすと笑う。
「いえごめんなさい。貴方らしくてついつい笑ってしまいました」
俺らしくて? その妙な言い回しが引っかかる。
全知と呼ばれるような彼女であれば、それだけ俺のことを知っているのだろうか。
「楽しい集まりの場に水を差すようで申し訳ありませんが、今日は貴方を少し旅行に誘いに来ましたの」
「そうなんですか? あぁ、じゃあ日程を見て今度――」
「いえ、今からです」
僅かに変わる空気、蒼もなにかしらを感じ取ったのか笑みを消す。
「貴方は知らなければならない」
不気味に、それでいてどうしても引き込まれる表情に呑まれる。
そんな中、躊躇なくナイフを抜くシャルティアさん。その刃がスぺさんの首筋を捉えたかと思えば、幻想であったかのようにナイフは空をきる。
『契約は果たそう』
聞こえたのは超越神の声。
訳も分からぬまま、俺の見ている世界に亀裂が入り、その中に吸い込まれるようにして俺とスぺさんが落ちた。
今回は吸血鬼さんと共に(*´▽`*)





