204話 箱
年末。
朝、昼をなんとなくで過ごし気付けば夜。
「柳隼人、貴方はこの頃だらけ過ぎですよ」
エプロンを身に着けたシャルティアさんにお叱りを受ける。
どうやら母さんに貰ったものらしい。全体的にふわふわしているのに筆記体で書かれた名前が無駄にカッコいい。
「あはは、すいません。年末はなんとなくやる気が出なくて」
「普段の生活が実戦に影響することもあるのです。そんなことでは足元を掬われてしまいますよ? まあ、貴方はまだマシな方ですが」
視線が移動する。
その先にはソファに寝転がっているソフィアさんと蒼がいた。
蒼がソフィアさんに抱き着かれた状態で巨大な枕に頭を預けている。
なにやら白いお花の幻覚が見えて大変素晴らしい光景だが、シャルティアさんには不服のようで彼女の額に怒りのマークが見える。
「柳蒼はいいとして、そろそろあの惰肉にはなにかしらの制裁が必要かもしれませんね」
「だ、惰肉・・・・・・」
相当頭にきてらっしゃるご様子。
どこかでストレスを発散して貰わないと、いずれ家が血の惨劇になるやもしれん。
「まあまあ、そんなに怒ることもないじゃない」
手を拭きながら母さんが台所から姿を現す。
「しかし・・・・・・」
「彼女がああしていられるのはそれだけ世界が平和ってことよ。せめて、束の間の休息はとらせてあげないと、ね?」
「分かりました。家主がそう言うのであれば、否はありません」
いや、束の間の休息て(笑)。
そんなフラグみたいなこと言っても無駄です~ 俺はもうそんな虚言に騙されたりはしません~
まあとりあえず遺書は書いておこうか。なあに、ビビってる訳じゃない。数十年後に書くであろうものだからな、なんとなくその練習をしたくなっただけだ。
「・・・・・・テレビでもみっか」
気分転換にと、リモコンを操作してテレビの電源をつける。
丁度流れているのは歌合戦だ。
可愛らしいアイドルが元気に踊って歌っている。
ツインテールの少女でかなりドストライクな見た目をしている。
(だけどこういう娘ほど怖かったりするんだよな)
完全な偏見だが、芸能界の闇ニュースなんかを見ているとそう思ってしまうのも仕方ないだろう。これで中身まで見た目通りであればこの少女を創った神は随分と入れ込んでいたのだと思わざるをえない。
「アイドルってすげえな」
少しだけ胸が軽くなった気がする。
もふもふ動画の半分ぐらいの効果はあるだろう。ああ、サリーに会いたくなってきた。
「んぁ?」
「あっ、悪いちょっと音大きかったか」
蒼がうっすらと目を開けて視線を彷徨わせる。
そして目の前の山脈で止まると、むぎゅっと顔を埋めていく。
「す~は~す~は~」
「おいやめろ。俺に血涙を流させるつもりか」
「私は今疲れてるの。だからこれは必要なことなの。お勉強はとっても辛かったの」
蒼は学校から出された宿題を今日で終わらせたらしい。
しかし、以前の学校と比べ密度が大きかったようで友人の家まで行って一緒に終わらせたんだとか。
久しぶりに嫌な響きの単語を聞いて俺も長期休みの地獄を思い出した。大体休みが終わる一週間前に本気でやるんだが、残り一日って時に終わってない宿題を新たに見つけた時の絶望感といったら、SSを二体相手どるのと同等ぐらいだ。
「渚ちゃんがいなかったら年越しまで勉強するはめになってたよ・・・・・・今なら渚ちゃんと結婚できる」
「渚ちゃん? ああ、東雲家の」
確か控え目な性格の女の子だったような気がする。
以前にあったのは俺が一度学校に戻った時、霧の魔物と対峙する前だ。
そう言えば、蒼が襲われた時にもその子がいたと言っていた。
・・・・・・一度あっちの親御さんに挨拶した方がいい気がしてきたな。思い返せば柳家というか、俺ら兄妹に滅茶苦茶迷惑を掛けられている。
「権力者へのお土産ってなにがいいんだ?」
「お土産なんてなんでもいいでしょ、気持ちが籠ってるなら。ふぁぁ~ 眠ぃ」
ソフィアさんの腕から抜け出した蒼は体を伸ばしながら、テレビに視線を向ける。
「うわっ、めちゃカワ」
「歌番組も賑やかになってきたよな」
今日は完全に活動する気がないようで、呆けた顔でテレビに釘付けの蒼を他所に俺は香ばしい匂いに釣られて台所に顔を見せる。
「あら、お腹空いた? もう出来たから運んじゃって」
器に分けられたものを見る。やはり年越しだからか今日の夕飯は手打ち蕎麦のようだ。
人数分を手早く机に並べていく。
できればキャロルさんもと誘ったが、残念ながら今日は無理らしい。
脳が半分起動していない蒼を持ち上げて椅子に運び、ソファで寝ているソフィアさんを毛布でくるんだ状態で机に運ぶ。
「それじゃいただきましょうか」
シャルティアさんが捏ねた(もう一人は除く)手打ち蕎麦を箸で掴む。
「ふむ」
あの美しい手で丹精に捏ねられた蕎麦か。
『よいしょ、よいしょ! ふぅ、柳隼人の為に頑張ります!(脳内ロリシャルティアさん)』とか言いながら精一杯作ってくれたに違いない!
食べ物でなければ確実に保管しているであろう国宝を口に運ぶ。
「おっ、美味しい」
「うふふ~ シャルちゃんが頑張って捏ねてくれたのよ」
やはり! ここで作ったのは私よとでも言われていたら顔から表情が抜け落ちるところだったぜ。
「想定より均一に仕上がっていないので私としては少し不満なのですが」
「いやいや、十分美味しいですよ!」
蒼と父さんも頷いているしソフィアさんも寝ながら食べる程だ。
『年越し後五分! 皆さん盛り上がっていきましょう!』
テレビから代わる代わる熱い歌声が聞こえてくる。
やはり年越しの醍醐味と言えばこのカウントダウンだろう。今でこそ後数秒で一年が終わり新たな年が開くんだなぐらいにしか思わないが、初めてのカウントダウンは訳も分からず盛り上がったのを覚えている。
「隼人は来年なにしたいの?」
「なにをしたいってのはあまりないけど、まあ取り敢えず平和な年にしたいなって感じ。この一年は色々とあり過ぎたんだよ」
そうだ、今年の不運は来年の幸運のためのものだったんじゃないか。
そう考えれば全てに納得がいく。全ての生物に一様の運が訪れるというのなら、俺の幸運は途轍もない規模になるだろう。
もしかしたら恋人ができてウハウハな時を過ごしてバレンタインやらクリスマスを一緒に過ごして、あわよくばキスまでいってしまうのでは?
「ふ、ふふふ」
「あらあら、ご飯を食べる手が止まってるわよ?」
「お兄ちゃん気持ち悪い」
おっと、少しピンクな妄想をし過ぎてしまったらしい。
ここは気を引き締めていかないとな。イイ男には優しい彼女ができると言うしな。俺は包容力のあるおっとり系彼女が欲しい!
『後十秒です! ・・・・・・五・四・三・二・一!』
バーンと派手な演出が行われて新しい年、マイスペシャルイヤーが迎えられた。
(ふふっ、ふははははっ! ん・・・・・・?)
高笑いをしそうになるのを堪えていると、テレビ画面の上に速報のテロップが流れているのが目についた。
『カイラス山上空に謎の巨大な箱状の物体が出現。現在調査隊を編成中――』
「・・・・・・ハム。アア、オイシイナ」
「お兄ちゃ・・・・・・」
「早く風呂に入って寝ようかな! 初夢はいい夢が見れるはずだ!」
何故だ、涙が止まらねえ。
投稿ですわ~! 事態が動きましたわ~! 隼人号泣ですわ~(*´▽`*)
笑いたい時壱百満天原サロメさん見てみて下さい。笑えます





