209話 最悪の可能性
父さんと合流した後、西連寺さんの能力で転移したのはカイラス山の麓にある村である。
周囲を山々に囲まれた場所で想像していたよりも寒い。標高がかなり高い為だろう。
視線を巡らせれば村の一角に急造されたであろう建物が見える。
「あれは調査チームとかその他もろもろの拠点だね~ 医者や研究者が常駐してる。近くでBランクの怪物が出たって事だから多分ここにも特殊対策部隊がいると思うんだけど」
「幾つかは成果が出たんですかね?」
現場の人物に現状を聞こうかと考えていると、丁度建物から一人の男性が出てきた。
こちらに気付くと、少し驚いたように口を開けた後に笑みを浮かべて近づいてくる。
身長の高い男性だ。およそ百九十はあるだろう。天然パーマの散らした髪と薄い目が特徴だ。それに加え口角の上がった笑みを常に浮かべているため、失礼ながら胡散臭いように見えてしまう。
「これはこれは。絶対者、柳隼人さんですね。こんな場所にご足労頂きありがとうございます」
「いえいえ、任務なので。それよりもあなたは?」
「私の名は武浩然。特殊対策部隊の戦闘員でリーダーのようなものをやらせて頂いています」
ということはこの人が中国のナンバーワンか。
たしか中国も特殊対策部隊の数は多かったはず。それらをまとめ上げているのなら確かな実力者であるに違いない。
「浩然っちおひさ~」
「お久しぶりです西連寺さん。足替わりにして申し訳ない」
「いいっていいって~ それよか任務頑張ってね。うちは隼人っちを連れてくる事しかできないから」
「それだけでも非常にありがたいです。それで、そちらの御仁は?」
誰何された父さんが一歩前に出て頭を下げる。
「隼人の父の篤です」
武さんは眉を少し動かして口元に手を持っていく。
おそらくは一般人が気軽に足を踏み入れられる任務ではないからだろう。まあ、魔女のハートを射止めたこの男が一般人であるはずがないのだが、それを彼が知っているはずもない。
「大丈夫ですよ。何かあれば俺が動くので」
「ほう、流石は絶対者。存分にそのお力に頼らせて頂きたいですね」
一応の不安は無くなったようで、父さんと握手を交わしてまた少し不気味な笑みを浮かべる。もしかしてなにか企んでいるのではと思う程だが、隣の西連寺さんの可哀そうな人を見る目を見て、もしかしてこれが武さんなりの友好の笑みなのかもしれないと思った。
まあ、それは一度置いといて。今は聞きたい事が一つ。
個々からでも見えるカイラス山の上に存在する物体を指さす。
「あれが例の物体ですか」
「はい。とはいえ柳さんへの依頼は出現したBランク以上の怪物三体の討伐ですね。上としてはまだ金のなる木に成りえる可能性を秘めているものには手を出して欲しくはないということでしょう」
上は、か。現場の声は異なるということか。
「少し場所を移動しましょうか」
そのまま四人で移動してテントの仮設の建物の中に入る。
西連寺さんはすぐに帰るものだと思っていたが、少し観光してから帰るつもりらしく、ついでに任務についても聞いて可能なら少し手助けもするかもとのことだ。
出されたお茶で喉を潤した後に質問する。
「武さんの意見としてはあの物体は破壊した方がよいという判断なのでしょうか」
「ええ。あれに手を出すにはあまりにも天秤が釣り合っていない」
遠回しに肯定されるかと思ったが、直球の意見がきた。判断に迷いが生じないなにかを既に体験しているか、こちらに回されていない情報があるのだろう。
「調査チームの証言です。三体の怪物、当然その様相と能力を尋ねました。生き残った調査チームは感情が喪失したように項垂れていましたがなんとか語ってくれた。一人が最初に言いました――三体全てが言語を解したと」
言語を介するほどの知能を持った怪物。今までのデータから考えれば三体全てがAないしはSランクの力を持っているということだ。
国を揺るがすほどの怪物が三体。
なるほど、確かに天秤が釣り合っていない。絶対者であればまだしも特殊対策部隊にSランクが三体ぶつかれば勝率は四割程度であろう。
以前俺が高宮家の護衛に付いた時もSランクの怪物が複数現れたが、それと同程度か。
「ただ、怪物にも特色があります。相性がよければ私どもでも対処は可能だと思ったのですが・・・・・・流石に実体のない怪物はどうにもならない」
「実体の、ない怪物?」
は? なんだそれは。
実体がない相手に通用するような攻撃なんてほぼない。ヨグ様案件じゃないか。というか・・・・・・
「それ、本当にSランクですか?」
「・・・・・・上はBランク以上であるという見解を崩しませんが。最悪は五体目であることも視野に入れる必要があるでしょう」
まじかぁ・・・・・・
SSランクが次々に討伐されたから危機感が薄れたのか。正直【黒騎士】クラスはきついぞ。負けるとは言わないが都市がいくつか消える事は覚悟して欲しい。
オーストラリアの被害があの程度で収まっていたのは【黒騎士】があの場から移動しなかったからだ。あれが能力をフルにして攻撃していたなら今頃国の半分は国旗が消えているだろう。
「その実体のない怪物の能力だけ少し情報があります」
武さんは懐から何枚かの写真を出す。
かなりブレているが、その怪物との戦闘時の動画の一部を写したものらしい。
遠くに靄のような、それでいて実体があるようにも見えなくもないなにかがある。
手前には調査チームの姿があり、怪物と対峙して・・・・・・
「あれ?」
よく見れば調査チームは怪物と対峙していなかった。
メンバー同士でなにやらもつれ合っているように見える。
「気付きましたか? 彼等は自分達で攻撃し合っているのです。調査チームのことがどう伝えられたかは分かりませんが、彼等の死因は仲間割れによる殺人、そして自殺です」
えぐいな。十中八九精神系の能力だろう。
問題は範囲と影響力だが、一部のメンバーが生きて帰ってこれたなら範囲は思ったより狭いのか?
「ちなみに動画を見る事は?」
「すいません。敵の声または映像でもどこかの部分で精神が汚染される可能性を考慮して既に動画は処分されました」
「そうですか。誰か動画を見た人はいますか?」
「ほんの数名程ですが。現状彼等に異変はありません」
まだ油断はできないか。
遠距離から狙い撃ちすればなんとかなるだろうか。ただ、まだ二体の怪物が控えていることを考慮すればあまり短慮な行動はできないか。
「あと、これはよく分からないのですが。調査メンバーが逃走している際に『センテイシャを連れてこい』と言っていたとか」
「・・・・・・」
思わず動きが止まる。
俺の存在を、いや神に選ばれた人間がいることを認識しているだと。
「あの、どうかしましたか? 顔色が悪いですよ」
「ああいえ、なんでもありません。妹の厄介な寝相を思い出していただけです」
生き残った調査チームのメンバーは俺をおびき出す為の餌か。
誘っているんだろうな、あの山の上空に。
俺が手をこまねいているなら三体の怪物が民間人を殺しまくるって感じだろうか。それもただの怪物じゃない。SSランクの可能性がある怪物だ。
「おいおい顔が暗いぜ」
でこを軽く押されて視線が上を向く。
隣へ向ければ父さんが微笑を浮かべている姿が視界に入った。
「なあに、怪物に関しては中国の特殊対策部隊の人達も当然戦うんだろう?」
「勿論です。気持ちとしては私共だけで全ての怪物を討伐するつもりですとも」
「ほらな。お前まさか全部一人でやろうとか考えてるんじゃないだろうな? 狭い狭い、視野が狭すぎる。周りのもんは使ってなんぼだ」
俺よりもでかい手が頭に乗せられて少し乱暴に撫でる。
「ちょ、ちょい・・・・・・」
「守ってばっかじゃただの一方通行だ。実は気付かないだけでその道はもうちょい広いはずだ。まっ、ちょいと経験が足りないかな」
頭から手をどけた父さんはいつもとは違う光を宿した瞳で俺を射抜く。
「後はまあ分かるだろ」
――俺がいるから安心しろ。
言葉にされずとも分かる。
俺が誰の背中を見て育ってきていると思ってるんだ。
帝王は伊達ではないのだ(>_<)





