218話 死神
活動報告に書いていたように2月に入りましたので、ちょっとずつ更新再会していきます。
お待たせしてしまい申し訳ありません(>_<)
「模倣――癒しの運び手」
以前に見た桐坂先輩の能力を模倣して服部さんの肉体を治癒する。
肋骨を砕き、肺にまで達した明らかな致命傷。流れでた血は彼女の肢体以上に広がり、地面を赤く染めている。
数分を掛けて肉体の治療は終わった。
一見、ただ眠っているようにしか見えない。
「鈴奈さん・・・・・・っ」
涙を流しながら七瀬先輩が服部さんの体を抱き寄せる。
呼吸は聞こえず、心臓が止まった体は力なく吸い寄せられる。
「そうか、死んだのか」
口にしたことで、ようやく実感した。
俺を連れ出した彼女は、いつも笑顔でいた彼女は、誰かを守らんと献身的な姿を堂々と見せてきた彼女は、動かぬ屍になってしまったのだと。
――明日、あなたの大切な、そしてあなたを大切におもう誰かが死にます。
菊理先輩の予言。
確かにこの耳で聞いたはずなのに、どうして警戒していなかったのか。
父さんなら死ぬはずがないと確信していた?
彼女達がきていることをしらなかった?
全てが言い訳にしかならない。
周囲の惨状、それらの存在は俺がここに入って来てから最初に感じたものだ。
あの時に俺が殺していればなにかが変わったかもしれない。時間にして数十秒、それだけで十分だった。
守るべきものを優先した。
当然それはある。けれど、思い返してみればその時の心情が分かる。
己に関する縁以外をなんの躊躇もなく切り捨てたのだ。
「そうか、気付かないうちに俺は変化していたのか」
恐らく神々の権能を使う事による精神変化。
守るべきものが見定められていることでそれに気づかなかったが、どうやら必要が否かの境界線がはっきりする。簡単に言えば曖昧な部分の感情が薄れているのだろう。
その結果、内側の人間が死んでいる。
嗚呼、目の前が真っ暗だ。
足元もおぼつかない気がする。
一度瞼を閉じ、深呼吸をする。少しだけ荒れていた心がおさまる。
「――なに止まってんだよ俺は」
感傷に浸っている時間ではない。
おそらく黒幕であろう神はまだ存在していて、そして今の俺にもまだできることがあるはずだ。
死んだ人間は生き返らない? そんなことは知った事じゃない。
「位階上昇――永久の物語をここに、伝令神」
存在を伝令神に近付け、左手に一本の杖を召喚する。
名を、カドゥケウス。二匹の蛇が巻き付いた短い杖。
曰く、眠っている人を目覚めさせ、目覚めている人を眠りにいざなう。死にゆく人に用いれば穏やかになり、死せる人に用いれば生き返る魔法の杖。
『止めるんだ隼人! 君ではッ・・・・・・』
伝令神の慌てた声が聞こえる。いつも飄々としている神とは思えない焦りっぷりだ。
カドゥケウス。その能力は絶大だが、これを扱えるのは神々に認められた使者のみ。
資格のない俺は、本来であればこの手に持つことも許されない。今この手にあるのは伝令神の権能を持っているからだ。強引に俺から手を引くことはできるのに、今だ伝令神の力を使えるのは多少なりとも俺を気に掛けてくれているという認識でいいだろう。
「七瀬先輩、服部さんをよろしくお願いします」
「柳君なにを・・・・・・」
腫れた目で俺を見上げた七瀬先輩が疑問の声を上げるが、それに答える時間はない。代わりに笑みを浮かべて杖を一振りする。
途端、変わる光景。
周囲の薄暗さはそこまで変わらないが、清涼とした空気が流れている場所。
視線の先、たった一つだけ光が見えた。
光に向け歩き出し、すぐに歩みを止める。
――いつの間にか、フードを被った何者かが歩みを止めるように立っていた。
昔から、伝令神には再三に渡って言われていた。
『君は危なっかしいから一応釘を刺しておくけれど、もし近しい仲間、そして家族が死んでも僕の杖は使わないでね』
『何故です? 正直数人程度の人の死が覆されても神にとってはどうでもいいような気がしますが』
『数ではなく理を捻じ曲げること自体が問題なんだ。そんなことをすれば必ず守護者が現れる。そして己の領分を守る為に用いられる権能に際限はない。故に、不完全な能力で留まっている君では絶対に勝てないんだ』
フードが外れる。
淡紅色の髪が揺れ、暗闇の中紅に光る瞳が俺を見ていた。
「己の領分を弁えない愚者が」
中性的な見た目をしているが、声から男性であると分かる。
両手に握られているのは小銃。
纏う空気、生気を感じさせない冷徹な眼光。
出会うのはそれこそ俺が死ぬその時までないと思っていたが、想定よりも遥かに早くなってしまったな。
「そこをどけ、死神」
銃口が俺に向けられる。
【魔王】の能力で模倣するは、序列一位の能力【全能神】。
杖を払うように振る。雷撃が奔り、須臾の間眩く世界を照らす。
対する神は動揺などおくびにも見せず、銃口を雷撃に向け軽くトリガーを引く。
銃口から発射されるは神話文字が綴られた弾丸。雷撃に当たるや、全ての雷撃が霧散した。
「・・・・・・?」
攻撃が効かないことは想定内。しかし、違和感を抱いた。
雷撃全てを霧散させる威力を持っているならこちらに弾丸が届いているはず。けれど弾丸による攻撃は拡散した雷撃のみに留まっている。
間違いなく神の権能だろう。詳細は分からないが、威力の弱くなる権能などあろうはずがない。一撃を貰えば即死の覚悟で挑むべきだ。
「世界の慟哭を聞け、神羅万象全ては魔障を消さんと荒れ狂う」
物語を紡ぐ。
地が揺れ、森が生まれ、天から雷が降り注ぐ。
(少しでも時間が稼げるなら)
周囲全てが一柱に襲い掛かる。
踊る木々の隙間、死神はまたしても銃を構えトリガーに指を掛ける。
(銃で消せるとしても一丁であれば前方の範囲のみ。次弾を放つまでの一瞬の隙が出来ればそのまま抜ければ――)
「阿呆が」
【加速】を模倣し踏み出そうとしたままに、体を硬直させた。
五月蠅い程のざわめきは、たった一発の弾丸によって沈められた。死神の周囲全ての創造した物語が霧散する。
「範囲は、関係ないのか・・・・・・」
悠然とこちらに歩き出す死神。
ローブからもう一丁の拳銃も取り出し、両手に携える。
「死の訪れを阻めるものなど存在しない。有史以前を辿ろうとも、狂った天才は見つかれど、壁を越えた者などいない」
紡ぐ言葉に感情はない。
冷たいなにかが俺の足を掴んでいる感覚がした。久しく感じていなかった感情に冷や汗が流れる。
認識が、甘かった。
権能を知っているが故に分かっている気になっていたのだろう。際限のない力を持った権能を知りもしないのに。
「触れられず、藻掻けど浮上することはない深海、それが俺だ。お前も屍の列に加わるか? 柳隼人」
「ははっ」
怖ぇ、伝令神の権能では勝てる気が全くしない。けれど今この杖を離すわけにはいかないのだ。杖を力の限り強く握り、言葉を紡ぐ。
「大いなる戦士共よ、誇りを掲げよ」
無から生命が生まれる。十メートル近くの巨躯を持つ戦士がおよそ六人、雄叫びを上げながら顕現した。
「それが答えか」
「今こそ敵を討て!」
彼等が死神を見据え、即座に距離を詰め二人の戦士が両側から挟み込むように拳を繰り出す。
「分からないな」
視認できない早業、いつトリガーを引いたのかは分からなかった。ただ、銃口を向けられた両脇の二人の頭部が炸裂し体を保てずに消えていく。
「人はいつか死ぬ。お前が死期が少し早まっただけだろう。何故いずれなくなるものを必死になって繋ぎとめようとする?」
剣を振り下ろした戦士の剣が死神に手で受け止められ半ばから強引に折られ、眉間を撃ち抜かれ消える。死神の姿が闇夜に溶けるように消える。音が無い、ただどうしようもない感情に煽り立てられるように脈打つ鼓動の音が大きくなっていく。
耳朶をうつ発砲音。倒れ行く残りの戦士を横目に、背後に回し蹴りを放つ。
「終わった一兵を救おうとする王はいない」
蹴りを放った足が銃弾によって吹き飛ばされた。
体勢を保てず、そのまま地面に尻餅をつく。吹き飛んだ足は権能の効果が働いているのか、【魔王】の再生能力でも再生する気配が見られない。
「ちッ!」
銃口を額に向けられる。
しかし、死神は何故か撃つ気配を見せない。
「今一度チャンスをやろう。元の世界に帰れ。半端な力しかない少女と神に届きうる力を持つお前、量る必要もない天秤だ。死のリスクを負う理由はないだろう」
「はっ」
・・・・・・本当、神って感じの発言で嫌になるよ。
これになりかけていたのかと思うと寒気がする。
「そもそも天秤にかけられるもんじゃねんだよ。彼女は絶対に必要な存在だ、限られた命なのだとしても、その中で輝く彼女に数多くの人が救われるだろう」
それは、ただ単純に力でしか支える事しかできない俺よりも素晴らしいことだと思う。
依存ではなく、奥底から心を支えられる服部さんを助けられるなら、この命は十二分に掛けられる!
「小さな尺度で語ってんじゃねえぞ節穴!」
「口だけなら意味はないぞ」
「雷霆ッ!」
雷を零距離から放つ。反応した死神が打ち消さんと発射した銃弾が、ほんの僅かに拮抗し、周囲に衝撃を齎し霧散する。途中で体勢を戻し、欠損部分は天網久遠を利用して義肢を作った。
「さあ、神話の戦いをここに綴ろう。誰にも見届けられず、されど未来へと繋げる物語を」
続々と姿を現す神話の創造物達。
炎の鳥が空を舞い、山のような蛇が長い舌を動かしながら顎を開く。
ああクソ、視界が赤く染まる。脳の血管がはちきれそうだ。
天に向け手を掲げる。薄っすらと天に魔方陣が描かれていく。
俺が創造する速度とそれらを一撃で仕留めていく死神。奴は一撃を受けるどころかローブに攻撃が掠っている様子すらない。そこまで時間は稼げそうになさそうだ。
「化物が」
二十秒、限界まで権能を酷使して対抗出来た時間。
最後に蛇が殺され肉体が霧散する中を潜り抜け、死神の眼前に躍り出る。
向けられる銃口。一つは俺に、そしてもう一つは天の魔方陣に。
俺に目られた銃口から弾丸が射出される。
「くッ?!」
避けず、逆に左腕を突き出し距離を詰める。
「っ!」
僅かなされど確かな動揺。
だから見逃したのだろう。天の魔方陣へと射出された弾丸、それは魔方陣から放たれた一撃に当たる事はなかった。それは死神を狙ったものではないことに気付かなかった。
「終焉の極光ッ」
死神以外の地面に向けられた攻撃。
当然俺にも降りかかるが、雷霆を身に纏うことで威力を軽減して突き進む。
視界が戻った中、警戒しながら死神が銃を構える姿が後方で見えた。
「俺の勝利条件はあんたを殺すことじゃねえよ」
ぼこぼこにしてくれたお礼にそれだけ言い残し、光の世界に飛び込んだ。
ちょっと悲しいご報告
次巻がどうなっているのかと聞かれることがありますので少しお話しますと、部数がつかない状態で続刊はできないということです。私の技量が足りないばかりに皆さんにヨグ様のお姿をお見せできずやりきれないおもいです。もし次巻が出た場合は続刊ではないですが、話をまとめる確率が高そうですね(´;ω;`)





