214話 神VS神
【修正】アレスを破壊神ではなく軍神に修正しました。
神、アレス。
神話ではあまりいい話はない。
英雄に風穴を開けられ、巨人に幽閉されるなどの敗北者としての立場の者ばかりだ。
ただ、人々に伝わる彼の神話は数が少ない。神話に語られる程のものが無かったのか、それとも誰かの思惑によって神話が伝えられなかったのか。それは当の本人と神話の存在にしか分からない。
軍神、戦神、殺害の神、狂乱を望む神。
【オリュンポス十二神】が一柱――アレス
◇
「ふぅ」
小さく息を吐く。
髪が黄金色に変化する。白銀の鎧を身に纏い、紅のマントが背ではためく。
破壊神が警戒する中、頭の中に声が響く。
(隼人君、少しだけ体を貸してくれないかな?)
(御冗談を。場をかきまわそうったってそうはいきませんよ)
(違う違う。君は僕の権能を使うのは初めてだろ? にもかかわらず相手はあのシヴァだ。ここは僕が少しレクチャーしようということだよ)
(・・・・・・)
非常に不安だ。
にやついている表情がありありと想像できるが、言っている事は間違っていない。
「・・・・・・分かりました。少しの間お願いします」
能力の本質が理解出来たらすぐに戻るつもりで体を明け渡す。
軽く目を瞑り、再度開いた瞳の色は淡い青色に変わっていた。
「いい体だ。才能は申し分ないね」
手を開閉したりと俺の体を動かしながら軍神が呟く。
「待たせたね」
笑みを浮かべながら見つめる先には、青筋を立てながら槍を握りしめるシヴァの姿があった。
平静を装いながら努めて冷静に問いを投げかける。
「何故貴様がそちら側に立っている。人間を憎んですらいたはずだ」
「そりゃ好きじゃないさ。でもね、全てを終わらせるには勿体ない。僕は彼等の醜い争いが好きだ、苦しみ悶える姿なんて見たら腹が捩れてしまう」
「道楽のために生かすと?」
最早怒りは頂点に達したか、シヴァの表情が抜けて体が脱力している。
「それも理由の一つだけど。家族を守らんとする隼人君のことが気に入ったからっていうのが今僕がここにいる理由かな。理不尽に家族を汚されるなんてことはあってはならない。その理不尽が例え僕達神であってもね?」
その身から闘気を噴き出しながら軍神が悠然と歩きだす。
「それじゃあ始めようか」
――神同士の殺し合いを
眼前に槍の穂先。一息に距離を詰めた破壊神が槍を突き出す。
顔を傾けることでそれを避けると、逆に懐に潜り込み腹部に拳を打ち込む。
「やるねえ」
「舐めるなよッ!」
槍を持つ右手とは反対の左手で拳は塞がれていた。
その状態で、右手の槍を回転させ頭上から突き刺す。
「なッ?!」
防御するかと思われた一撃だが、軍神は笑みを浮かべ左手を突き出して一撃をわざと受ける。
左腕を抉る三叉の槍。
血飛沫が俺の顔半分を染め上げ、口角を吊り上げたまま破壊神を蹴り飛ばす。
「くッ、無茶な戦い方をする。自滅するつもりか?」
「いや、ちょっと確かめたくてね」
軍神は屠られた左腕に視線を移す。
そして何事か理解したのか、軽く頷くと俺の【大天使】の再生能力で元に戻した。
「なんで主神ともあろう存在が人間と戦いになっているのか、なれているのかと思えば。なるほど権能が十全ではなかったからか」
破壊神は槍を構えたまま動かない。
その沈黙が回答なのだろう。ただ、それでも勝てると判断したから今こうして対峙しているのだ。
「シヴァの力の根本は破壊よりも再生だ。破壊したものを、君が思い描くように、自分にとって有利なように再生できる権能」
権能を正体を聞いて、背筋がぞわりとした。
つまり、本来の権能が働いてさえいれば、俺は最初にあった時点で終わっていたのだ。
仮に生きていたとしても、それは俺であってそうでない何か。破壊神にとって有利に動く駒でしかないということだ。
なるほど。こんな権能があれば、壊せば全てがおさまると思ってしまうだろう。なにせ壊した分だけ自分が思い描く通りの理想に近付くのだから。
「けれど、その再生が使えない。いや、不完全と言ったところかな。己の再生はできても他の存在に干渉することはできないわけだ」
でなければ左腕はもう動いていない。
どころか俺の体を蝕むものになっていただろう。
「貴様如きに再生を使う必要などない」
「その傲慢が命取りなんだけどね。人間に一矢報いられる屈辱を君も味わう事になるよ?」
ふと、足元に俺を囲うようにして四角形の光が奔った。
次の瞬間には光から黒い壁が浮き上がり、三メートルほどの高さで止まったところで箱を閉じるように蓋がされる。
(・・・・・・スカウトは無理そうだな)
「はははっ、何を今更。反逆した熾天使の力を持っている君に直接接触するような変わり種の神なんて殆どいないさ」
笑いながら。俺の体で軽く伸びをした軍神は、両腕を水平に伸ばして軽い口調で呼びかける。
「来い」
掌で光が生まれ、武器へと変化する。
二本の槍、それぞれを手に持ち、槍を回転させながら囲っている箱を切り裂く。
「・・・・・・っ、やはりこの程度では意味はありませんか」
緊張した様子の地母神の様子が見える。
手を出しているという事は、彼女は俺が存在していてはいけないと判断したのだろう。
「残念だよ」
全く残念そうではない口調で言う軍神。もしかしたら俺の代弁をしただけかもしれない。
僅かな停滞。
誰かの息遣いが聞こえた。
停滞を破ったのは軍神だ。
右腕で投擲の構えをとるや、地母神目掛け槍を投擲する。
彼女の前に即座に現れた破壊神が槍を払いのけるようにトリシューラで迎え撃ち、火花を散らしながら槍が宙を舞う――途中、ほぼ破壊神との距離が零である空中。そこで弾かれた槍を弓なりに引いた状態で掴んだ軍神はそのまま再度破壊神の頭部目掛けて投擲した。
「おっと?」
「七番、虚穿」
首を傾けることで直撃を回避した破壊神。僅かに頬が裂けてはいるが、関係ないとさし返しに強烈な槍の一撃を放つ。
「ははッ! 絶槍!」
地面に突き刺さった槍を回収する隙は無く、即座に左手の槍で迎撃する。
両者の槍が衝突し、空間が軋む。威力は五分といったところだが、足場の問題か軍神が後方に飛ばされた。
神殿の壁に足をついてそのまま跳ぼうとするが、破壊神までの直線距離に幾重もの光が現れ、箱の形を取るや蓋が開かれ、そこから異形の怪物達が姿を現す。
「邪魔だ」
前方の二体を即座に屠り、地面に着地と共に上空に跳び上がる。
亡者のように叫びながら迫る怪物の群れ。それらの存在全てを把握する。
「嘆星」
闘気を限界まで槍の先で圧縮し、それを怪物目掛け投擲する。
接触と同時に広がる闘気の圧力は怪物達を消し炭に変えた。
槍を掴み怪物が一掃された道を大手を振って疾走し、破壊神と対峙する。
己のレンジに入った瞬間、両者の槍がぶつかり合う。
次撃がコンマ一秒にも満たないぶつかり合いが数十合と重なり、軽く後退した破壊神を追うように動きながら地面に刺さっている二本目の槍を回収する。
「ちッ」
破壊神との間に再度光が奔り巨体の怪物が一体現れる。
「山貫」
一撃、怪物の腹部に風穴が空き絶命する。
ただ、倒れた先に破壊神の姿はない。
背後に気配。回避する余裕はない。
「ッ?!」
左手の槍の石突を背後に回して防御する。
まさか防がれるとは思っていなかったのか、息を呑む音が聞こえた。
軍神は右手の槍を背後に回してそのまま手のスナップで槍を放つ。
破壊神はバックで回避。
背後の危険が薄れたところで軽く半回転しながら宙返りをし、刺さっている槍の石突の上に乗った状態で破壊神と正対する。
「五月雨」
そのまま上空から雨あられと突きを繰り返す。
堪らず舌打ちしながら破壊神は大きく後退した。
「八番」
破壊神の周囲を漆黒のオーラが逆巻く。
そして後方、視線だけを向ければ天井に巨大な箱が生み出され、そこから新たな怪物が姿を現そうとしていた。
「でかいな」
手が、箱の縁を掴んでいる。
指の一つで既に俺と同じ大きさを持つ程の大きさ。
人間に似た手、悪魔のような爪、そして箱の奥に見える体と顔は龍の姿を模していた。
「隼人君、よく見ておくといい」
体を横に向け、自然体をとる軍神。
「これが【憤怒】の使い方だ」
そう言うや、【憤怒】の能力が発動する。
現状で体に掛けられる数値、およそ一コンマ三倍が掛けられた。
――総計ニ十回。
(は?)
倍化した肉体を、再度一であると定義しなおし倍化を繰り返したのだ。
一コンマ三倍であれば僅かな強化だが、それが二十回となれば全くの別物だ。
数値で言えば、元の約百九十倍となる。
「――宵闇」
『フゥウウウウ!』
暗い夜と巨大な怪物が両脇から迫るのを傍目に、軍神は笑い、両の槍を左右に投擲した。
衝撃波が神殿を揺らし、パラパラと塵が降る。
「ぐっ!」
衝撃で両腕が粉砕され、思わず顔を顰める軍神。
反撃が来れば致命的な隙であるはずだが、その反撃は来ない。
左上に視線を向ければ、一直線に体を穿たれた怪物の死骸が箱から垂れ落ちそうになっていた。
そして右に顔を回し、呟く。
「隼人君、【絶対反射】を持つ少女にだけは向けてくれるなよ?」
トリシューラを持っていた右腕ごと吹き飛ばされた破壊神が、唖然とした表情で自身の体に視線を巡らせていた。
槍二本の戦闘描写難し過ぎて知恵熱でそうになりました(*´▽`*)





