211話 取捨選択
おぉ! レビュー感謝です(*´▽`*)
日が昇り始め都市が順々に照らされていく時間。
軽く体をほぐして視線を上空へと向ける。
「戦闘の余波で被害がでないだろうな? 父さんがいれば大丈夫か」
その父さんは既に俺の傍にはいない。
推定Sランク以上の怪物の元に出向いているところだろう。
昨日の内に着々と事態は進行し、戦闘の被害を受けると予想される住民の避難は既に完了している。かなり派手に動いても被害はほぼなしでいける想定まで進んだとのことだ。
刻一刻と時間は進んでいく。
一度スマホの時間を確認し、丁度連絡がきた。
『作戦開始』
「始まったか」
数秒して軽く足を揺らす衝撃が地を伝う。
中国の特殊対策部隊が対応している怪物との戦闘の余波だ。ここまで衝撃が届くのだ。敵はかなりの攻撃力を秘めているらしい。
そろそろ俺も自分の役割を果たそう。
「大天使」
背から双翼が飛び出す。
数メートルの長さに開かれた翼は、波打つようにしなりながら地面を叩くと空へと大きく飛び上がった。
風を切り一直線に飛翔し、鳥の群れを越えて破壊神が待っているであろう場所へと加速する。
「おっと」
そんな俺へと迫る影が一つ。
地上から闇が蠢きながら空間を覆っていく。
空を飛んでいた鳥にそれがかすった瞬間、発狂したように奇声を上げて空で暴れ回り自分の羽を毟りだす。
(あれが聞いていた怪物か)
一見しただけじゃ実体があるかどうかは分からないな。
なにか無数の生物の集合体である可能性もある。どちらにしてもあまり正面からやり合いたくはない部類だ。
ただ、今回お前の相手をするのは俺じゃない。
闇が俺の足までほんの僅かという時、重い声が静かに空間を圧し潰す。
『落ちろ』
瞬間、闇の動きが止まり、意に反して全ての闇が地に落ちた。
視線を地上に向け、悠然と怪物へと歩む人物の姿を認めて俺は視線を外して空へと向け一気に加速した。
◇柳篤side
「二体を相手にするつもりだったんだが」
隼人に向かっていったのが一体、最後の一体はどうやらそれどころではないらしい。早朝に隼人が言っていた協力者によるものだろうか。
「手間が減るなら有り難い」
帽子のつばを指で押し上げながら怪物の元へと近づく。
黒い塵、もしくはデータがエラーを表示した時の画面のような歪みを伴いながらそれは起き上がる。
大きさは一概に大きいとは言い切れないが、攻撃範囲は相当に広そうだ。
目であろうか、闇の中から覗く双玉がバラバラに周囲を見渡した後に俺の存在を認識してピタリと停止する。
『貴様か?』
抑揚のない声が耳朶を打ち、瞬きの間に闇が迫る。
『止まれ』
眼前まで迫っていた闇が完全に動きを止めた。
ただ、怪物の体全てに効果が及んでいる訳ではなく、俺から距離が離れている場所にはそこまでの効果が及んでいない。
(やるなぁ)
今のはそれなりに強めの意思を込めた言霊だった。
格下であればこれだけで心臓の鼓動を止めているはずだが、眼前の怪物は体の一部の機能に留まっている。
体内機能が重要になる怪物であればそれだけでも大きなダメージになるが、肉体的なダメージを期待できるタイプではないだろう。
『言霊使いか。対策は講じてきた訳だ、取るに足らぬものではあるが』
止まっていた怪物の体が動き出す。
闇が鞭のようにしなりながら予測不可能な動きで地面を叩きながら空間を凪いだ。
『転移』
少し離れた建物を上に転移して怪物の様子を窺う。
「いやぁ、ブランクあけの相手としてはちょいと強かったかねえ。でも今のとこはそこまで理不尽とは思わないな」
怪物の体が広がる。体中から瞳が現れ、すぐに俺の場所が見つかる。
「おっと、『凍てつけ』」
瞬時に怪物を覆うようにして氷が生成されて巨大な氷塊が生まれる。
(なるほどそうなるか)
しかし、内部の怪物は氷塊を透過して直接俺に攻撃する。
攻撃が直撃する瞬間に横に飛び退き回避する。怪物の攻撃は建物に当たり壊れた屋根の部材が飛び散った。
実体がないとはこちらからの接触ができないということかと納得する。
だが、逆に怪物のほうからこちらの次元へ行う攻撃は当たるらしい。
「ワンマンゲームだな。一方的な遊びは友人に嫌われるぞ?」
友人がいそうな面ではないが、と冗談を考えている中で視界の端で先程破壊された瓦礫が不可思議な動きをしているのが見えた。
瓦礫は宙で震えながら滞空し、一斉にその動きを止めたかと思えば銃口から射出される弾丸の如く一直線に俺の元に。
『止まれ!』
咄嗟に瓦礫の動きを止めようと試みるが、僅かに能力の操作が甘く、加速する瓦礫が頭を傾けた俺の頬を掠りながら背後の地面に激突する。
背後を振り返れば、大きく屠れた地面が目に入った。
冷や汗を流しながら一つ確信する。
「おいおい、あの怪物の能力は精神操作なんかではなく――」
『そのような低級のものと同列だと思われていたとはな』
背後、視認を諦め言葉を吐き出す。
『失せろ』
前方に回転し地面に着地ながら背後に目を向ければ体の一部を消失させた怪物の姿が映る。
『無駄だ』
消えた体を補うように闇が増幅する。そして怪物が地面に降り立った瞬間、
「おおぅ・・・・・・マジか」
地面が隆起する。
土が、アスファルトが、草木がその姿を歪め武器となしその切先を俺へと定める。
「お前の能力は、触れた存在のバグを操作する『世界襤褸』か・・・・・・!」
えっぐい能力持ちがでたもんだ。
触れた存在の法則を崩して自分の都合のいいように操る事ができる能力。
地面を自由に動かし、空気を息もできぬ毒素に変える。
欠点としては存在に触れなくては能力が発動できない点だが、あの巨体ではその欠点はあまり意味を成していないように見える。
「ちッ」
――来る。
直感と同時、空間を覆う質量の暴力が吹き荒れる。
『爆ぜろッ!』
重心を落し後方に下がりながら襲い来る攻撃を吹き飛ばす。
爆炎の中を潜り抜け、一度距離を取ろうとした時、煙の中から巨大な手が現れる。
「ちょッ?! 『障壁』!」
巨大な手が障壁に叩きつけられた衝撃で体が宙を舞う。
「・・・・・・オーマイガー」
上空で体勢を整えながら見た眼下は、都市としては終わっていた。
怪物が己が闇を広げていき、触れた個所から家々が動き出し兵器と化している。
家族との思い出が詰まっている大切な場所がああなってしまった事実に眉間に皺が寄っていく。
僅かに感情が乱された間、ふと上空にいる俺の周囲に影が生まれた太陽を雲が隠したのかと思ったが、明らかに異常な影の動きに上空へと視線を上げれば、
「やべ」
人の形を成した超高層ビルが宙に飛び上がり、拳を振り下ろしている最中であった。
「かっはっ・・・・・・?!」
能力を発動しようと口を開くが思うように声が出ない。
恐らくはここら一帯の空気が既に奴の手中ということだろう。
ビル巨人の一撃をまともにくらい地面へと叩き落とされる。
・・・・・・
「流石に・・・・・・無理か・・・・・・」
視界が赤く染まる。
地面を揺らす振動が伝わる。
俺を殺す為の殺意の音が響き渡る。
いつもそうなんだ。全部を守ろうとして、それがほぼほぼ不可能である事実に道を塞がれる。だからギリギリで取捨選択をすることになる。
顔を横に向ければ、小さな人形が見える。
子供の人形だろう。両親に貰ったのか、祖父母から貰った大切なものなのかもしれない。
「ごめんな」
俺を囲んだ兵器達が一斉に飛び掛かる。
――跪け。
全ての兵器がその場で地に沈む。
『消えろ』
そして、消えた。
俺を中心とする半径五百メートル内の全てが。
残るのは、俺と、平坦な地面のみ。
血で濡れた髪を両手で後ろに流し、軽く息を吐く。
「さっさと終わらせよう。隼人の元に遅れるわけにはいかないからな」
全てを救う事はできない。取捨選択は済ませた。
風呂上がりに感想返信させていただきます(*´▽`*)
中々パンチの効いたのがチラ見えしちゃったw





